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私の大腸がん体験記13-検査と判決

 盲腸の癌を摘出して3か月、ついに最初の検査の日がきた。退院してからというもの職場の理解もあり、残業はしなくなった。心の平準を保つために意識したのは次のとおり。
①職場では嫌な人に近づかない。
②土日は長女のテニスの試合と長男の野球の追っかけ。
③夫婦喧嘩をしない。
どうも最近、涙もろくなった。病気前はそんなことはなかったが、息子が少年野球の試合でチームを救う逆転のツーベースヒットを打った時、思わず感動して涙があふれた。自分のこの複雑な感情はうまく説明できないが、心がまだ弱っているのだろう。反対に息子の野球の追っかけは自分の励みにもなった。きっと転移は無いと信じ検査に臨む…

 病院に着き、バーコードを自動受付機にかざすと検査順序が印刷された紙が出てくる。非常に効率化されたシステムだ。指示通りに血液検査→レントゲン→造影剤付きCTスキャン→エコー→診察となる。
 いつも感心するのは血管の見えにくい私の腕でも一発で決める。すごい技術だと思う。入院中、病室の看護師さん達が何回も失敗しているのに、検査の看護師さんは100%成功する。ここでは造影剤を入れるための軌道も確保してもらう。造影剤が血管に入るとき、体が一瞬でカッと熱くなる。2回目なのでさほど驚かない。
 一番苦手なのが、エコーだ。自分は極度のくすぐったがり屋でいつも難儀する。手術前の検査でも身もだえすぎて検査技師さんに怒られたほどだ。中学生の頃、先輩に羽交い絞めにされ「好きな人を言え!」とくすぐられ思い出がトラウマとして蘇る。

検査技師:「いい加減にしてください!検査になりませんよ!」
私:「すいません。くすぐったがりなもので!」
とは言っては見たものの我慢するとかしないとかの問題ではありません。我慢できないものは出来ない。

次はいよいよ診察、結果発表だ。待ち時間があるので病院内の食堂へ
もちろん、食欲など湧いてくるわけもありません。箸が進まずため息を立ててると妻から励ましの言葉。
妻:「大丈夫よ!手術してまだ3か月よ」
私:「そうだな!俺の癌は進行が遅いタイプだから今日は多分大丈夫だな」
などと自分に言い聞かせる。

診察室前の長いすで妻と待っているとマイクで呼び出しがある。ドキっと心臓がなり、まるで判決を受けるような気分だ。
先生:「じゃ、ここに横になって傷口を見せてください」
私:「・・・・・・」
先生:「傷口は順調ですね。では検査結果を見てみますね」
心臓がバクバクしている。CTスキャン、エコー、レントゲンの映像がディアルディスプレイの大きなモニターに映される。分かりもしないのに私も一緒にモニターをのぞき込む。血液検査の数値のもう片方のモニターに出ている。腫瘍マーカーの値が気になるが、見つけることができない。

先生:「んー大丈夫ですね。次回また3か月後の検査ね。」
と安心するようなニコニコ顔で私に話す。
私:「よかったーぁ」
先生:「ストレスためてない?」
私:「嫌な人には近づかないようにしています。」
先生:「そりゃいい。ははは」
私:「転移はないということですね。」
先生:「ないですね。」
私:「ありがとうございます。」

病院を出ると急にお腹がすいてきた。

つづく



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