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これからの広告制作のあり方

ここ2年ほど、企業の広報宣伝部や広告代理店、制作会社、時には大学からの依頼で、タイトルにもある「これからの広告制作のあり方」や「現代の広告コミュニケーションとは」というテーマでセミナーや講師依頼をされることが増えてきました。

日本のトップ企業の方々、広告制作の現場、また学生たちが行き場に困り本質を見失っている状況であることを危機とした時に、この状況を少しでも改善していくべく、改めて僕の見解をまとめましたので興味のある方は是非ご覧ください。

広告制作の現場に向けた内容にはなりますが、考え方や捉え方は広告業界のみなさまに当てはまると思います。

広告市場における媒体構成比

2018年度における、日本の総広告費は前年比102.2%の6兆5300億円で、2012年以来、7年連続で前年実績を上回りました。
マス媒体については、前年比96.7%の2兆7026億円で減っており、プロモーションメディア広告費も、前年比99.1%の2兆685億円で微減しています。

そして、インターネット広告費(媒体費+広告制作費)は、前年比116.5%の1兆7589億円と、5年連続で2桁成長を遂げています。
その額は、地上波テレビ広告費の1兆7848億円に迫る規模です。
(出典:2018年 日本の広告費/電通)

電通が2001年に上場して以来、初めて赤字に転落したというニュースも記憶に新しいのですが、上記の数字が何を意味するか...

業績低下の原因

すでにお分かりかとは思いますが、上記のように日本の総広告費は増えているのに対し、マス媒体の売り上げが減っている現状において、
業績低下の原因としては、マス媒体にまつわる紙モノのグラフィックやCM等の映像制作が主な従来型の広告コミュニケーション手法と売り上げ構成でビジネスをしている広告業界は年々業績が厳しくなってくるのは当然の結果と言えます。

広告制作の経営層からはこのような声がよく聞こえてきます。

・AE(営業)やプロデューサーの数字意識が低い!
・キーマンへの営業努力が足りない!
・もっとソリューションを提供しろ!
・バズるアイデアをもってこい!

どれも決して間違いではないのですが、僕的にはどれも付け焼き刃でしかないと思っています。

上辺だけの是正や改革ではなく、各プレイヤーの根本的な意識が変わらなければ、多少きつめに上長や経営層から言われ、それぞれに危機感をなんとなく抱いたとしても、自発的で能動的な気づきがない分、意識改革が行えないので行動が変わる事もなく、売り上げの改善、向上には貢献しないでしょう。

これは、営業やプロデューサー、クリエイター各々の努力的な問題という解を求めがちですが、努力という抽象的な問題ではなく、年次、役割、役職に限らず、今のこのデジタル時代を激動であり、変革であり、生き残りであると捉え直し、広告業界に身を置くいちクリエイターとしてどうコミュニケーションやクリエイティブに向き合うかという問題であると僕は思っています。

その意味で、問題は局所的なところにあるのではなく、プレイヤーや経営層ひとり一人の問題、ひいては会社組織、もっと言うと社会全体の問題として、どのようにクリエイターが時代に向き合い、意識改革、行動改革をし、会社、そして社会全体を変革していけるかを最重要課題として考えるべきであり、結果的に変革に対して貢献することができたか、できなかったか、という事象を事業戦略や人事戦略、評価制度レベルまで反映させ、判断の軸としない限り根本的な問題解決にはならないのではないでしょうか。

解決策について

一時的な売り上げ向上対策ももちろん必要で、改善をしていく事で向上の余地があるのも確かです。
ですが、これだけではサスティナビリティーが求められる現代において会社存続の根本的な解決にはなりません。

必要なのは、クリエイターがビジョンを持って時代に向き合い、意識改革、行動改革をした先にある「各事業における売り上げ構成比率の変更(変革)」であると思っており、端的に言えば、「プレイヤーひとり一人の、問題定義力、課題解決力、企画力、提案力、そしてクリエイティビティの強化が絶対に必要」という事です。

つまり、従来マスのグラフィックや映像というクリエイティブ分野、媒体を主とした売り上げ構成ではなく、市場としても成長を遂げているインターネット広告を媒体とするデジタル領域の本格的なシフトを強い意志でドラスティックに進める。

それに伴い、人員の再配置、クライアントとの関係構築/提案領域を見直し、抜本的な提案体制の変更から、ひとり一人の提案力強化までを徹底的におこない、デジタルを包括した本当の意味でのクリエイティブ提案を会社全体で推進していく。

こういった改革を推進しなければ、例え緩やかであっても提供できるクリエイティブの媒体/領域は減り続け、成長はおろか現状維持もできないと危惧しており、社員からのヘイトが蔓延し、離職率もさらに高まるでしょう。

