2_3_濃度の分析

「molと聞いて頭痛を起こす人たちのための化学+」シリーズ-3
【濃度の分析】
 前回正確さの話をしたので、続いて分析で何が分かるかを書いていきます。やっていること自体は日常生活の中の行動や判断と変わらないのですが、それを幾分細かく見ていきます。


1.定性分析と定量分析
 先ずは用語解説から行きましょう。

定性分析:その物質が何でできているかを調べる。同定とも言う。
定量分析:特定の物質・現象の量を調べる。熱や導電率などの形を持たないもの分析も含む。

 定性分析で調べることは目的によって変わります。日常生活で考えれば金属製なのか樹脂製なのかと言った材料を調べる分析も定性分析に含まれますが、化学で行われる定性分析は更に詳しく分析します。以下に挙げていきます。

元素:元素を調べる。分析方法にもよるが化合物までは分からないことが多い。
化学物質:化学物質を調べるが、複雑な分子の構造までは分からないことが多い。
構造:結晶の形や大きな分子中の原子の並び方を調べる。

 こう書くと最初から構造を分析すれば良いと思うかもしれません。しかし、分析方法によって向き不向きがありますし、そこまで調べなくとも良いこともあります。例えば水に溶けている軽金属はイオンになっているので元素さえ分かれば問題ありません。最初に目的を決め、それに合った分析方法を選べば良いと言うことです。
 続いて、物質の量即ち濃度・含有率を調べたい場合の定量分析は定性分析でどんな物質があるか分かった後に行います。また、定量分析では調べたい濃度・含有率の範囲が重要です。例えば%オーダーで知りたいのにppmオーダーが分かる分析装置を使うのは浪費です。当然、逆も然り。従って、定量分析で調べたい内容によって分析方法が決まります。例えば、元素を%オーダーで知りたければそれに合った分析方法を選ぶと言った感じです。
 化学に於ける定量分析で調べる内容を以下に挙げていきます。

重量分析:質量を調べる。
容量分析:体積を調べる。体積膨張・収縮などの分析でも行われる。
比色分析:色調、発光・吸光の光度、電気・磁気、熱、放射線量などを調べる。


2.検量線(calibration curve)
 定性分析で成分が分かった後にその成分の定量分析を行うことを説明しました。では、分析する際に分析装置がそのまま数値を出してくれるかと言えばそうとは限りません。むしろ、分析装置が出した信号から計算して濃度・含有率を計算することが普通です。続いてはその計算方法を簡単に説明します。
 ある試料Aの中に物質a1が入っていたとします。この試料Aを分析装置に入れて物質a1の信号を読み取ります。装置によっては試料をそのまま入れてしまうと試料Aの主成分の信号が大き過ぎて邪魔になったり汚れになったりするので、その危険性がある場合は薄めてから入れ、後からその薄めた倍率で補正します。今回はその危険性がないものとして話を進めます。
 続いて物質a1の信号からおおよその濃度を予想し、その近くの濃度の物質a1を用意します。例えば試料A中に入っている物質a1が50%程度ではないかと予想された場合、試料Aと共通の母材(溶かしている溶媒などのこと)を用いて既知の濃度の物質a1として20,40,60%の試料を用意します。この試料のことを標準試料(STD、standard sample)と言います。こらら3つの標準試料を分析装置に入れてそれぞれの信号の強さを出します。そうすると以下に示すような表とグラフができます。

表.2-1 標準試料の信号強度


図.2-1 物質a1の検量線

 このグラフ中の近似線を検量線と言い、この場合は3点の使っているので3点検量線と言います。このグラフは例なのでわざとらしいくらい分かり易い数値になっていますが、現実だと幾分ずれが生じます。【正確さ】の記事でも書いた誤差が生じるからです。従って現実的には以下のようになります。

表.2-2 現実的な標準試料の信号強度

 更に現実的に考えれば、作った標準試料の濃度もここまで切りの良い数値は出ません。

図.2-2 現実的な物質a1の検量線

 グラフ中の近似式は【正確さ】の記事にも書いた最小二乗法で出しています。R2も確認し、前以て設定した値より小さい値の場合再測定します。例えば精密な分析が要求されるからR2≧0.99と言った感じで設定します。また、本来であれば信号のばらつきを考慮して数回測定してその平均値を使います。当然正確さの確認も行い、外れ値が出たら除外します。
 こうして出した近似式に試料Aを測定した際の物質a1の信号強度を代入して濃度を求めます。知りたい物質が増えた場合も同じように物質ごとに検量線を作って濃度・含有率を計算します。
 ここで一点気を付けて貰いたいことがあります、上記の近似式は無限の範囲に使えると言うわけではありません。装置の性能の問題などにより余りに小さい値は検出ができません。従って、検出下限(LOD、limit of detection)或いは定量下限(LOQ、limit of quantitation)が設定されます。細かい事を言えばこの2つは違うものですが、本稿を読まれる方は気にしなくて結構です。定量下限を決める計算も幾つかありますが、ここは際限なく小さい値まで分析できるわけではないと理解できれば結構です。この定量下限値以下の値は「ない」ではなく「未検出(N.D.、non detected)」として扱います。日常的な感覚としては「ない」でも良いのですが、そこまで調べなくて良い場合もあるので分析化学としては「ない」と断言はしません。とは言えそんなところに存在するはずがない場合は習慣として「ない」と言ってしまうこともあります。


 このような定性分析及び定量分析を用いて日常的に用いる食品や道具に含まれる物質の検査を行って人々の安全を守っています。

2024/01/22:検出下限の説明を追加

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