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キル・ビル

このシーズンではロック音楽を少し離れて映画の中のTシャツについて話しています。
第二回もタランティーノ映画の中に出てくるTシャツです。

■キル・ビル『仁義』ある戦い


映画の演出で特に動きのある動的な演出と言う観点では日本のヤクザ映画というか深作欣二監督の演出は傑出していると思います。
人の動きはもちろんですが、画面全体にバッと広がるような動き、一瞬どこで何が動いているか目では追い切れないんですが、それがリアリティーを生んで、見ているものを興奮させるような効果があると思います。
そこに日本独特の『仁義』と言う感情と関係が物語のキーになる日本のヤクザ映画は、映画オタクのタランティーノにとってこの上ない素材であったのだと思います。
レザボア・ドックスでのミスター・ホワイトがミスター・オレンジを疑わない事と、それに対してミスター・オレンジの最後の告白は『仁義』の感情であり、もしかしたら欧米社会においてはあまり理解されない感情なのかもしれません。その辺は詳しくないので、人文学的な見地から詳しい方がいらっしゃればぜひ教えていただきたいと思ったりします。
ただこの『仁義』的なものはタランティーノ監督4作品目のキル・ビルの中にも出てきます。
ネタバレしない程度にストーリーを説明するとウマ・サーマン演じるブライドと言う殺し屋が自分を裏切った元仲間たちに復讐すると言う復讐劇なんですが、復讐に訪れた先で相手には子供がいて、子供の前で殺し合うことになったときのブライドと相手の間には『仁義』的なものがありました。
積年の恨みを晴らす復讐者は相手の子供の前では母親を殺しませんし、復讐される側も自分の娘の前では相手を殺さないのです。もしこれが現実の世界で起こったらどうでしょう?『仁義』的なものはあるかないかでそれは違うものになると思います。
『仁義』的なものの日本人の我々のような昭和を知っている世代なら違和感なくすんなりと受け入れられるんですが、欧米の文化圏ではどう映るのでしょうか?少なくともタランティーノは理解し、そこに面白さを見出しているんだと思います。

■映画の中の記号


『仁義』と言うもの自体映画の中のお約束的なものになっているのかもしれません。映画の中にはもっといろいろ約束事のようなものが多くあって、それは実際の現実とは異なっているものもあるようです。
例えば、拳銃のサイレンサーをつけて打つと「パスッ」って音しかしなくて周りに気づかれないとか(本当はもっと大きな音がするらしい)。あと窓ガラスを突き破って外へ出るって相当難しいらしいんですが、割と簡単に突き破って脱出成功とか…。映画のストーリー上その方が都合が良いことが多く、繰り返し使われているうちに何の不思議もなく受け入れられているというか、その方が当たり前になっている気がします。
最近の気になる映画のお約束は『ハッカー』です。引きこもりのジャンクフード好きの太った男子がけっこうなスキルを持っていて、体力、腕力に自信がないので、ぶつくさ文句を言いながらも都合よくネットワークに侵入して、都合よくロックを解除したり、機械を操作したりしてくれるのと言う…太ったオタク全員がコンピューターに詳しいわけではありません。しかしながらこの手の人物が出てくると、このオタクの『ハッカー』に任せれば何とかなるというふうに我々は見ています。

