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story 琥珀に溶ける

まるでイミテーションね…
女はグラスを傾けながら
遠い目をした
スポットライトなら
もう飽きるほど浴びたわ
カウンターの
灯りが揺れている
そんな言葉じゃ慰めにもならない…
甘い言葉は世間知らずの
かわいいお嬢ちゃんに
あげることね
コバルト色の服から
滑かな肩を覗かせて
女はシガレットに
火をつけた
滴り落ちそうな
真紅のネイルが艶に光る
死の淵に立った女を口説こうなんて
バカな男ね
女は細く煙を燻らせた
分かったよ
オレの負けだ
男は参ったというように
降参の手を挙げてみせた
とんだゲームね
遊びならもっと楽しくおやりなさいよ
本気ならもっと私を震わせてみて
魂が揺さぶられる程の快感を
私に感じさせごらんなさいよ
女は静かに笑っている
グラスに揺れる琥珀色の氷が
小さく刹那の音を立てた

ことばはこころ。枝先の葉や花は移り変わってゆくけれど、その幹は空へ向かい、その根は大地に深く伸びてゆく。水が巡り風が吹く。陰と光の中で様々ないのちが共に生き始める。移ろいと安らぎのことばの世界。その記録。