story 記憶
沈みゆく太陽の中に
黒い影がある
岬の向こうは紺碧の大海原
波は黄金色に荒くうねり
めらめらと太陽を飲み込んでいる
吹き荒れる風は
長く伸びた髪をもて遊ぶように
乱し続けた
しっかりした体躯
肌は日に焼けて艶がかっている
破れかけた粗末な布を
その身体に巻きつけて
何事か太陽に向かって叫んでいる
岸壁の上で両の脚を踏ん張り
必死に声をあげている
なぜなんだ
なぜ私は
この様に生きているのか
この見窄らしい有り様を
あなたはただ見過ごすのか
あなたは嘗て
私の母であり父であった
なぜ私に苦しみを
与えて続けるのです
この世にひとりで
何をしろと言うのです
光の球はメラメラと燃えながら
怒涛の響きに言葉を乗せる
孤高…
お前は戦士
お前は光を持っている
退くという勇気
敗れるという誉れ
譲ることを知ってこそ
本当の勇者になるのだ
男は膝をついた
もう何遍も味わったではないか
まだ足りないのか
そのまま力なく
草の上に顔を臥した
この星が辿ってきた歴史を
いくら紐解いても男のことは
分からない
男が母や父と叫んでいた光の球も
果たして太陽だろうか
遥か昔のことかもしれないし
まだ見ぬ遠い未来のことかもしれない
ことばはこころ。枝先の葉や花は移り変わってゆくけれど、その幹は空へ向かい、その根は大地に深く伸びてゆく。水が巡り風が吹く。陰と光の中で様々ないのちが共に生き始める。移ろいと安らぎのことばの世界。その記録。