■日本にいることの映画的記号


キル・ビルに話を戻しましょう。
この映画、『仁義』だったり、最強の武器が日本刀だったり(パルプフィクションでも日本刀は最強の武器でした)、物語の中盤以降は日本が舞台だったり、ヤクザまで登場するので、日本の我々にとってスクリーンに映し出される『絵』は親しみやすいものであるようにも思いますが、全くそうではではありません。むしろその『絵』には違和感がいっぱいです。
アジア系女性スターのルーシー・リューが真っ白な着物を着て「やっちまいな!」と叫んでも、日本人の栗山千明が女子高生の制服を着ていても違和感満載です。ヤクザが行くような料亭にガールズバンドが裸足で欄干ステージで演奏するようなところを見たことがないですし、ヤクザ自体が目の周りを隠すマスクをして現れたら何の秘密結社なんでしょう、って。
そして沖縄のお寿司の大将が元刀匠で、その名前が服部半蔵ってそれはぶっ飛びすぎて笑えてきます。
昭和の頃、イチローやケン・ワタナベがアメリカで有名になるずっと前、アメリカで「知ってる日本人を教えてください」と言うインタビューをするとヨーコ・オノだったり、アキラ・クロサワの名前があがっていました。その中にブルース・リーが含まれていることが多く、時の日本の首相より香港の人ブルース・リーの方が日本人として有名だと言う面白エピソードがありました。
これはグリーン・ホーネットと言う探偵ヒーロー物のコミックがテレビドラマがされたときに主役の相棒(サイドキック)空手の達人カトーと言う日本人をブルース・リーが演じて大人気になったからです。グリーン・ホーネットとカトーが正体を隠すために付けているマスクがキル・ビルの中でヤクザがつけているマスクです。ブライドの黄色いバイクスーツやジャージは言うまでもなく映画『死亡遊戯』のブルース・リーのトラックスーツだとわかります。
キル・ビルが今から18年前2003年の作品であるとは言え日本がどんな国かぐらいちょいと調べればわかる時代ですから、日本の料亭がどんなところか、沖縄の寿司屋がどんな雰囲気か、ましてやブルース・リーが日本人ではないことなどタランティーノは百も承知で確信的にやっているわけです。とにかく自分と映画好きの中にある日本的な記号を残らず打ち込め!と。

■ブライドのTシャツ


日本人からしたら「なんで沖縄に日本刀やねん?」となるんですが、アメリカからしたら琉球王国の歴史なんて知ったこっちゃないでしょうし、そこも日本であることの記号的に沖縄になって、そこでサニー・千葉が寿司屋のマスターで引退した伝説の刀匠、服部半蔵として登場するわけです。
ブライドがその半蔵の寿司屋を訪れるときに来ていたのがこのTシャツです。
さすがにこれはお土産物屋にもないんじゃないでしょうかと言うデザインですね。漢字ですらなくてカタカナですから。そしてこれは沖縄を表しているのでしょうか?
青い空手着(というか青だと柔道着になるやん)を着たシーサーに赤いハイビスカス…しかも手書き風。
まぁ、ものすごく好意的にとれば、スカジャンの刺繍っぽくも見えるので、アメリカの方にはイカして見えるという事かもしれません。
ですが本当はそんなTシャツはないと言うことをわかっていて、わざと記号的にこれにしたのだとしても、そこまでする必要ある?
と思ってしまいました。それともそこにも記号化するには何かしら意図が存在したのでしょうか?くだらなすぎますが、タランティーノと友達レベルに親しくなって話ができるようになったらぜひ聞いてみたいです。なぜ、そこまで親しくなってからかと言うと、それは他にもっと聞きたいことがたくさんあるからです。

ちなみにご存知の方も多いと思いますが、このTシャツはキル・ビルのDVDスペシャルボックスに付属されていたものなので一応オフィシャルなものです。

と言うことで、今回はここまでです。タランティーノ作品はほんとどれも優劣つけがたく好きなのですが、また最高に面白いワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドと言う映画からもTシャツを紹介したいと思います。


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Vol.1では黄色いトラックスーツが完全にブルース・リーですね。
そして、おまけの無駄話です。
Vol.2はカンフー映画へのオマージュが込められていますが、修行中のユマ・サーマンが髪を二つに分けて三つ編みにしたおさげ髪にしています。(今はおさげ髪なんて言わないんでしょうかw)そしてグレーのチャイナ服を着ているんですが、長身でこのスタイルが異常なまでに可愛いんです。ほんの数カットしか写らないのですが、もうここだけを何回も観てしまいます。あまりに好きすぎるので、イラストを描いてしまいました、という話です。(せっかくここまで読んでくだっさったのにあまり意味なくて、スミマセン)

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