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何者かになる、ということ パート2


 以前にも「何者か」になるとはどういうことか、という話を書いたことがあるのですが、そのブラッシュアップというか、第二弾です。

 前回も「くせもの」のイラストでしたので、今回も踏襲します。くせものじゃ、出会えであえ!


 前回の話しぶりでは、いわゆる世間の人が考える「何者か」というのは、

◆ それを生業としていて、それで食べてゆけること

◆ そのなりわいを、ずっと維持すること

だと、仮に定義してみました。実際、世間では、そういう状態になったことを「何者かになった」と考える傾向が強いと思います。

「俳優さんになった」「電車の運転手になった」「スポーツ選手になった」などなど。


 しかし、一方で、「その状態を失ったら、”何者か”は変化するのか」という問題も実は隠れています。たとえば

『あの人はいま!で特集される女性は「女優」になれたのか、「女優」だったのか、それとももう「何者でもない」のか』

という問題が生じます。つまり、これは継続性の問題で、「一瞬は何者かになれたけれど、人はその資格を失うことがあるのか」という衝撃の展開ですね。


 この部分を皮肉っぽく扱うと「一発屋」という言葉が生まれます。

 今の若者や、あるいはみなさんの中にも「何者かになりたい!」と思う人はたくさんいると思いますが、仮に何者かになれたとしても

「一発屋で終わるかもしれない」

ということは十分にあるわけで、でも、まあ大抵の人は、「それは嫌だ!」と感じるのではないでしょうか。

 ということは、全体をまとめると

◆ 生業を手に入れ、それで他者から認められ

◆ 少なくとも長い期間、せめて老人になる寸前くらいまではその状態でいること

が「何者か」だということになるでしょう。

 けれど、これってかなり無理ゲーです。

 実際のところ「芸能人」として一世を風靡した人でも、一発屋ほどではないにしろ消えてしまう人はたくさんいます。堀北真希ちゃんなんかは、自ら引退しちゃったし。

ということは、真希ちゃんは、ある世代の人にとっては「何者か」として認識されますが、令和世代の若者にとっては「誰それ?」という状態なわけで、なかなか難しいところですね。


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 さて、結論から言えば、「何者か」というのはひとつの幻想みたいなもので、自分の社会における立ち位置を、どのように「明確化」「可視化」するか、という話にすぎません。

 「会社員です」「俳優です」「スポーツ選手です」「シェフです」といったラベルを用いて、自分が社会生活のつながりや輪の中で、「どんな立ち位置にいるのか」をわかりやすくしているだけのものなのです。

 今、私達は物心両面に満たされた社会の中にいますので、「何者か」に固執しますが、たとえばジャングルの中の村やアフリカの大地で生まれたら、あなたには「何者かになる」という選択肢がそもそもあるでしょうか?

 せいぜい酋長の家柄とか、そういう立場はあるかもしれませんが、その他大勢の人たちにとっては、「何者か」とは、よくわからない概念です。

もちろん、「俺は鍛冶の仕事をしてるぜ」とか、「なんとかの作物を育てているのさ」くらいはあるでしょうが、それを持って、部族社会で「何者か」になれたかどうかなんて、そもそもどうだっていいことだと思われます。


 それを、高度文明社会の中では、自分の立ち位置を細分化して、明文化することで、なんとか心の安定を測ろうとしているだけなのですね。

 ちょっと前なら「サラリーマンは、気楽な家業ときたもんだ♪」と口ずさめば済んだものが、もうそれでは済まなくなっている。それくらい幻想が肥大化しているとも言えるでしょう。


 話は変わりますが、わたくし武庫川、昨日テレビの収録がまたありまして、今年2本目のTV出演です。もちろん「解脱者」としては登場しません。アマチュアの「なんとか研究家」というラベルを貼り付けて紹介されるわけですが、だからといって私は「なんとか研究家」たる何者かになれたのか、と言えば、そういう実感はありません。

 あくまでもふだんは会社で仕事をしていて、3児の父であり、youtubeに音楽をアップしたり、猫と戯れたりしているただのおっさんだからです。聖子ちゃんとは違って、うんこもします。

 だから逆に言えば、今テレビの中で活躍している芸能人やスポーツ選手であっても、番組に呼ばれていなかったり試合がない時はただのお父さんやらおっさん・おばはんなんですね。

 テレビ番組のすべてはディレクターが台本を書き、回しています。タレントさんと一緒にお仕事をしたことも何度もありますが、彼らはとても上手に、台本や流れの上で演技をしているわけです。

