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IT業界は派遣だらけ!SESとはなんなのか?


はじめに

皆様、お久しぶりです。
今まで、私の作成した記事では「無期雇用派遣」「技術派遣」といった言葉に焦点を当てていましたが、似たような意味を持つ「SES」という言葉にはほとんど触れていませんでした。
というわけで、今回は「SES」について解説をしていきます。

SESとは何か

SESとは、「システムエンジニアリングサービス(System Engineering Service)」の略で、顧客先に技術者として派遣され、客先常駐として働くことを指します。なお、SESを行う場合、顧客先企業は派遣元企業に時間に応じたお金を支払う必要があります。
IT業界においては、セキュリティ面の都合などにより、客先常駐として働くことは一般的になっています。
厚生労働省によると、エンジニアに客先常駐をさせているIT企業の割合は、実に9割に上ります。

厚生労働省の働き方・休み方の改善に向けたアンケート調査より引用

SES企業とは

先程も述べた通り、SESとは働き方の一種なため「SES企業」という呼び方に明確な定義はありません。
というのも、大手IT企業(某F社、某N社など)であっても、仕方なくSESをしているということもあります。
その為、本記事では「SES事業を中心として利益を得ている会社」のことをSES企業と呼ぶことにします。

SESは派遣と同じ?

厳密に言えば、一応違う点はあります。

その1.指揮命令権の違い

派遣契約の場合(登録型、正社員型同様)の指揮命令権は、派遣先企業にあります。
しかし、SESの場合の指揮命令権は派遣元企業、つまりエンジニアが所属している企業にあります。
SES契約において、派遣先の企業に指揮命令をされた場合、偽装請負という犯罪行為になります。

その2.労働者派遣事業許可取得の有無

現在の日本で派遣事業を行う場合、許可番号の取得が必須となっています。
(例) 派01-234567
しかし、SESの場合は労働者派遣事業の取得をする必要がありません。なので、SESは正確に言えば派遣とは違うことになります。

実態は…

先程、SESは正確に言えば派遣とは違うと申しました。しかし、先に結論から申します。

普通の派遣とほぼ変わりません。

というのも、結局顧客先の企業からすればSESだろうと派遣社員であろうと、使い捨ての存在には変わりがありません。
数カ月程度のプロジェクトが終われば、結局SESで来た社員はいなくなってしまうため長期間在籍するというケースは稀です。そのため、普通の正社員と比べると、ぞんざいに扱われやすいです。

デメリットは他にも

SESのデメリットはかなり多くあります。主なデメリットをいくつか紹介します。

その1.下請けの最底辺

IT業界は多重下請け構造になっており、SES企業はその最底辺に位置します。

https://eotokyo.org/activity-report/2586/
より引用

この図で言うところの3次請け以下はほとんどがSESです。
このようなピラミッド構造になっていることも、IT業界に客先常駐が多い理由の一つになっています。

その2.給料が安い

先程申した通り、SES企業は下請けの底辺です。そのため、中抜きされることが非常に多く、結果的に給料が安くなりやすいです。
参考までに、IT業界全体の平均年収は約500~550万円です。それに対し、SES企業の平均年収は約350~400万円と約150万円も変わります。このことからもSES企業がどれだけ中抜きを行っているかがわかると思います。
一応、SESで年収600万円以上稼いでいるようなエンジニアも少しはいますが、その様な方は恐らく、普通のIT企業に勤務していれば年収1000万円以上を目指せるぐらいのポテンシャルを持っていると思います。

その3.偽装請負や経歴詐称が横行

最初の方に、偽装請負は違法行為だと申しましたが、実態としては偽装請負が横行しているのが現実です。結局、扱いは普通の派遣社員と同じにされるケースが多いです。
また、経歴詐称という行為も横行しています。
例えば、派遣させる社員は新卒入社1年目にも関わらず、SES企業の営業や上司が派遣先企業に実務経験3年だと伝えるという行為です。派遣された社員にとっては与えられた業務がほとんどできず、派遣先企業にとっては事前に聞いてた話と、実際に派遣されてきた社員のスキルが全然違うということが発生し、お互いに損をします。得をするのはSES企業の上層部だけです