経営層は、この土壌や環境、空気、風土、関係、体制を整備することに徹底していくこと。
数字だけを追う事はしてはいけない。

現状のクリエイティブについて

各々のプレイヤーが提供する現状のクリエイティブは、アウトプットとしての媒体が限定的であることもさることながら、その手法についても従来マス発想であると思っています。

少々大げさに言いいますが、クライアントがもつ課題に対し、クライアントとの関係性や好みを忖度した上で、クリエイターファーストともいうべくクリエイター自身の知見や経験、センスによる表現/アウトプットを背景として提供している事が多々あるかと思いますが、デジタル時代を捉えるという事は、「商品やサービスを使うユーザーの態度変容を捉え、促すこと」。
つまり、「ユーザーファーストという考え方が最上位」に来るべきであり、
決してクライアントへの忖度やクリエイターファーストではないと思っております。

見方によっては、クライアントの課題を真正面から真面目に真摯に向き合っているとも言えますが、巷に溢れる広告物を見て、そもそもデジタル領域を理解し、捉えきれていない従来マス主導のクリエイターが、デジタルという新たな選択肢とも言うべき領域まで熟考し議論を尽くした結果としてのクリエイティブであるとは到底思えませんし、その知見と経験の浅さは、広告主に見透かされている気がしてなりません。

さらにいうと、従来マス発想のクリエイターはデジタル媒体がどこか他人事であり、媒体として下に見ている事も散見されますし、デジタルがまだWEBサイトやLP制作、アプリ制作、WEB広告のバナー画像といった制作物としてみている方が非常に多い。

昨今、広告主内部でもデジタル化が進み、ナショナル、グローバルであるほど知見も経験も豊富に蓄えている現状でもあることから、各々の提案時においても、その点を試されていると感じる事も多々あります。

また、デジタルの到来により、世間の価値観や各市場におけるポジショニングが入れ替わる現代において、クライアントがこれまで課題としてきた事がもはや課題ではなくなっているという事も散見される中、時にはその課題感やターゲット像、市場さえも捉え直した上で、オリエン返しとして提案をする必要があると思っておりますが、従来マス発想のクリエイターはその考え方に至るのは稀な事です。

極め付けは、従来マス発想によるクリエイティブ提案で競合等を獲得している代理店、制作会社も存在している事は確かですが、一部の広告主については、従来マス発想を採用した広告主側の無知によるもので、正直なところ、従来の価値観からアップデートされていない広告主/企業であり、その企業そのものの存続も危ういとさえ思えます。

上記でいう、ユーザーファーストという考え方ですが、
直近のいまは、「ユーザーフラット」という考え方が主流になりつつあります。ユーザーフラットとは、企業とユーザーがどちらかを優先するのではなく、「企業とユーザーが同じ立場でフラットな関係性を構築」していく時代です。

これからのクリエイティブのあり方

デジタル領域へシフトするからといってWEBサイトやWEBムービーといったWEB媒体に制作をシフトするという事ではありません。
従来マス発想においても、限られた条件の中で、本質を追求していこうとするクリエイターのアウトプット/表現力の高さは、まだまだデジタル領域でも通用します。

ただし、デジタル領域/時代におけるクリエイティブのあり方は、先にもお伝えしたように、クライアントの課題感、要望に対し、認知、興味、比較、購入、継続、愛着というユーザー行動/態度/インサイト、
そのすべての「態度変容を捉え、促し、売りに貢献する」という考え方を元に、コンセプトを明確に打ち出し、媒体間の垣根や常識を取っ払い、すべての媒体を並列に扱い、縦横無尽に考え方やロジックをめぐらせ点と点をつなげるかのようなクリエイティブを操れるかどうかだと思っています。

その意味では、クリエイティブ/アウトプットを構成する要素に戦略的思考(ストラテジー)も必要不可欠であり、そのクリエイティブはユーザーに対して、どのようにコミュニケーションしていくのか、というコミュニケーション全体における構造まで言及し、さらに、施策ごとのKPIやKGIを定めPDCAでさらに最適化していく。

重ねて言いますが、デジタル時代における、戦略、コンセプト、クリエイティブ/ブランディング、コミュニケーションプラン、メディアプラン、
施策アイデア、目標設定、PDCAをパッケージとして包括した提案ができるかどうかが生き残りにかかっていると思います。

これらを捉えきれない従来マス発想なクリエイティブ/アウトプットが、局所的、画一的な効果であるマス的発想になってしまい、効果として、認知のみ、良くて興味までしか到達せず、結果的に時代を捉えきれないという事になっている現状です。

