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記憶の中の3DO

 君は3DOを知っているか。

 1990年代に登場した、少し古くてマイナーなゲーム機だ。当時、私はその存在を知らなかったが、実は一度だけ遊んだことがあった。
 小学校高学年の頃、名古屋から引っ越してきた友人が持っていたのだ。彼は幼くした織田信長のような顔立ちで、のほほんとした雰囲気を纏っていたが、その眼光には鋭さがあった。私とは数年ゲーム三昧の日々だったが、後にボクシングジムに通っていたから、秘めたる闘志があったのだろう。
 彼は私とは異なる文化圏で育ったので、知らないものをたくさん持っていた。モンスターファームは知っているが、ドラゴンシーズ最終進化形態ってなんだ?ドラゴンっぽくないドラゴンが多いけど、意外とカッコいい。
 彼の家には、薄暗い部屋の片隅にホコリを被ったゲーム機が鎮座していた。それが3DOというものだった。
 「これでチキチキマシン猛レースが遊べるんだ」と彼は言った。チキチキマシン猛レース?そんなものがあるのか、と私は興味をそそられた。どんなゲームかも想像できないまま、彼と一緒にそのゲームを始めた。
 だが、奇妙なことに、ゲームを遊んだという記憶がまったく残っていないのだ。コントローラーを触ったのか、リモコンで操作したのか、いや、そもそも映像を観ていただけだったのかもしれない。気がつけばゲームは終わっていて、私の中には何の印象も残らなかった。
 まるで幻のようなその体験が気になり、大人になってから調べてみた。確かに、あの時遊んだタイトルは実在しているらしい。だが、何度考えてもあの瞬間の記憶が戻ってこない。霧の中を彷徨うように、あの日の記憶は曖昧で掴みどころがない。
 もう大人になった彼とはすっかり疎遠になってしまったが、あのゲーム機を手に入れたきっかけや、彼がどんな思いで遊んでいたのかを聞いてみたい。そして、今度こそしっかりと記憶に焼き付けるために、もう一度3DOのボタンを押してみたい。いや、やっぱり記憶がないくらいだから、やめておこうか。

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