「価値観」を考える
大瀬:前回、パーソナリティ(性格)について先生と一緒に話し合っている中で別の疑問が湧いてきました。それは「価値観とパーソナリティの違い」です。先生は「価値観は簡単には変わらない」というお話をされていましたよね。
関:価値観は心の奥底に潜んでいるものだから簡単には変えられないという話をしたね。
大瀬:では、パーソナリティと価値観はどのような違いがあるのでしょうか。友達間でも、パートナーの関係でもよく、性格の不一致や価値観の不一致というワードが出てきますよね。全く同じ人間なんていないでしょうから、性格や価値観のずれが相互関係に影響を及ぼすことは当然あると思うんです。でも、先生と話している内に、我々の日常生活の会話において、この「パーソナリティ」と「価値観」の二つの用語が混同されてしまっていることが多いんじゃないかという気がしてきました。
関:その通りだと思う。ところで大瀬さんは「パーソナリティ」と「価値観」の違いをどのように考えている?
大瀬:え・・・
関:そう、それがとても自然な反応だと思う。急に「パーソナリティ」と「価値観」を問われてすらすら答えられる人はそういないよ。そんなことを考えながら日常生活を過ごしているわけがないし。でも、今までの話し合いの流れで考えていけばイメージが出てくると思うよ。
大瀬:そうですね・・・。パーソナリティは、遺伝的なものに生育環境が加わって形成された思考や行動パターンなのに対して、価値観は心の中のピンポイントで自分の生き方の軸や核になっているもののような気がします。あと、思うのは、自分の価値観を説明するのは、パーソナリティを説明するより遥かに難しい気がします。
関:授業の中でも「価値観」を分かりやすく説明するのは結構難しい。仮にここでは言葉通りに「何に価値を置くかについてのその人自身の観方」として話しを前に進めよう。
大瀬:確かに「何に価値を置くか」というのは人それぞれですね。私にはわかりやすい定義です。
関:一旦、パーソナリティに話を戻すけど、実はパーソナリティ研究はかなり進んでいて、例えば有名なものではBIG FIVEと名付けられたパーソナリティ特性があって、これに基づく性格診断のようなものが若者の間でも流行っているでしょう。大瀬さんは、5つ言える?
大瀬:もちろんです。
1. 経験への開放性
2. 誠実性
3. 外向性、
4. 協調性、
5. 神経症的傾向
私は英語の論文で読みましたが、日本語でもビッグファイブ心理尺度としていろんな書籍でも紹介されていますよ。
関:パーソナリティのこの診断方法は血液型診断などと比べて科学的根拠に基づいていて説得力がある。これまでの研究の成果だ。それに対して、価値観については、少なくとも私が知る限りでは、専門家以外の人々が気軽に議論したり診断できるレベルまでには一般化されてはいない。
大瀬:でも、知っておくべきことですよね。価値観って心の奥底に根付いているからこそ生きていく上で超重要ポイントじゃないですか。
関:そうだよね。価値観は、人のモチベーションにも大きな影響を与えているんだ。自分が価値を感じていることについて行動するときにはやる気も出てくる。僕は学生のモチベーションを高める方法を数十年にわたって探求しているよね。その中で「価値観探し」というのはとても重要なプロセスなんだ。
(詳しくは:Parks-Leduc, L., Feldman, G., & Bardi, A. (2015). Personality traits and personal values: A meta-analysis. Personality and Social Psychology Review, 19(1), 3–29.)
大瀬:思うに、私の価値観をつくりあげた出来事、経験のほとんどは幼少期でした。胎児期はもちろん、生まれたばかりで記憶があまりない頃からたくさんの情報を、家族や身近な人、身の回りの環境からインプットを受けて植え付けられていっているような気がします。
関:価値観は、パーソナリティ同様に生後間もない頃から、家族や身近な人々、さらには自分を取り巻く雰囲気全体から身につけていくんだ。そして乳幼児の心の中に育っていった価値観は、取り巻く地域社会や学校等の中で強化されていく。自分の記憶にも残っていない早い段階で形成され心の奥深くに内面化してしまうので、年を追うごとに変更や修正をするのはとても困難になる。
大瀬:個人の性格によって物事の捉え方が異なるからかもしれませんが、でも、同じ環境にいても価値観は同じにはならないですよね。例えば、私には弟がいますが、同じ環境で育ったはずなのに、似ている部分がある一方で、価値や重きの置き方が大きく異なることも多くて、たまに同じ家族であることが信じられなくなることもあります。
関:たとえ、生きる環境が似ていても、兄弟姉妹と言えどもクローンではないし、受けるインプットもその捉え方も違う場合が多いでしょ。もし、何らかの最強テクノロジーが開発されて可視化できるものになった場合、全く同じ形のものは一つとして見つからないよ。
大瀬:就活の時などに自己分析を試みていて気づいたのですが、自分の価値観を認識するためには、自分の相当に深い部分までアクセスする必要がありますよね。さらに、価値観は感覚的な側面もあるので、中々言語化するのが難しい。結局いまだに自分の価値観というのはわかったようなわからないような・・・とても漠然としています。
関:自己対話とか自己内省(セルフリフレクション)とか言うでしょ。これは自分の価値観を探すのにとても大事なスキル。でもね、このスキルを十分に備えていない人も少なくないのも現実。このスキルが発達していない、もしくは上手く活用できていない人は、いくら与えられた課題に熱心に取り組んでも、「モヤモヤ感」に苦しめられることになるんだ。「私っていったい何?」みたいに。
私:まさに今の私(笑)