その4.勤務地が選べない

SESは、無期雇用派遣同様勤務地の選択権がありません。
そのため、当然全国転勤があり、運用監視などの場合は夜勤となる場合もあります。その場合の夜勤手当は、勿論SES企業に中抜きされます。
また、IT業界には「デスマーチ」という言葉があります。これはプロジェクトが炎上し、文字通り命に関わるほどの過酷な労働を課せられることを意味しますが、派遣先の選択権がないSESではこのようなプロジェクトに放り込まれることがざらにあります。
私の母校の先輩にも、SES企業に入社しブラック企業に派遣され、入社後半年でうつ病になり退職してしまった方がいらっしゃりました。

その5.職場環境や業務内容がすぐに変わる

SESというのは、数カ月程度でプロジェクトをたらい回しにされるため、職場環境や勤務地、業務内容はすぐに変わります。
今までのプロジェクトはJavaでの開発を行っていたのにもかかわらず、次の派遣先ではC言語での開発に変わり、また新しいことを覚え直しになることなんて当たり前です。その上、先程申した通り派遣先が選べないため、職場環境は完全に運勝負となってしまいます。

その6.スキルが身につくかは運次第

派遣先が運次第ということは、当然スキルが見につくかも運次第です。
新卒1年目の代表的な派遣先は、テスターと運用監視です。テスターは、完成したプログラムをひたすらテストするだけという内容で、仮にテストを実施したことでバグが見つかったとしても、そのバグを修正するのは派遣先企業の正社員というケースが多いです。
運用監視は、サーバーやプログラムなどに異常が発生しないかをひたすら監視するだけという内容です。この場合も、SES企業の社員はただ見張るだけであり、異常が発生した時に対応するのは基本的に派遣先企業の正社員です。
テスターや運用監視自体はどちらも欠かせない工程ではあります。そのため、1年以内であればこれらの経験を積むのもなしではないです。しかし、SES企業の場合はこれがいつまでも続きますし、何よりわざわざSES企業に入社してこれらの経験を積むメリットはありません。

その7.ITに関係のない業務をさせられることがある

先程申したテスターや運用監視は、ITに関係があるだけまだマシです。なぜならSES企業の場合、ITに全く関係ない派遣先に飛ばされる可能性があるからです。
代表的なのは、ヘルプデスクやコールセンター、データ入力です。ヘルプデスクやコールセンターは電話の応対をするだけで、プログラムにはほとんど触る機会がありません。
データ入力は、エクセルなどにひたすらデータを入力するだけというアルバイトでもできるような単純作業です。これらを続けていても、ITのスキルは一切身につかないですし、次の派遣先もスキルが身につかない派遣先になってしまう可能性が高くなります。
ここからは流石にレアケースにはなりますが、携帯ショップや家電量販店の店舗販売員、工場でのライン作業、挙句の果てには農作業の現場や原発、警備員の業務をさせられたという事例もあります。派遣社員に警備員の業務をさせる行為は違法行為になるのですが、ブラックなSES企業は平気でその様な行為に及びます。

見分け方

IT業界はSES企業が非常に多いため、慎重に見極める必要があります。
しかし、それでも見分ける手段というものはあるため、いくつか紹介をします。

その1.労働者派遣事業の許可番号を取得している

隠れ派遣会社を避けるにあたって、最も定番な方法になります。
人材サービス総合サイト - 労働者派遣事業所検索・一覧 (mhlw.go.jp)

こちらのサイトは、厚生労働省が提供しているサイトであり、大手企業から零細企業まで、労働者派遣事業の許可を取得している全ての会社を検索することが出来ます。
先程も申した通り、SES事業は厳密には労働者派遣事業の許可を取らなくても行えるのですが、実態としては大半のSES企業は労働者派遣事業の許可を取得しています。
その理由については、私の推測にはなりますが、社員から「SESなのに派遣先企業に命令を受けた。これは偽装請負ではないか」と指摘された際に「SESじゃなくて無期雇用派遣での契約だから、指揮命令権は派遣先企業にあるんだよ」と言い訳できるようにしているのでしょうね。
とまあ、ここまではいつも通りなのですが、技術派遣会社と違いSES企業の場合は労働者派遣事業の許可を取得していない企業も存在します。そのため、これだけではまだ完璧な対策とは言い難いです。
ということで、他の見分け方もいくつか紹介します。

その2.就業時間などが曖昧

SESの場合、勤務地などがかなり曖昧な表現で記載されていることが多いです。その他にも年間休日や勤務時間も曖昧になっていることが多いです。SESの場合、休日は派遣先企業ではなく派遣元企業に合わせなければいけないため、年間休日が曖昧なSES企業はほぼ確実に偽装請負を行っています。同じIT企業でも、このような会社には絶対に入社してはいけません。
下記のように曖昧な表現になっていた場合は要注意です。

