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【3日目】増やすモトあつめ、減らすモトあつめ(カンジョウのトリセツ)

◆世話を焼きたくなる、という「カンジョウ」

 では前回に引き続き、赤ちゃんのお世話を「したくなる」心理とは、どのように起こるのか? をくわしく見てみましょう。

 まず、泣いている赤ちゃんを見た大人が、赤ちゃんのお世話をして赤ちゃんが泣き止み、そして安心感に包まれてすやすや眠ったり、嬉しい気持ちでキャッキャと笑ってくれたり……そういう姿を見ます。するとお世話をした大人も「安心感」「満足感」を得ることがあります。

 このときのモトの動きとしては……まず、赤ちゃんが世話をする大人に注目し、こちらにモトを送り返してくれているから、大人のモトが増えている、というのもひとつあります。とはいえ、赤ちゃんはモトを減らしているわけではないんです。
 なぜかというと、赤ちゃんが信頼できる大人に世話をされ、不快感が取り除かれた喜びで、ココロのモトを「自分で増やしている」のです。ですから、赤ちゃん自身は「モトが減って不快になる」(=好き嫌いゲージが下がる)ペースよりも、「嬉しい気持ちで自分のココロがモトを増やす」(=好き嫌いゲージが上がる)ペースのほうが早くなり、結果として、ココロのモトの総量が増えていきます。そして余ったモトを大人に送り返しているので、大人に注目して(モトを送って)いても、笑うのです。

 そしてもう一つ。大人も「愛着のある赤ちゃん」が喜んでいる姿を見て、自分の好き嫌いゲージを「好き」の方に動かして、モトを生み出していきます。だって「好き」なんですから、当然好き嫌いゲージが上がるんです(好き=好き嫌いゲージが上がる=モトが勝手に増える)。結果として、大人のコココでも「嫌い<好き」となり、モトが増えていきます。

 ですから、世話をする大人、世話をされる赤ちゃん、両方のモトが増えて、どちらもいい気持ちになるわけです。

 これはいわゆる「二番目のモトあつめ」の状態ですよね。赤ちゃんのお世話を「したくなる」人というのは、このような場で「二番目のモトあつめ」ができることを、無自覚に「アタマ」で理解しているのです。

◆会話と「二番目のモトあつめ」

 こういう形での「モトあつめ」は、赤ちゃんと関わるときだけでなく、もちろん大人どうしでも起こります。初級編でもふれましたが、たとえば親しい友人と楽しくおしゃべりをしているとき。こういうときもその場で「二番目のモトあつめ」が行われています。

 「誰かと話をする」というシチュエーションでは、どういうふうにモトが動いているのかというと、基本的には「やりとり」なんでしたよね。誰かが話す、聞き手がそちらに注目する、話している方に聞いている方のモトが移動する。こういうメカニズムなんでした。誰かにちゃんと話を聞いてもらえたときって、いい気持ちになるでしょう? それは聞いてくれている人からモトが入ってくるからです。

 こんなとき、聞いている人は「モトが減る」はずです……相手に飛ばしているんですから。でも、会話を「楽しむ」ことってできますよね? これはなぜでしょうか。

 それは、話を聞いている側が「二番目のモトあつめ」をしているからです。
 相手の話が面白い・興味深いとき、または相手に愛着があり、その様子(元気だなぁとか、健康だなぁとか)を見ていて楽しい・嬉しい気持ちになっているとき……そんなときは、聞いている側にも「好き」という気持ちが起こります。それはつまり、好き嫌いゲージが「好き」側に動いているということです。
 ゲージが好き側に動くということは「モトが増えている」ことを表していますので、この場合は「話者に注目してモトが取られているにも関わらず増えている」という現象が起こっていることになります。これが「二番目のモトあつめ」なんです。

◆二番目のモトあつめと「空間のモト」の総量

 世の中を見渡してみると、大抵の場所で「一番目のモトあつめ」が行われています。家族の間でもそうですし、学校や職場で、クラスメイトや同僚、先輩や上司、先生や顧客と話しているときというのは「やりとり」でモトが動きます。やりとりなのですから、一方的に減らされてしまうこともよくあるはずです。こうしてモトが減ると、必然的に好き嫌いゲージが下がり、ちょっとしたことでイライラしたりムッとしたりしてしまいます。逆に、相手をイラつかせてしまったり、怒らせてしまったりということもあるでしょう。一番めのモトあつめの現場では、そういうシチュエーションはしょっちゅうあります

 そんなときに、親しい相手に愚痴をこぼすとスッキリするものです。それは「聞いてもらえる」からモトが入ってくる(相手に注目される)というのもありますけど、そういうあなたの様子を「好感をもって」見ている相手もまた、自分のココロでモトを増やしているのです。
 ときには立場が逆転して、あなたが続けて相手の愚痴を聞くこともあるでしょう。その時はさきほどと逆に、あなたが増やしたモトを相手に「注目」して分け与えているのです。

 こうして「やりとり」だけでない「二番目のモトあつめ」が行われた結果……その二人がいる空間の

「モトの総量」

が増えていきます……ココロが空間にポコポコとモトを生み出しているんでしたね。ちょっと不思議な話だと思うんですけど(この現象にも理由・理屈がちゃんとあるのでしたね、エキスパート編でみっちりお話します)、こうして、人と人が楽しく過ごしている場では「空間全体のモトの総量」が増えているんです。こういう場所では「なんだか居心地が良くなる」という体験をするはずです。経験ありませんか?

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 それでは……もっと人がたくさんいる場所で、この「二番目のモトあつめ」が行われると、どうなるのでしょうか? 丁度いい例がありますので、次はそれをひもといてみましょう。

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「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)