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私の大腸がん体験記10

術後4日目、前日尿管を抜いたおかげで尿道がまだ痛い。珍しく朝一に主治医の先生がやってきた。
主治医:「術後の経過は非常に良い、炎症反応も落ち着いたので、ドレーン取りましょう」
私:「痛いですか?」
主治医:「安心してください。痛くありませんよ(笑)」
にこやかに話す。なぜかこの主治医の先生の話し方は安心できる。
主治医:「ドレーンを外すととても楽になりますからね。研修医と一緒に来ますね」
私:「わかりました」

ドレーンはお腹に2本刺さっている状態だが不思議と痛くない。そこから血の混じった体液が袋に入る仕組みだ。その体液を調べると炎症状態がわかるらしい。その後、研修医らしい若い女性が、主治医の先生と一緒にドレーンを抜き傷口のお手入れをしてくれた。ちょっとビビったがなぜか痛みは感じなかった。

ドレーンが抜かれると先生の言うとおり楽になった。あれほど嫌だった歩行訓練もつらくない。小学3年生の下の娘が私の手を握り一緒に歩いてくれた。とても幸せな時間だ。なんとか大腸がんを克服し、この子が成人するまで生きなければと思った。

痛みも落ち着いてきた。普通の生活では無理な体制にならなければ問題ない。ただ、突然の咳や馬鹿笑いは禁物だ。大好きなお笑い番組は見ないようにしている。笑いと咳は傷口に響いてとても痛い。

この日、大部屋に移ることになる。個室は広く快適だったのだが痛みであまり楽しめなかった。しかし、個室のおかげで妻が泊まり込んで看病してくれたおかげで精神的にはよかった。大部屋には胃がんと大腸がん患者で私を含め4人。面白いことに同じ病気だと変な仲間意識が芽生える。互いの病状を話し変な一体感がある。
特に向かいのベットの男性は同年代で同じ大腸がんだった。同じステージ(3b)ということもあり、その男性とはよく話した。

男性:「何人子供いるんですか?」
私:「3人です。」
男性:「私も同じです。仕事は?」
私:「団体職員です。」
男性:「いいですねぇ。安定していて!」
私:「そんな事ないです。多分、2か月丸々休まなければならないので冬のボーナスは期待できません。」
男性:「私、ボーナスなんてもらったことありませんし、病気になって仕事辞めました。」
私:「・・・・・」
男性:「現在無職なので、何回も医事課の人が医療費の支払い大丈夫?って聞きに来ます。いくらかかるんでしょうね。」

現状を考えると私は恵まれていると思った。元気な時は「給料安い!」といつも職場の同僚とディスっていたが、こういった病気になると私の職場はたのもしいと実感した。私の会社では総務の職員が親身になって様々な手続きをしてくれる。医療費も確か高額医療で月額マックス7万円位と聞いている。しかも職員会などの制度であとでほとんど戻ってくるので正直、今回の入院でお金の心配はしていない。手術・入院共済というのに入っていて十分な共済金ももらえる。病院側もそのことを知っているのだろう。医事課の人がこれまで私のところに来たことがない。これまで健康には自信があったのでそんなことほとんど考えたこともなかったけど、向かいのベットの男性は、いつも医療費の事を気にしていて。実際に何回も医事課の人と話をしていた。

でも決して他人事ではない。私の場合も手術で目に見える癌が取りきれた言っても今後、転移ということになれば、長期戦に突入する。そうなった場合、どこまで今の職場がサポートしてくれるか分からないし、仕事、生活費、医療費、子供の養育費、今後の妻や子供たちの人生を考えると本当に恐ろしい。

つづく






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