恋と選挙とチョコレート_感想

蒼の彼方のフォーリズムの4th Anniversary BOXのディスク10枚組というとんでもないセットのうち3枚がゲームで、あおかな本編、EXTRA1、そしてこの「恋と選挙とチョコレート」。わりと古いゲームだったので自分に合うのか少し不安だったが杞憂だった。古いなと思うようなところも意外とすぐ慣れる。以下ネタバレ注意。


千里ルート

ヒロインの千里もかなり重いのに主人公がそれを軽々と超えてくる重さを発揮する。千里が自分に亡き弟を重ねているのを理解した上で、「自分は千里の弟の代用品として千里の心を支える」なんて覚悟キメてるのめっっっっちゃ重いやん。しかも主人公が千里の彼氏になれない理由が、「もし自分が彼氏になって、なんらかの事情で千里と離別してしまったら、千里は彼氏と弟の代用品という二つの心の支えを同時に失ってしまうから」だよ...物語の開始時点でもう恋の段階を超えて「愛」なんですけど...しかも主人公がそういう覚悟をあんまり表に出さないから千里のアピールを尽くかわすヤベーやつみたいになってたし。そして、そんな二人が恋人になるために「主人公が千里の覚悟を問う」シーンは名場面だった。普通ならヒロインが主人公の覚悟を問うことが多いのだろうが、逆に主人公が千里に覚悟を問うことで主人公が主体的にヒロインと真摯に向き合っているのが伝わってきて良かった。
まあこうして二人が無事に結ばれても物語はまだ続く。タイトルにも選挙という言葉が入っているように、選挙で勝たなければ主人公たちの部活は廃部になってしまう。そこで他の候補者との差別化を図るために打ち出した公約は「学校に巣食う利権を一掃する」というもの。絶対アカンやつやん...と思った通り、選挙を降りるよう圧力がかかったり最終的に千里が人質として誘拐されてしまったり。物語を読む側にはその「ピンチまでの道」がはっきり見えていても登場人物には見えていないのでやけにハラハラする。フラグが着々と積まれていく様はなかなか心臓に悪かった。そして全てを解決した末に主人公たちを待ち受けるものとは...という気持ちで読んだエピローグには「オイッ!!!!」って突っ込みそうになったね。まあハッピーエンド(?)ではあるんだが全ての問題が解決されたわけじゃないのが複雑。他のルートではどう物語を締め括っているのか興味は引かれた。


未散ルート

千里ルートだけじゃなくこっちはこっちで重たい...ヒロインである未散(みちる)が極端に感情表現に乏しい理由が親からの虐待+ネグレクトだったりするし。これだけでも十分重いってのに学園の暗部たる治安部S特の存在だとか会長や未散たちの過去の話がまあ重い。千里ルートでは会長がやけに利権改革に対して保守的だったが、こんな過去があるならやむなしと言った感じだ。実際に愛する人が学園絡みの事件で植物状態になってるんだもんなあ。会長は最後に全ての責任を負って去ったのも含めてこのルートを通じて自分の中では大幅に株が上がった。
主人公と未散の恋愛という面では、千里がまっとうに負けヒロインをしていたのが印象的。自分の気持ちに気づくのが遅すぎたがために身を引き、主人公に弟を重ねて見ていたことに自らけじめをつけていたのがちょうど千里ルートとは正反対だった。また、終盤で明らかになるのだが、主人公と未散の初体験がバッチリ治安部に激写されてるのはちょっと笑ってしまった。まあ初体験も含めて屋外で複数回やってるしなあ...。最終的にはハッピーエンドなので良いんだが。ここまでの二つのルートでさんざん学園の闇が見えてきてるのに、ルートが残ってる分だけまだ闇が増えていきそうな予感がして怖い。


衣更ルート

ドロドロして人間臭さに溢れている話だったので、人によって評価は分かれるところだと思う。例えば、部が内部分裂するくだりで、各々が本音と建前を使い分けすぎていて余計に事態が拗れていたところに自分は等身大の未熟な学生らしさを感じたが、こういう展開が苦手な人にはとことん合わないと思う。そもそもこの物語がそういう重たい雰囲気を帯びているのはそうなんだが、このルートは特に上の二つのルートとは毛色が違った。このルートでは主人公でさえその未熟さゆえに判断を誤っているからなあ...少しアレな言い方になるが、主人公がやけに下半身に素直だった。
選挙に敗れたとはいえ最終的に差別問題や廃部問題については円満解決していたが、このルートになった場合、前会長は未散ルートで語られていた通りにどん詰まりなんだということを考えると素直には喜べない。学園の闇が深すぎてそれらを一気に解決する方法などないっていうのは十分伝わってきた。


皐月ルート

今までやったルートの中で一番重くなかった気はする。まあ主人公と皐月が重くないというだけで皐月の姉である先生には割と重い背景があったけど。
選挙面ではやはり謀略はあったものの、皐月がその尽くにおいて一枚上手だった上、仲間割れの危機も会長が手を回して阻止されているため主人公の優勢が安定していた。ASPの陽高が記者根性を見せていたのも好印象。主人公からはガレージのプロペラとほぼ同列に語られていたので陽高の服装が安定しないこと自体がこのルートへの伏線だとは思いもよらなかったが。
恋愛面も最終的には先生も含めた三人が仲良くやれているのでハッピーエンドではある。しかも、主人公が会長になっている+千里が主人公への依存をほぼ独力で解決しているということから見ても、今までやった4ルートの中でもかなり良い方の終わり方ではないだろうか。直前にやった衣更ルートが尋常じゃなくドロドロしていたのはあるが、他のルートと比べてだいぶさっぱりしていたように思う。


美冬ルート

こいつらめんどくせえええええええええええっっっっっっ!!他のルートでの美冬の振る舞いからこの展開はなんとなく予想してたけど、他のルートと違って学園の闇だとか大人の汚い事情みたいな要素はなかったのにここまでドロドロするのか...多分これは読み手が大人であればあるほどキャラの若さを理解できずに読んでいられないルートだから、自分が18歳の今の時期に読んでおいて良かったのかもしれない。
それにしても美冬はそんなに前からそんな粘度の高い感情を抱えていながら他のルートであんなムーブかましてたん...?これは千里ルート以外だと美冬の精神へのダメージやばそうやな。自分は千里のために諦めたのに肝心の千里自体が諦めてるもんなあ......まあこのルートはこのルートで美冬ガチで死にかけてたりするしハッピーかと言われると微妙なところは残るんだが。

全体を通しての感想

「恋と選挙とチョコレート」なんて軽い印象さえ与えるタイトルとは裏腹に、ひたすら重たくて、ダウナー系ドラッグか何かの仲間なんじゃないかと思うほどにどんよりとした気分になる物語。背後で蠢く大人たちの利権問題で大人をろくでなしに描く一方、主人公たち若者サイドも未熟さからくる判断ミスが多く、人間の不完全さを痛感させられる気がした。また、この「主人公サイドの判断ミス」というのが曲者で、そのあまりの青さゆえに読み手が歳と社会経験を重ねるほどに主人公たちの行動原理が理解できなくなってしまうんじゃないかと思う。よくある「見た目は学生、精神は成熟した大人」ではなく「見た目も精神も学生」なので若さの負の側面も非常に強く出ていた。
しかもたちが悪いのは、5つのルートどれもハッピーエンドとは言い難いところだ。読み終えたルートが増えるたび物語の裏側の事情が見えてきて、エンディングの裏側で苦しむ人たちの存在が明らかになっていく。「こんな世界は壊してしまえ」と宣うRPGのラスボスの気持ちがよくわかるようになるくらいには辛い。

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