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AAEE"日本―ベトナムオンライン交流プログラム途中経過 (2) オンラインプログラムの特徴

大瀬「本日もオンラインプログラムお疲れ様でした。3日目が終わり、1週間のプログラムの折り返し地点になりましたね。ここまでプログラムを見られていていかがですか?オフラインのベトナムプログラムを観察したことのある私にとって、初のオンラインプログラムがどのように行われているのかとても気になります。」

 初のオンラインプログラム。何もかもが手探り状態で皆が一生懸命に頑張っているけど、観察している中でオンラインの無限の可能性と、そして限界点のようなものが見えてきた。
 新型コロナウィルスを期に、今後オンラインのプログラムはこれから確実に増えていくし、AAEEも今後オンラインプログラムを継続していく必要性が出てくるかもしれない。この際観察者の視点から感じたことを共有していこう。

 大前提として、もともとAAEEのプログラムはベトナムやネパールなど現地に行き、そこの学生と2週間寝食を共にするプログラムだった。AAEEだけじゃないよ。世界中のほとんどの国際交流プログラムは直接対面型だった。
 当たり前のように目の前に存在していたものが急になくなってしまうと混乱して悲観的になりがち。コロナ禍によるオンライン化は正にそれ。オフラインだったらできるのに、オンラインではできないものに目を向けがちになってしまう。しかし、ないものに目を向けても新しいものは生まれてこない。だからこそ、できることは何か、常に考えていく必要があるんだ。

3日間観察し続けて何よりも感じたことは「コンテンツの重要性」だ。

大瀬「コンテンツは確かにプログラムを作る上で重要だと思いますが、なぜオンラインプログラムを経験してその重要性を今一度感じられたんですか?」

その理由は大きく分けて4つ。

①オンラインではその場で瞬時に修正ができない。
 かれこれ30回近く国際交流プログラムや多文化間交流プログラムをこなしてきたが、何らかの問題、メンバー間の温度差や認識の違いやこじれが生まれることは必ずあった。でもオフラインであれば、雰囲気が悪くなりそうな時やトラブルになりそうな状況を察知してその場で適宜修正を加えながらプログラムを進めることができた。しかし、オンラインとなると「まずい」と思った時には時すでに遅し。画面の中に入り込んでいくことができないからね。目で合図することもできない。つまり現場での微調整ができないんだ。今、まさに進行中のプログラムを観察しながら感じているのだけど、具体例を話すとやばいので・・・(笑)。
この3日間で、僕は9.11のペンタゴンにいた人たちの気持ちを少しわかった気分になったよ。

大瀬「それぞれ別の場所にいる人たちの空気感をオンライン上で変えることはなかなか難しいですよね。明らかに空気が悪くなったのはわかっても、各々の本音を感じ取ることはできない。
ペンタゴンにいた人たちとは、どのような気持ちになったのですか?」

 あの日、彼らは飛行機が向かってくることがわかった。でも、これから起こる悪夢をただ見てることしかできない無力感を感じたんだ。この感覚を知った時に、何もできないなら未然に防ぐしかないんだと思ったよ。
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②完全オンラインと対面型オンラインの問題
オンラインの国際交流の中でも様々なパターンがあるよね。例えば、二国間の国際交流プログラムの場合、3つのパターンが考えられる。
1.全員が別々の場所から参加する
2.一方は個々人の自宅などから、もう一方は集合して。
3.参加形態自由(1人で参加する人、数名で一つのパソコンを共有など)
 今回のベトナムプログラムでは、その日によって1~3が混在しているんだ。僕の今のところの観察では、パターン1がもっとも混乱が少なく効果的。

