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story 灰色の街で

煙草の煙が
壊れた屋根の隙間から差す
日差しの中を昇っていく
静かに吸っては
吐き出されていく
その煙は
ハシユ(ズレたもの)という
男の呼吸だった
虚なまま
男はただ
煙草を吸っては吐き
気だるそうな煙を
くゆらせている
ズレたものとは
よく言ったものだ
属するものもない
ここにいることさえ
誰が気に止めようか
薄暗い路地の
冷たい風が
心地よかった
心地よい?
オレはまだ
心地よさを感じるのか
だかすぐにその問いは
消えた
とりとめもないことだ
思考など
とうにない
どこで朽ちようと
知れたことか
薄陽に白く揺れる煙が
どこか
百合の花のように見えた


ことばはこころ。枝先の葉や花は移り変わってゆくけれど、その幹は空へ向かい、その根は大地に深く伸びてゆく。水が巡り風が吹く。陰と光の中で様々ないのちが共に生き始める。移ろいと安らぎのことばの世界。その記録。