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【エッセイ】さんぽぽ、ぽぽぽ


 私の部屋は陽が当りません。唯一ある窓はマンションの廊下側で、わずかな光しか拾わないのです。
 なので冬が来た今、私は命懸けで陽を浴びにリビングに出ます。早起きが出来ない私にとって、冬の日照時間は殺人的に短い。目覚めて布団でゴロゴロ…午後3時…まずい!陽が沈むまであと1時間ちょっと…!とリビングに這い出て陽を浴びるのが、ここ数週間のルーティーンです。

 今、コートを着れば着替えなくてもお外に出られる冬の利点を急に思い出して、陽を浴びるついでに散歩に出ています。
 近所に大きな公園が無数にあります。ベンチと大きな木がたくさんあって、何もない原っぱを囲んでいる。そんな良い公園が多いのです。

 犬が、しっぽを上げてさんぽぽ、ぽぽぽとかけて足で通り過ぎていきます。午前中に降ったらしい雨を免れた屋根付きのベンチに座っていると、お散歩の終止符をここで過ごすジェントルマンと芝犬が。芝犬を見たい私と、ジロジロ見てはいけませんと律する私の戦いです。
 ジェントルマンにおやつを差し出された芝犬が、チラリと私を見ました。
「おやつ食べたいけど、知らん人いるしなぁ」って顔。
 居た堪れず、近くの木の実を観察しにその場を去りました。

 セキレイが目の前にぴょいんと現れました。チチチと鳴いてすぐにいなくなる。ヒヨドリもうるさいけど、君の声もなかなかデカいな。犬はいれど子供がいない。雨で濡れてるから? 

 そろそろ陽が沈んで、もっと寒くなる。先日高円寺の服屋さんを巡っていたら、なぜかもういない祖母の家に似た雰囲気のお店が多くて、唐突に悲しくなったんです。なので今、私の精神は5歳児です。犬がいたらチラチラ見るし、ご飯は作らないし、ポテトしか食べない!

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