 具体例。プログラム2日目はパターン1で安定していたのに対し、1日目と今日(3日目は)パターン1と3。例えば1日目はベトナムメンバーは一カ所に集合し、日本メンバーが各自自宅から参加。明らかに両者に温度差が生まれていた。ノイズもすごい。
 感情の温度差。メンバーが集合していればそこには集団自然と雰囲気が作られ、高揚感が高まる。心待ちにしていた活動であれば尚更のこと。一方で、一人でいる人たちに同じ高揚感は期待できない。一人でオンライン上の交流の場に参加した人たちにとっては、集合している人たちの盛り上がりを見て逆にしらけてしまうような気がするんだ。さらに、高揚感のある人たちは良心的に盛り上げようと努力するが、逆効果。冷めている人たちにとってはグループの雑音や、画面上での激しい動きが邪魔になってしまう。

大瀬「確かに、空気感を察することができない上でフェアな環境ではないから自然と温度差が生まれてしまいますよね。リスクマネジメントも兼ねて、オンラインプログラムをする際には参加者に対して共通のルールを作成する必要がありそうですね。
 例えば、誰かの発表後の反応の仕方であったり、交流時の参加方法や動作、発言方法など。この共通ルールがないと個々人がバラバラな行動をしてしまい、一体感が生まれなくなってしまう可能性や、共通目標を見えなくさせてしまう懸念があります。」

 今回のプログラムでも見えてきたことだね。共通ルールを策定することは本当に大切だと思う。プログラムの話題からは外れるが僕自身、Ⅰ期の大学の授業をオンラインでやって感じたことなのだけど、教える側も習う側もオンライン授業初体験ですべて試行錯誤だった。その結果、授業中に積極性にかけてしまったり、ある種の授業妨害のようなことが起きること防げなかった。
 また、受講している学生側も、カメラが常にオンの状態で全体が見えていると、常時他者から見られているプレッシャーに苦しむかもしれないしね。
この共通ルール作成は今後深めていこう。

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③人間関係の構築
 正直、これまでは、プログラム観察を通じてメンバーの人間関係図を心の中に描くことができたのだけど今回は至難の技。朝楓も参加したベトナムプログラムではメンバーの関係性や心理状態を常に観察しながら皆が関係性を深めながら交流深化&学びを両立させてきた。しかし、オンラインはどこで誰がつながっているかを可視化することができない。
 オフラインでも関係構築が難しい人間関係。オンラインな上に、バックグラウンドが異なる人たちによる異文化交流。文化、特に価値観に関わる部分は目に見えないことが多く、バーチャル交流で影響を与えることが難しい。
また、人間関係においては誤解やすれ違いがつきもの。オフラインであれば関係者をその場で無理やり引っ張ってきて解決することができても、オンラインの場合、その場でというのができず、時間がたつにつれ、問題が複雑化していってしまう。やっかいだね。
 今の時代は皆が様々な SNS を器用に駆使しているでしょ。僕もかなり使いこなしている方。例えば、SNS のグループって許可されたのみその存在を知っている。許可されていない人はグループの存在すら知り得ない。見えないところで様々な境界線がしっかりひかれていると、結果的に人間関係に歪みを作ってしまうし、プログラム構築側からすると全体像を把握しにくい。もちろんその利点があることは理解できるけど、難しい問題だ。

④メンバー1人1人のサポートができない。問題が起こっている人を助けられない。
 2年前のプログラム中、朝楓と僕は2週間ずっと一緒にいて、プログラムの目標達成に向けて、メンバーの交流状況を、あたかもサッカーのコーチのように、詳細に分析しながらメンバーとやり取りをしていたでしょ。

大瀬「確かに、あの分析には驚かされました。あの時にとったノートの量は半端ないですよ(笑)

 しかし、オンラインになると、一人一人の感情を推測するのが中々難しく、ましては影響を与えるのは至難の業。
 その上、活動を行なっているの中で、「ここだ」という瞬間に声がけできないからね。わずか3日間だけど、何度も悔しい思いをしたよ。その人にとっての「成長のタイミング」を何度も逃した。参加者からすれば、余計なお世話なのかもしれないけどね。


