紙の上の魔法使い_感想

ルペルカリアをやって以来気になっていた紙の上の魔法使いをようやくプレイした。本来ならこちらを先にプレイするべきだった気はするが、それでも十分に楽しめたのでよしとしよう。
重ための話が好きな人やルペルカリアが刺さった人には刺さると思う。俺は刺さった(というか、刺された?)。












以下、ネタバレ注意












物語全体について

ルペルカリアと同様に救いがないというか、ルペルカリア以上に救いがないというか……
ほとんどの分岐がどうしようもなく不幸に包まれているし、TRUE ENDでさえ妃と瑠璃が死んでいるのには変わりがないあたり徹底している。まあ、ルペルカリアをプレイした上で紙の上の魔法使いをプレイしようと思ったくらいなのでこういうビターで苦しい展開は好きな方なのだが。

章ごとの感想

一章「ヒスイの排撃原理」

物語の舞台設定の紹介。「魔法の本が絡むとなんでもありになる」という世界観を提示し、相変わらず(?)妹狂いのシナリオライターで安心させてくる。冒頭から妹と結ばれてるのはアクセル全開すぎるんよ。一緒に不幸になろうとか重すぎるけど大好き。そんでまたかなたがやべーやつすぎて面白かった。

二章「ルビーの合縁奇縁」

理央もやべーやつだったかと思いきや闇子がクレイジーな雰囲気を出し始めた。ルペルカリアに出てきた親はほぼ全員半端ないろくでなしだったから警戒度が一気に上がっちゃったね。この時の夜子はほんとによく学校行ったよ。

三章「サファイアの存在証明」

章タイトルで嘘をつくな!このタイトルはなんなら零章とかそういう位置に置かれていいだろ。ここでいきなりヒロインの一人が死んで退場するとは想定外すぎた。この時点でどう足掻いても完全無欠のハッピーエンドが消え去るのは容赦がなさすぎる。割とサラッと流されてたけど、妃のアレは恋愛モノのヒロインが背負ってていい過去じゃないだろ。そういう点でもちゃんと容赦ない。
そしてルペルカリア序盤でも登場した「オニキスの不在証明」がここで出てきて盛り上がった。主人公が何かを知ったはずなのにこちらには何も明かされないのが不穏どころではなかったが。

四章「アメシストの怪奇伝承」

しばらくマジで出番のなかったかなたが再登場。ヒスイの時よりやべーやつ度合いが増してるのはびっくりした。そりゃ確かに馴れ初めをすっ飛ばした物語がうまくいくはずがないというのはそれはそうすぎるが。

五章「アパタイトの怠惰現象」

主人公たちが妃の日記をきっかけに前向きになり始めたなあと思った途端に汀がぶっ壊れちゃったね。この辺りの歪でドロドロぐちゃぐちゃした人間関係の描写はとても好き。あとメラナイトさんは引き裂かれても仕方ないと思います。そもそも魔法の本なんて百害あって一利なしにしか見えないし。

六章「ローズクォーツの永年隔絶」

やっぱりこの人の描く親ってどうかしてる奴らばっかりなんだ〜〜〜。ルペルカリアでも思ったけど、このライターは「恋心の剥奪」とか好きなのかなって。終盤の「ちゃんと失恋すらできなかったんだね」がかなり効く。曇らせがうまい。

六章「ローズクォーツの終末輪廻」
都合の悪いとされたことだけ綺麗さっぱり忘れるなんてあまりに都合が良すぎるよなあ。個別√(?)に入ってなお色々な命令に縛り付けられ、愛する者からは失望の目を向けられ、挙げ句の果てにNTR食らってるのは理央が哀れすぎる。人間にできる仕打ちじゃない。しかも、これでもなお本人が「幸せである」ことを主張するのが悲しさを倍増させる。

七章「ブラックパールの求愛信号」

言ってしまえば汀が妃への恋心と向き合って認めるだけの話なんだけど、それをここまで広げるのはすごいと思う。かなたや汀の強さがよく描かれていて、キャラに深みが増した。ラストの展開は色々なもの(特に六章)を台無しにするマジで無慈悲な展開だったけど。

八章「フローライトの時空落下」

瑠璃に失恋させるためだけに妃を復活させるの、倫理観とか尊厳とかありとあらゆるものを冒涜する所業すぎてドン引きしてしまった。ここにはやはりイカれた親しか登場しないのか。そして理央の「命令を刻まれた」の正体があまりに残酷。特に一章とかで瑠璃は身をもって魔法の本の絶対性を知っているがゆえに、エグさが増していた。

八章「フローライトの怠惰現象」
この兄妹、覚悟がキマりすぎていやしないか。恋心を誰にも穢させないために心中するエンドは、ある種の美しさすら感じた。禁忌も世の理も乗り越えて、愛を保ったまま逃げ切りをかますって、実はこれこそが純愛なんじゃないか?