 そしてわたしも「なんとか研究家」らしい振る舞いを演じます。何者か、というのは、一種の虚構でもあるわけです。

 そういうことを考えると、「何者か」というのは、実はもっとゆるーい概念でよいのではないか、と思うのです。


 「なんとか研究家」「俳優」「歌手」「大学教授」「会社役員」といったラベルは、端から見れば壮大で偉そうで大きな「看板」のようなものですが、実態は、その人の生活の一部を少しわかりやすくした「ラベル」に過ぎません。

 つまり「何者かになりたい」ということは、実は、そうした「ラベルが欲しい」ということでもあります。そう思うのは

”ラベルを持っていない”

からです。


 よく「何者か」の話になると「何者かになって、見返したいんだ!」みたいな思いが登場することがありますが、あれはその典型的な例で、そもそも「ラベルを持っていないから、渇望する」ということなのですね。

 逆に言えば、小さなラベルをたくさん持っている人、つまり、生活にいろんな側面がある人は、「何者か」になる必要もないし、それを渇望しなくても、十分生きていけるのです。

「会社で係長をしていて、村の自治会で衛生委員をしていて、消防団員でもあって、草野球チームのピッチャーで、神社の氏子、なおかつ娘は学校のバスケチームのメンバーで、その送迎をしているお父さん」みたいな田舎のどこにでもいるおっさんは、すでにラベルだらけなので、もう「俺は何者かになる!」とか、思わないのです。

 もうこのおっさんは、PTAに行けば「ああ!誰それさんとこのパパ!」と言われるし、村の中では「今年の祭りも頼むで!」と言われるし、「今月の試合、グラウンド押さえといて!」と言われて慌てなくちゃならないのです。

 もはや「何者か」など、どうでもよく、サイレンが鳴れば出動しなくちゃあならないのです。けれど、十分「どこそこ村の、誰それさん」としては、しっかり通用している。


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 このように、「何者か」の正体というのは、実は「小さなコミュニケーションの輪」や「コミュニティでのつながりのネットワーク」における”立ち位置”そのものなのです。

 どれだけのコミュニケーションがあって、どれだけのコミュニティに属したり関わったりしていて、そこでどんな立ち位置にいるか、が「何者か」の正体ですから、仮に一つの立場が変わったり、コミュニティが変化しても、個人のアイデンティティが失われたり崩壊したりすることがないわけです。

 草野球チームはもう年齢だし解散!でもいいわけで、それがゲートボールチームに変わっても、その人のアイデンティティが失われることはありません。


 ところが、都市部に生活していて、コミュニティと疎遠な人は、自分はただアパートの一室で生息しているだけで、どこにも立ち位置がありません。せいぜい会社には出勤しているものの、その他大勢の歯車のままでは、あやふやな位置のままで不安を抱えることになります。

 だから「何者かになりたい」という気持ちが芽生えてくるわけですね。


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 では最後に「何者か」になる方法を教えましょう。それは簡単、人生において他者とのつながりを増やし、小さなラベルをベタベタ貼っていくことです。

 ブログを書き、youtubeにしょーもない動画を貼り、またブログに「しょーもないyoutuberです!」と書きましょう。それだけであなたには「しょーもないyoutuber」というラベルが出来上がります。

「しょーもないyoutuberの雑記ブログ」を更新し、会社の名刺に”「しょーもないyoutuber」やってます”のシールを貼って配ります。

 そうすれば取引先に「しょーもないアレみたよ!」と笑ってもらえます。そして、本業の仕事が少しは回ってくるのです。

ツイッターに「しょーもない活動」の報告を上げ、「しょーもない男の婚活企画」を立ち上げます。

「しょーもないデート」プランからはじまり、最後にドカンと「しょーもなくないプロポーズ大作戦」をアップするのです。

 ついでに「しょーもないものですが」シールを作ってメルカリで売ります。プリンターで印刷して貼れるやつを。

 それを自分でも粗品に貼って、気心のしれた取引先に配ります。「こんどこんなシール作ったんですよ~、しょーもないものですが!」と。その話をブログに書きましょう。「しょーもないものですがシール」がヒットします。

 もうその頃には「日本一しょーもない男」として、メディアのどこかが拾ってくれる可能性が大です。なんならネットメディアのツイートに乗っかってRTすればいい。気付いてもらいましょう。あなたの存在を。

 ほら、もうあなたは「何者か」になれているのです。もう何者かになることよりも、日々が楽しくて仕方ないはずです。

 さあ、今度はどんなしょーもない活動を考えようか、と。

その時、あなたは本当に、真の「日本一真剣なしょーもない男」になれたということです。


 以上、日本一の解脱者がおとどけしました。





 


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