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story 朝靄

時計の針は
午前4時を指している
まだ暗い
夜明けがすっかり
遅くなった
ブランケットから出ている
鼻先が冷たい
ここ2・3日で
めっきり寒くなった
カーテンの隙間から
そっと外を覗く
薄明かりの中
枯葉が露に濡れている
チサは静かに
ベットを出ると
つま先立ちして
キッチンへ向かう
キッチンは
居心地の良い場所だった
憧れて購入した
ダルマストーブに火を灯す
紅く燃え出す色が良い
スリッパを
履いてくればよかった
足元が冷える
チサは茶葉の缶を探した
普段はアールグレイが好みだが
チャイを淹れるなら
アッサムかセイロン
ついこの間
偶然立ち寄った店で
見つけたアッサムティーが
美味しかった
シナモン、カルダモン、グローブ
好みのスパイスを入れ
ミルクパンを火にかける
何も考えない
音も無く静かな時間
ツーッと
お湯が沸き始める
束の間の無の空間
スパイスの香が
立ち昇る
少し甘くしよう
ミルクが煮立つ前に火を止める
ダルマストーブが
部屋の空気を温め始める
チサはチャイを注いだ
カップを持つと
窓辺に座った
ぼんやりと
外の景色を眺めながら
一口啜る
爽やかな香りと
まろやかな甘みが
白み始める
朝靄のように広がった

ことばはこころ。枝先の葉や花は移り変わってゆくけれど、その幹は空へ向かい、その根は大地に深く伸びてゆく。水が巡り風が吹く。陰と光の中で様々ないのちが共に生き始める。移ろいと安らぎのことばの世界。その記録。