こどもの学習過程と、UI設計におけるモデルのテスト
こどもは世界を理解する時に、モデリングを行います。その学習過程で、モデルが思い通りにいかないときテストを行います。そのテストは大人でも行いますが、こどもがモデルのテストを好奇心を持って行うかわりに、大人は不快感を覚えてしまうようです。
モデルが思い通りにいかない、ということを利用者が経験する前に、設計者がそのテストを行う必要があるのではないかと思います。
こどもの好奇心サイクル
『The Curiosity Cycle』という本で紹介されている、好奇心サイクルについて。好奇心サイクルは、子供が知識をどのように構築するかを理解するためのフレームワークです。
好奇心サイクルに登場するのは、大きく「概念」「モデル」「テスト」です。
「概念」は感覚的な経験から来るピースのようなもので、例えばドアノブ。「モデル」はそれらのピースを繋ぎ合わせて見えてくる有用な情報で、例えばドアをどう開けるかというもの。「テスト」はモデルがどのように働くかを試すもので、いろいろなドアを開けてみてどのような時にドアは開く/開かないかを試すものです。
概念:Concepts
例)ドアノブ
モデル:Models
例)ドアをどう開けるか
テスト:Tests
例)ドアが開くか開かないかを試す
こどもたちは、新しい概念を、モデルを構築したりテストすることで学んでいきます。モデルは、ある物事がどのように動くかと言うことの説明、つまり「ドアノブをひねると、ドアが開く」「雨は道路を滑りやすくする」といったことです。
この時、環境を観察しながら答えを探します。時々モデルは通用しますが、モデルは常に通用するわけではありません。通用しないモデルを発見したとき、こどもは新しい概念を学ぼうとし、その過程でモデル自体も信頼のあるものになります。
好奇心は不完全なモデルから掻き立てられます。なぜこうならないのだろう? 不完全なモデルは、新しい概念を形作ったり、すでにあるモデルをアップデートするのに役立ちます。 それぞれのモデルは「このシチュエーションでそのモデルは通用するか?」と言う質問を投げかけ、モデルをテストします。
モデルは、「世界がどう動いているか」という物事を理解するための根本となるものです。
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不完全なモデル
こうしてテストを繰り返しモデルの完成度を高めていきますが、世の中には取っ手のついたドアでも開かないドアはありますし、四角いプレートがついていても押せないドアはあります。
大人になっても、モデルが完全になることはなく、不完全なモデルに遭遇することはあります。
設計者が提供するモデルと、利用者のモデルが不一致を起こすとそのモデルが「不完全なもの」となります。D. A. ノーマンは『誰のためのデザイン?』の中で、良いモデルがない時には、人はやみくもに操作しなくてはならなくなると書いています。
子供のようにモデルの構築が進んでおらず、好奇心がある段階では、不完全なモデルはより良いモデルを構築するための原動力となります。
しかしモデルのテストが繰り返され、ある程度信頼のあるモデルが構築されている場合には、不完全なモデルを不快なものと感じてしまうのだと思います。
概念モデルは、理解を助けたり、モノの動きを予測したり、モノが予定通りに動かないときにどうすればよいのかを知るのに役に立つ。良い概念モデルがあると、自分の行為の結果を予測できるようになる。良いモデルがないときには、機械的にやみくもに操作しなくてはならなくなる。言われた通りにしかできない。(中略)でも、なにかまずいことが生じたり新しい状況に直面した時などには、より深い理解、すなわち良いモデルが必要になる。
ー D. A. ノーマン『誰のためのデザイン?』
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モデルをテストすること
設計者と利用者のモデルに矛盾があれば、利用者はモデルを再度テストしなければいけません。利用者側が学習をしなければいけず、使いづらいものになってしまいます。
Knowing that you might be wrong is the first step toward undoing an assumption and finding the right solution to a problem.
ー Jonathan Mugan『The Curiosity Cycle』
「間違っているかもしれない」と思うことは、問題に対する正しい答えを見つけるための第一歩となります。
「不完全なモデルであること」利用者側が検知する前に、それが間違っているかもしれないという前提に立って、設計者側がテストを行う必要があるのだと思います。
画像:『Norman Doors: Don't Know Whether to Push or Pull? Blame Design.』
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