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現実感の薄い街

 渋谷は本当はどんな場所なのだろう。
 街は、目的を持って訪れるだけでなく、目的もなく散策することで初めてその姿が見えてくるものだ。だが、渋谷はニュースやバラエティ番組でよく目にするだけで、散策したことはなく、その全貌を知らない。

 先日、NHKホールで行われた『ワンワンわんだーらんど』を観に行った。そのとき、渋谷の象徴ともいえるスクランブル交差点をこの目で確かめた。朝のニュースで何度も目にした、あの賑わい。歩行者が四方八方から溢れ出し、交差点の中央で絡み合うように行き交う光景が目の前に広がっていた。しかし、どこか現実味が薄く、まるでテレビの中に入り込んでしまったかのような感覚が残った。

 センター街にも食事で足を運んだが、細かく入り組んだ道や多種多様な店に圧倒され、その街の雰囲気や個性を掴むことはできなかった。渋谷の南側にバス停があることは知っているが、使ったことはないし、宮下パークも「おしゃれな建物」という印象しかない。本当にテレビやインターネットで見たとおりの場所なのか、実感が湧かない。

 最近、インターネットやテレビで見聞きするものが本当に存在しているのか、わからなくなる。画面越しの情報と、自分が実際に経験する現実とが乖離しているように思えるのだ。どこか現実感が薄い。目の前にある情報が本物なのか、それともただの幻なのか。

 ふとスマートフォンの画面を見つめ、考えた。このアプリも、その向こう側も、本当に存在しているのだろうか。僕が今見ているこの世界は、いったいどれだけ確かなものなのか。

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