ここまで言ってしまうと、すべてを一人ひとりが一から学ぶ事なんかできない!というヘイトが生まれそうなので補足しますが、すべてを実務レベルで理解する必要はありませんし、実務は専門のスタッフがやれば良いです。
大事なのは、この「一連の範囲を時代はデジタル領域と呼んでいる。」という認識と理解です。
会社や案件を先導し決済していく方々には当たり前のように理解いただきたいとも思っています。

広告業界の変容

マーケや広告戦略における川上ともいうべくストラテジーは、これまで代理店主導で行ってきましたが、代理店離れからはじまり、代理店ストラテジーが機能しなくなった原因はなにか。それは、ユーザー行動がデジタル化された現代においては、これまで蓄積された各市場の定量、定性系のデータをはじめとするマーケデータが各クライアントにおいて最適解ではない事が周知され始めたからだと私は思っています。

もちろん、傾向をつかむための調査は必要であるものの、過去の市場データやユーザーデータでは、市場の今、ユーザーの今を捉えきる事はできません。その点、今はGAをはじめとする解析ツールのアナリティクスを見れば自社に興味関心があるユーザーの傾向も競合の状況も知る事もできますし、
SNSでリアルなタイムなユーザーボイスを収集することも可能です。
そんな中で、高いお金を払って代理店にストラテジーを依頼し、大した考察や洞察、戦略とも言えないGRPペースのマス企画やクリエイティブアイデアだけが先行する球出し的な提案が上がってくれば、広告主からすればわかってないなぁとなるのも当然ではないでしょうか。

代理店や制作会社側もデジタル人材を強化し、デジタル専属の会社を立ち上げるなどしておりますが、根本的に従来マスの血でできている代理店や制作会社では、それこそ付け焼き刃でしかありません。

その代わりに台頭してきたのが、媒体の垣根がなく、全てを戦略的思考でビジネスにコミットする「コンサルティングファーム」です。

コンサル側としても、これまで参入しなかったクリエイティブ領域に手をつけ始めたのは、広告主/企業におけるビジネスもアナログではなく、デジタルが主流になり、プロダクトやサービスを新たに創出していく上で、またコミュニケーションをしていく上でも、デジタルにおける、UI、UX、CXなどを考える必要が増えた結果として、クリエイティブ的発想、そしてアウトプットとしての表現力が、「経営に影響を与える重大要素」であると考えたからです。

広告制作業界のこれから

では、これからはコンサル主導になっていくのか。という事になりますが、従来マス発想である受動的な受諾ビジネスを継続していくのであればそれで良いと思います。

しかし、僕も含めた我々クリエイターは、いまコンサルが大金を叩いてでも買収したい才能の持ち主です。

上記で散々従来マス発想、クリエイターを批判をしてきましたが、ここまで言えますのも、単なる批判ではなく、批判以上に、クリエイティブという行為そのものがもつ可能性は無限大であると私は思っているからです。

これからのクリエイティブのあり方の段で、すべてのデジタル理解ではなく、「一連の範囲を時代はデジタル領域と呼んでいる」という理解。と書きましたが、クリエイティブを生業にされている方々は、センスと勘所がいい人の集まりであると思っておりますので、デジタル領域としての触りだけでも理解いただければ、あとは応用するセンスがあるとも思っていますし、
必要に迫られた時には自身で学んでいくはずです。(僕の実体験としても確信しています。)

今はまだデジタルを捉えきれない、従来マス発想の古いクリエイターですが、クリエイティブが人の心を動かす事を信じてやまない信念をもち、
消費者や広告主に理解してもらえるよう、寝る間を惜しんで試行錯誤を繰り返し、より良いものを世に残したいというマインドは素晴らしい事です。

究極的に言えば、誰かの為の自己犠牲を自己満足に変換し、パワーに変えるということを平気でやってのけるという事です。そんな職種、他にあるでしょうか。
これらはクリエイターひとり一人が持つ、オリジナリティであり、ユニークネスであり、資産であると僕は思っており、あとはどのようにして、時代を捉えたクリエイティブをアウトプットするか、川上から川下までを串刺しにした提案力を身に付けるか。

また、時にはクライアントの商品や売りに対しても鋭く言及し、クリエイティブという元来の創造する行為で、クライアントの売りに貢献していけるか。 それだけであると思っております。

プレイヤーや役員一人ひとりが時代を捉えたクリエティブを理解し、意識改革、行動改革、会社改革の先に、いま最も時代を捉える事のできるクリエイター及びその集団として認知され、クリエイター個々の個性を引き出せる組織を作る事ができれば、これからの広告業界をさらに盛り上げ、より良いクリエイティブが世に溢れると思って追います。

売り上げの向上はその先にあると。
僕はそう思っております。

以上。

むな

誰が発信するかじゃない、何を発信するか。