冥契のルペルカリア_感想

初めて体験版というものをプレイしてから買った。作品全体を通して不穏な空気で満ちており、何度も作中で言及される「悲劇」と「涙」に彩られた物語だった。また、視点が様々に移り変わるためそれぞれの人物の内面や有り様がつぶさに描写されており、キャラクターに深みが増していた。虚構に溢れた世界で紡がれる物語もとても魅力的で、(展開の重さは人を選ぶかもしれないが)ぜひ多くの人にプレイしてもらいたい。どうもウグイスカグラの過去作とのつながりがあるようなのでまた機会があればそちらにも触れてみたい。



※以下ネタバレあり




各登場人物への印象


・奈々菜
家庭では浮気相手の子として過ごし、挙句は義母から枕営業を強いられそうになるなど境遇があんまりにもあんまり。義母からの歪んだ教育の結果自らの主人公への想いすら信じることができず、自分のままでは主人公から決して愛されることはないというおまけつき。個別√でも主人公の妹という偽りの立場を得ることでやっと寵愛を受けるがその歪さをちゃんと自覚しているだけに見ているこちらが苦しくなってしまう。また、主人公が現実から目を逸らし続けるといつの間にか自殺してしまうのが悲しすぎる。これらの事情からとても歪で不安定なキャラクターになっているが、その点はむしろ魅力となっていて、私はこの子が一番好きだ。

・理世
「まさかの個別√なし」というと少し語弊があるが、実際そんな感じなのだから仕方がない。個別入って結婚近くまで進んだと思ったら全部なかったことになっちゃったし。ただ、自分の理想が叶うことでは主人公が幸せに慣れないことをちゃんとわかっていたのでそういう面ではちゃんとヒロインしていた。かつて救いを求める友に何もしてあげられなかったという背景を持ちながら最終的には逃げずに成長し今度は友を救うという王道ストーリーも良かった。

・めぐり
作中一番の愛されキャラ(語弊)で、この物語の半分はめぐりが不条理に立ち向かうためのものだとも言えるだろう。無情な現実を知りながらもそれに目を瞑り、虚構を生きる姿はなかなかに痛ましかった。また、主人公とのラブコメもちゃんと甘酸っぱい青春の雰囲気を醸し出しており、初心な本性を隠しつつ小悪魔に振る舞う姿にはグッとくるものがあった。

・琥珀
「空っぽだけど演技の才能だけはある」と思っていたら、その演技の才能は舞台装置としての役割と共に世界の創造主に押し付けられたものだとはね...。主人公が散々妹の演技を嫌悪し琥珀の演技を評価していたのに実は同じものだったと判明するあたりはそれまでの全ての流れが違ったものに感じられて面白かった。個別√では、セゾニアの役に象徴されるように(世界の創造主の思惑通り)偽りの妹として主人公を優しさで包み込むことに徹しており、琥珀は自分を殺してしまっていたのが辛かった。

・未来(氷狐)
主人公への愛が大きすぎる。自分たちが幸せになるために不要だったのは自分の持つ「演技の才能」と「兄への愛」だということがわかっていたとしてそれを捨てるなんて並の人間にできることではない。大好きな兄が妹である自分の死を乗り越えその先を生きていくために物語の舞台を整え虚構の世界を紡ぐという献身もいっそこっちが主人公なんじゃないかと思えてしまう。これだけの愛がありながら生前は演劇の歪みに兄妹もろとも囚われ幸せをとりこぼしていたのはとても悲しい。演技の才能がなければまた違っただろうに運命も酷なものだなあ。あるいは主人公の禁忌に対する自制心がもっともっと緩ければ...と思わずにはいられない。

・双葉
強すぎる。メンタルが作中最強。徹頭徹尾主人公の良き友人として動き、主人公を差し置いて自らが幸せになるチャンスさえ「それでは自分の愛する者が幸せになれない」と蹴り飛ばす。いかにも歪みそうな境遇にありながらここまで真っ直ぐに生きられているのは尊敬するしかない。歪みそうな境遇に置かれたから歪んでしまった奈々菜とはいろんな点でちょうど真逆になっていたりするのかもしれない。

・来々&悠苑&ハナ
めぐりへの愛が強すぎる。めぐりが現実を直視し自分たちの死を切り捨て乗り越えられるだけの強さを得るためだからといってここまでの「嫌われ役」を躊躇いなく演じるのにはある種の恐ろしさすら感じる。真相が明らかになるまでこの人たちへの評価は二転三転させられてなかなか面白かった。

・朧
ヒロイン力が強い強い。未来の持つ主人公への愛を押し付けられたとはいえここまでになるとは。男性サブキャラクターから男主人公への告白がここまで美しいものになるのは予想だにしなかった。"I love you."の持つ特別さとかを殊更に説いたうえでこれを見せられたら評価がうなぎ上りするに決まってるじゃん。

全体の感想

「逃げることもできるのに不条理な現実を直視する必要はあるのか?」というのは本当に難しいところだと思う。逃げることは弱さの表れと一刀両断することは容易いが、人間には辛さを受け入れる上限のようなものがあるのだからそれを超えると壊れてしまうというのもまた事実。この物語では受け入れるだけの強さを成長や支えてくれる仲間の存在により獲得しており、どうしようもないどん詰まりの悲劇からのスタートでありながら、ただ暗いだけの物語に終始せずとても前向きなものとなっていた。他にも「普通ではない」愛の在り方など難しいテーマに挑戦していたがどれも綺麗にまとめ切っていた。とてもいい物語だった。

特装版の特典小説について

これは読むべき。前半の、主人公が演劇に歪められ始めた頃の物語はまさに運命の分岐点であり、ここでの立ち居振る舞いが本編に大きく関わっている。後半の、「もしも」の物語は主人公と未来が演劇の闇に囚われず幸せな日々を享受しており、まさに「こういうのも見たかったんだよ!!こういうの!!」という感じで心の弱いオタクに優しい。まあどこまでいってもifでしかないので余計に悲しみが増すというのもまた事実だが。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?