大瀬「人の感情はAIでコントロールできない領域と言われていますが、オンラインによる交流はその感情部分を察知して人間関係を構築させるのがかなり難しいんですね。しかも、多くのメンバーが一度も直接会ったことがないまま深い話をしていかなければいけない。信頼関係ができて、初めて心理的安全性の確保ができますが、そこに至るまでのプロセスをオンラインでは踏みにくいのが現状の課題ですね。人の感情を理解し、うまくコントロールするのにはどうしたら良いのでしょう。」


 これらを踏まえて、大切になってくるのが冒頭で伝えた「コンテンツ」だよ。今回のプログラムはみんなが一生懸命頑張っていけど、コンテンツをしっかり作り込むレベルに達することができたかと言われると、今日までのプログラムを見る限り多くの課題が残る。
 実際、今回のコンテンツによってベトナムと日本のメンバーの間に温度差が生まれてしまっている。初めてのオンラインプログラムということもあり、リスクヘッジの取り方がわからない。

 また、距離の問題や交流時間の長さにも関係するけど、常に近い距離で一緒にいるわけではないし、初めての体験を身を持ってオフラインと同等の感動を起こすことは難しい。例えば、初めてネパールに行った人がヒマラヤ山脈の壮大な景色を見てハッとさせられるような感動とか。あれはどれだけ僕が素晴らしさを語っても、実際にネパールに足を運び、自分で山道を登った苦労の先でないと理解はできないだろう。

 しかし、だからといってオンラインが感動できないわけでは無い。例えば、僕たちは映画を見て心を震わせて泣くことができる。筆者の意図した感動ポイントに僕たちは引き込まれているからだ。「交流を通じた」学びを目指しているAAEEにとって、今まで曖昧にしていた「感動」の定義や、終わった後の参加学生の「心的状態」などを想定してに明確に言語化した上で、その状態を作るための綿密な事業計画のようなものを作る必要がある。

大瀬「なるほど。壮大な事業計画書になりそうですね。オンラインの1週間のプログラムとなると、一事業の計画書よりも複雑になりそうです。休憩時間(の活用法)でさえプログラムの一部として考えないといけない。
先生のコンテンツのお話を聞いていて思い浮かんだのがディズニーリゾートですね。
 ディズニーのパークのコンセプトって夢の国じゃないですか。訪れた人たちは、パークにいる間その世界観に存分に浸ることができる。でも、その夢の国って自然作用的に作られたものではなくて、背景には綿密に練られた設定を忠実に対して、パークの中のキャストさんが練習を重ねて自然に演じられるまでになって初めてその世界観を作り上げられる。一つ一つ切り取れば、それも全てコンテンツの一部なんでしょうけど、全体を見た時になんとも言えない空間の中で現実を忘れて楽しみ、感動することができるんですよね。」

 そうだね。コンテンツによって戦略的に人の感動や新たな学びを創造することが可能になる。でもそのためには中途半端なコンテンツではなく、ゴールを見据えた作り込まれたものである必要があるんだ。このゴールとコンテンツが整えば、具体的な作業に関してはオンライン、インターネットの世界は最強だね。今までオフラインではできなかったことを無限に広げられる可能性に満ちている。パソコンという目の前の機械一つで様々な交流を可能にさせてしまうんだから。

 そう考えると、今後オンラインのプログラムが確立されれば、オフラインのプログラムには現地に行くからこそ得られるものや、体験できるものを明確に差別化して価値提供する必要が出てくるだろう。そこがはっきりしないと、わざわざ大金を払って現地に行く価値が見出せなくなってしまうからね。それだけ、オンラインは可能性を秘めているってことだけど、コンテンツを確立するのも相当難しいことではあるね。さらに言えば、学生パワーでそれを実現するとなると結構ハードルが高い。

大瀬「でも、ここはこれまでの十数年間の知見と学生の主体性によって成長してきたAAEEです。今回このプログラムに関わった人たちが、実体験をもとにより良いプログラムを来年以降のために作っていける可能性は十分にあります。そのためにも、引き続きオンラインプログラムに関して観察者として分析していく必要がありそうですね!」

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