勤務地:東京都、首都圏
勤務時間:9:00~18:00(休憩1時間)(プロジェクトにより異なる)
年間休日:123日(顧客先により異なる)

など

客先常駐を前提としている場合、「~により異なる」などといった文言が記載されていることが多いです。

その3.社員数に対してオフィスが小さい

SES企業の場合、客先常駐を前提としているため、基本的に内勤の人間だけしか本社に来ません。そのため、オフィスは最低限の大きさになっていることが多いです。会社概要の項目に、本社の住所が掲載されていると思われますので、ストリートビューなどでオフィスの大きさを調べておくとよいです。
ただし、テレワークを前提としているためオフィスがあまり大きくないというケースもあるため、確実にSESとまでは言いきれません。

その4.未経験可能をアピールしている

SES企業というのは、自社開発企業やSIerと比べて未経験でも入社しやすいです。そのため、未経験可能をアピールしている場合も要注意と言えます。
しかし、新卒の場合はポテンシャル採用があるため、大手のSierであっても未経験者を採用しているケースは存在します。
その場合は、会社のホームページから中途採用のページを確認するとよいです。IT企業の場合、新卒なら未経験者を採用していても、中途採用の場合は実務経験必須という場合が多いため、中途採用でも未経験者可能をアピールしていた場合はSES企業の可能性が高まります。

その5.帰社日がある

帰社日がある場合、確実にSESです。そもそもSESじゃなかった場合は自社で勤務をしますから、帰社日という概念がありません。帰社日を設けることで、普段、客先常駐ばかりの業務で自社への帰属意識が薄れてしまうのを防ぐ狙いがあるのでしょう。
ただし、SES企業でも帰社日を設けていない会社は多くあるため、帰社日がない=SES企業ではないというわけではありません。

高確率で避ける手段

こんなことを言ってしまえば元も子もないかもしれませんが、IT業界にいる限り客先常駐は付き物です。
SES企業は勿論、元請けのSierですら客先常駐をすることもありますからね。正直、元請けであれば同じ客先常駐であっても下請けSESよりは待遇は良いです。しかし、派遣先の企業からすれば、元請けだろうと下請けだろうと、結局使い捨ての派遣社員に変わりはありません。そのため、どうしても客先常駐を避けたいという方もいらっしゃると思われます。
なので、ここからはどうしても客先常駐を避けたい方向けの内容です。

その1.自社開発系のIT企業に入社をする

その名の通り、自社で製品を開発しているIT企業に入社をするということです。その場合、自社製品の開発業務に従事をすることになるため、客先常駐というものはありません。しかし、自社製品を作っていると言いながら、実態はSES事業が中心という場合も存在するため、どのような製品を作っているかや、その製品が売れているかはしっかりと確認が必要です。
私の場合、
・派遣事業の許可を取得していないか
・勤務地などは具体的に記載されているか
・業務内容が具体的に記載されているか
・中途採用で未経験者を採用していないか
・オフィスが狭すぎないか
・どのような製品を販売しているか
・その製品はどの程度売れているか
・会社ホームページに製品の紹介ページがあるか
・口コミサイトに客先常駐、派遣などといったワードがないか
といったように、かなり徹底的に調べました。正直、IT企業に就職したいが客先常駐はしたくないという場合、これぐらいは調べるのが必須になると思います。

その2.社内SE職として入社をする

IT業界以外の企業(サービス業界、インフラ業界など)であっても、社内SEや情報システム部門、セキュリティ部門といった部署での採用を行っている場合があります。その場合、自社のシステムの設計や運用、メンテナンスといった業務に従事をすることになるため、当然客先常駐はありません。
このように、IT業界でなくともITに携わることは可能です。なので、客先常駐を避けたいという場合はIT業界以外にも視野を広げることをおすすめします。

最後に

いかがでしたでしょうか。SESについて書きたかったことを全て書いたため、非常に長い記事になってしまいました。
近年、IT業界の人気が高まっているように思えますが、実態はIT企業を自称する派遣会社だらけです。
ちょうどこの記事を書いている頃に「正社員雇用と聞いていたのに、実際に勤務すると派遣社員だった」という理由で退職代行を使ったという投稿を目撃しました。IT業界においては、このような現象が特に発生しやすいため気をつけてください。
IT業界に就職、転職したいという方は、しっかりと業界、企業研究を行うことをおすすめします。
ここまでご覧いただきありがとうございました。

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