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日常の冒険者たち

 腕を組み、一席空けて座る壮年の外国人男性三人組。半袖に半ズボン、筋肉質な体が一層の圧迫感を与える。彼らは周囲を鋭く見回しながら、スペイン語で何かを密談している。短髪の男は険しい顔で沈黙を守り、じっと考え込んだ。やがて、何かを悟ったかのように重々しく頷く。空気が張り詰め、ただならぬ非日常感が漂う。緊張が高まり、一瞬、身を引きそうになった。だが、ビーチサンダルや頭にかけたサングラスが光るのを見て、観光客に過ぎないことに気づく。目的地に着いたのか、静かに立ち上がり、何事もなかったかのように降りていった。
 次に乗ってきたのは、修学旅行生の三人組。車内はどんどん混み合うが、彼らの降りるドアは反対側だ。焦りが見える顔つきで、小声で作戦を練り始める。どうやって人混みをかき分けて降りるか、声を潜めて相談している。遠くにいる仲間とも、目で鋭く合図を送り合い、息を詰めたような緊張感が漂う。全力で考え、行動しなければならない一大事だ。私なら、もし降りられなくても「まあ、いい思い出になるか」と軽く考えるだろうが、彼らにとってはそんな余裕はない。全てが彼らの運命にかかっているかのようだ。
 電車内は、日常の中に潜む小さなドラマの舞台だ。外国人も修学旅行生も、それぞれの空間で、自分たちのペースで生きている。言語や文化は違えど、皆同じように悩み、戻らない時間を共に過ごしている。彼らも私も同じ日常の冒険者と気づいたとき、なんだか少し嬉しくなった。

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