poem 旅人
森のはずれの
静かな泉
そのほとり
旅人がひとり
座っている
私はどこへ
向かっているのか
旅の目的も
忘れてしまった
森のはずれの
静かな泉
そのほとり
旅人は
旅した道を
振り返る
生きた証を
探すように
森のはずれの
静かな泉
そのほとり
旅人はふと
ある風景を
思い出す
あの山辺の
村の灯り
炉端にはぜる
細かな火の粉
煮込んだ鍋の
汁の味
体に流れた
温かさ
私は確かに
あそこにいたのだ
森のはずれの
静かな泉
そのほとり
誰かいたのか
草の上
折れた跡に
木漏れ日が
ただ ただ
静かに
差している
ことばはこころ。枝先の葉や花は移り変わってゆくけれど、その幹は空へ向かい、その根は大地に深く伸びてゆく。水が巡り風が吹く。陰と光の中で様々ないのちが共に生き始める。移ろいと安らぎのことばの世界。その記録。