「落ち、着いて、考える」

この前バイトをしていてふと思った。
「あ、私このバイトしたくないんだ」
きっかけは些細なこと。ちょっとしたミスをして、そのことに関して注意をされて、自分なりに反省をして。けれど、そうして省みて唐突に思ってしまった。出来るならこのバイトを辞めたいと。
嫌な社員や同僚がいるわけでも、体が悲鳴をあげるほど仕事がキツイわけでもない。きっとこの気持ちを誰かに打ち明けたら、「軟弱者」や「自堕落」などと罵られることだろう。だって自分でもそう思う。こんなことでバイトを辞めるような人間が、社会という大海原に船出してちゃんと転覆せずに航路を辿れる気がしない。
ゆえに私は、その日帰宅してから随分と落ち込んで物思いに耽った。耽りに老けることで着実に滅入って参っていく自分は、俯瞰的に見ても哀れで、対して主観的に見ても惨めで。哀れな俯瞰と惨めな仰望に板挟みされた私は、そのまま月と一緒に夜へと落ちていった。
やがて自己否定の沼の底に着き、されどいまだ感情と生活のどちらにストッパーを掛けるべきか苦悩していた私。感情を優先してバイトを変えることも、生活を優先してバイトを続けることも出来るが、その最適解が後者であることは身に染みるほど分かりきっていた。そして、分かりきっているからこそ悩みは払拭されずにいた。
そのときだった。私の目の前に一本の光路が示されたのは。
「小説の新人賞を取ろう」
志すにしては余りにも不純な理由であると自覚はしている。けれど当時の私にとって、それが唯一の逃げ道だった。感情と生活のどちらにもストッパーを掛けずに済む、余りにも理想的な理由だった。
そこからは思い立ったが吉日、普段ゲームをする為に開くことが多かったパソコンを即座に立ち上げ、メモリー内部で大事そうに保存されていた無数の書きかけ小説をすべて開いた。それと同時に携帯では、『小説 新人賞』というキーワードでヒットしたサイトを片っ端から読み漁り、募集要項やら題材やら期日やらが羅列された画面を食い入るように見つめていた。そうして最終的に、応募する新人賞とそのために書くべき小説を何個かピックアップし、その日から執筆と本格的な調べ物を開始したのだった。
それが、このサイトで『自己紹介』というタイトルの記事を載せた数日前の話。それ以前から作家には憧れていたけれど、何が何でもなってやると明確に思ったのはその日から。そして今も、その熱は冷めていない。何故ならバイトを続けているから。嫌なバイトのおかげで好きな小説が書けるという、なんとも不思議なサイクルが生まれているのだが、好きを突き詰められているのだから特に不満はない。
新人賞というのは当然ながら狭き門で、こんなチンケな理由で始めた私の作品がその選考を通るのか些か不安ではある。けれど、その不安を押し退けるように創作意欲が湧いてくるのだ。今はそれを発散したい。発散して挑戦してみたい。
だから私は、夢を本気にさせてくれたバイトに感謝するとともに、可能な限り早くバイトを辞められるよう頑張っていきたい。そしてそんな私を、笑いながらいいので、皆さんどうか温かく見守ってください。

以上、現状の心の整理のコーナーでした。

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