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大瀬:3月ですね。年度末、大学生は春休みですが先生は学会発表などで大忙しですね。

関:数日前にタイのバンコクで開催された国際教育学会で発表した。初日Plenary Session(全体総会)での発表だったので結構緊張したよ。でも、世界20カ国以上の教育関係者と情報共有できて貴重な機会でもあった。

大瀬:先生の学会活動って、いつも海外ですね。

関:学会というのは研究の情報共有と同時に新たな出会いの場所でもある。外国で開催される国際学会の方が世界中の多様な文化やパーソナリティに触れることができるからとても貴重なんだ。

大瀬:先生が外国で頑張っている間もAAEEの学生たちは月例勉強会に向けてしっかりと準備していましたよ。先生も帰国直後でしたがご参加していただけてよかったです。ところで、今、先生が、「国際学会で『多様な文化やパーソナリティ』に触れた」と仰りましたが、今回の勉強会の中でも「文化とパーソナリティ」に関わる議論が活発になされていましたね。

関:そうだね。じゃあ、「文化とパーソナリティ」について少し触れておこうか。質問なのだけど、大瀬さんの人生に最も大きな影響を与えているものって何?

大瀬:え、急にそう聞かれると。何だろう・・・。家族、学校、職場とかでしょうか。

関:多文化関係に関する研究の先駆者とも言えるオランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士は、メンタル・プログラミングという考え方を提唱したんだ。文化とは「あるグループを他のグループから区別する心のプログラミング」であると定義し、人の行動に影響を与えるプログラムは3つのレベルに分けて考えることができるとした。

大瀬:プログラミングというと、コンピュータのプログラミングのようなイメージになりますね。人の考え方や感じ方、行動のパターンなどを分類して相手の反応を予想できるということでしょうか。

関:人のメンタル・プログラムの源は、その人が成長し、人生経験を重ねた社会環境の中にあると言われているんだ。生まれ育った家庭から始まり、近隣、学校、若者の仲間集団、職場や地域と広がっていく。

大瀬:メンタルプログラミングの3つのレベルを具体的に教えてください。

関:ピラミッド型で下から「人間性」→「文化」→「パーソナリティ」

関:最も低いボトムに来るのが「人間性」だ。これは理的欲求や喜怒哀楽といった基本的な感情であり、全人類共通のものと言える。

大瀬:ホモサピエンスとしてのプログラムですね。これは遺伝的、先天的な要素と言えますね。

関:反対にトップに来るのが、個人の性格、「パーソナリティ」だ。個人のパーソナリティは先天的な要素もあれば、生まれてから様々な経験や学習を通して獲得してきた後天的要素もあると言える。

大瀬:遺伝的な要素も、その人個人のパーソナリティも唯一無二のものなので他者とは共有できないですね。

関:そして、人類共通の「人間性」と「パーソナリティ」の間に挟まれているのが「文化」だ。人は生まれた時から所属している集団(親や親戚、近隣、地域社会など)から長い時間をかけて文化的なプログラミングをされていく。文化は生まれつきのものではないけど、生まれた直後、記憶もない頃から長い時間に亘って志に根付いていくので、人がそこから逃れることはほぼ不可能に近い。

参考 Geert Hofstede, Gert J. Hofstede and Michael Minkov, Cultures and Organizations: Software of the Mind, Inter︲ cultural Cooperation and Its Importance for Survival, 3rd ed., McGraw Hill, 2010(岩井八郎・岩井紀子訳『多文化 世界─違いを学び未来への道を探る 原書第 3 版』有斐閣,

大瀬:まさに、社会的動物であるわたしたちが集団のなかで生きていくため、さらには集団が文化内の個人を規定するための「グループ共通の心のプログラミング」ですね。

関:でも、同じ文化の中にいても一人一人のパーソナリティは少しづつ違うでしょ。ホフステードはこれをジグソーパズルに例えている。パズルのセットには二つとして同じピースはないよね。そのように、同じ民族や集団に属していても、一人ひとりは異なる特性、個性(パーソナリティ)を有していると考えられる。しかし、ジグソーパズルが完成し、全体として組み合わされた時一つの明確な像が浮かび上がってくるよね。

大瀬:一人ひとりは異なっていても、所属する文化に規定された共通性があるってことですね。

関:パーソナリティの話に戻ると、ホフステードは、パーソナリティを「先天的な人類共通の『人間性』と生後の環境から学習した『文化』の双方の特性に基づいていると定義している、と話したよね。人間性と文化に基づくパーソナリティについて考えた時、一人ひとりは異なっていても、社会全体としては共通の「ある文化」に影響を受けながらパーソナリティが変容していくとも言えるんだ。

大瀬:パーソナリティや個性はその人1人で完結するものではなく、その個人が属する文化に影響を強く受けているんですね。

関:僕たち人間はどうやっても文化から逃れることができないんだ。個人が望もうと望まなくとも、ある集団に属している以上、その文化に規定されて生活していく必要がある。その一例として、家庭の文化資本の格差が子どもに引き継がれ、格差が再生産されていく文化的再生産の問題がよく議論されているよね。

大瀬:正直、私は自分に備わっているパーソナリティやその支柱となっている文化に「生きづらさ」を感じているのですが、だからと言って、私はどう頑張ってもそこから逃れられないことを、大人になっていくに連れてより強く感じるようになっています。だからこそ、自分を見つめ直し、与えられた環境下で幸福感やウェルビーングを見つけていくことが大事になってきますね。


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