九章「ホワイトパールの泡沫恋慕」

「これが事件の真相です!」ってツラして堂々と嘘八百を並べ立ててくるスタイルは嫌いじゃない。ほんのついでとばかりに妃と瑠璃の恋模様すら否定しにかかってくるし。頭のおかしい親しかおらんのかという感想は、もはや定期。

九章「ファントムクリスタルの運命連鎖/極乱反射」
夜子というヒロインのひねくれっぷりが存分に描かれていた。まあこんな生い立ちだと告白を素直に受け入れられるわけはないよな。それを受けた瑠璃が開き直って告白になだれこむあたりは好き。めちゃくちゃ甘くて幸せな雰囲気で終わったと思ったら最後のナレーションで全てをぶち壊しにしていくスタイル。ここまでバッドエンド続きだったのに、事件の解決もないまま一人だけ幸せになれるわけはないわな。

十章「オブシディアンの因果目録」

ここでようやくこれまでの真実が(8割がた)明かされたが、衝撃は半端じゃなかった。ルペルカリアの「オニキスの不在証明」のくだりで「寝取られの結末は許さない」だの「登場人物を閉じ込めてしまえば物語は停滞する」だの言ってたのはこういうことだったのかと。それにしても、不貞をはたらくくらいならと潔く死ぬ妃はすごいなあと思ったら、それを知った瑠璃もノータイムで自殺キメてたのは、さすがに破れ鍋に綴じ蓋。お似合いすぎるカップルだと認めざるを得ない。
あとクリソベリルはそのクソガバチャートをやめろ。立て続けに2キルかましていくのはガバの域を越えつつあるだろ。

十一章「サファイアの存在証明」

まさかの再登場。「この本は満足していて、今も語っているかのよう」だとか、これ以外にも色々伏線はあったが、まさか4年間も開きっぱなしで諸々の元凶だったとは思わなかった。闇子のうっかりで妃と瑠璃がくっついたあたり、この家系はガバチャートを走る呪いにでもかかっているのか?
かなたはこれまでずっと強かったが、ここにきてさらに強くなるとは思わなかった。

十二章「ラピスラズリの幻想図書館」

ここまでくると、本当の原因は誰だったのかとかそういうことが複雑に絡まりすぎてて、頭がこんがらがってくる。また、かつてはかなたが瑠璃に告白するのを見た途端にサファイアを開かせていた夜子が、今回はただひたすら閉じこもることを選んだあたり、(それを成長と呼ぶのかはともかくとして)夜子も変わりつつあるのだと感慨深いものがあった。
最後の最後に妃が出てきて夜子の背中を押すシーンでは、「恋に敗れて、死んでしまえ」が名台詞すぎる。妃自身は二番手に甘んじることを選んだ分、よく響く。
ラスト、どう言い繕ってもクリソベリルのやらかしは取り返しのつかないものなので、アレキサンドライトを破って終わるというのもアリだとは思う。十三章に入った際にも「これは蛇足かもしれないが」と前置きされているように、クリソベリルの過去を知らないまま全ての罪を押し付けて、スッキリとした心持ちでその先の人生を歩むことが許されても良いだろう。ガバチャートのやらかし分くらいの罰は受けた方が本人的にも救いかもしれないし。

十三章「煌めきのアレキサンドライト」

誰にも愛されず、その特異な見た目は迫害され続け、不幸なまま人生を終えてしまったクリソベリルの過去が提示されると、相対的にこれまでの本編がマシだったんじゃないかという錯覚に囚われてしまう。
「アレキサンドライトを破り捨ててどうあっても魔法の本に頼れなくする」のも、「破らずに、クリソベリルだけに罪を背負わせるのではなく共に生きる」のも、どちらも夜子の強さの証だと思うので、すんなりと結末は受け入れることができた。クリソベリルがようやく愛されることを知るくだりで本人の意識の変化も見られたし、生前があまりにもあんまりなのでこれから先はみんなで幸せに暮らしてほしい。

個別のキャラクターそのものだけについて語れることはあまりない。というのも、それぞれのキャラクターは本人が物語の中で果たした役割と分けて語ることができないため、ストーリーに対する感想と一緒くたになってしまうからだ。また、キャラクター同士が複雑に絡み合っているため、分けて語ったところで自分にはうまくその魅力を表現できるとは思えない。

総評

ルペルカリアをやった時のような胃がキリキリする雰囲気を求めてプレイして、まさに願った通りのものが出てきたので満足した。複雑に展開されていく物語、明かされていく真相、登場人物だけでなく世界設定そのものがこちらを騙しにかかってくる感覚は、やはり他ではなかなか味わえないものなので面白かった。


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