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赤い傘を、さしてゆく。 私のでない、むろん彼のでもない女物の、ほんの微かにダマスクク…
金魚鉢の街で。 すこし肌寒い水。今日は。 結婚式だろうか葬儀だろうか、忘れてしまっ…
風薫る季節。 その町ではお見合いの制度が古来よりあり、今もなお淡々と続く。 誰の御…
風薫る季節。 「日曜会ってみて頂戴、いいお嬢さんなのよ」 大伯母は家にくると僕に土産…
【No.058】 某刑務所にて服役中。上下白い服を着て、ほかの罪人の男たちとのんびり歩いてい…
アールデコ調のエントランスの屋根で羽をひろげる孔雀は、飾りかと思ったら、本物。 親類…
【No.053】 軀じゅうに突起をもつ男と寝る。手を握られただけで、快感か何か知れぬ刺激に喘ぐ。男は手脚にも胸や尻にも、脣や舌に迄突起が。私は幾百と壺を圧され軀も理性も壊れはて。僅かに遺る意識に、父の姿が映った。最後の父。私にパスタを与えようと、何メートルも腕をパスタを伸ばすが、私の脣には届かない。 ◆◇◆ 【No.054】 深更。帰れず彷徨っていると、灯も朧な、現役か廃墟か判らぬ住宅団地にはいる。Cの39棟4階に、フロアをぶち抜いたカラオケバーが、明明と。老人客
十二月の夢を視ます。彼方にはハル・ナツ・アキ・フユというシキがあったのに、視る夢は何故…
逃げる夢路さん。 夢路さんは、撮影の合間に衣裳のドレスを纏った儘、どこかへ消えてしま…
「ただ歩く女だった」 と。 知人がホテルにて男と半裸で絡んでいたところ。 「ベッド隅…
【No.047】 「私と出逢えて幸運ね」女はちいさなハープを調弦する仕草だけ、麗しく。荒れ狂う…
【No.040】 2限目。理科室で、おのおの自習。私は小説をかき、隣の麻美は編物。向いの果保…
『珈琲とブラとあなた』ってパンクロックの曲が、ちょっと売れている。アーケードの拡声器から…
<壱> nekonote、と、外国訛のきつい、老いた行商人。 渡されたそれは、本物の猫の手でなく、旧い木彫。要らないと云おうとしたら、もういない。 病院は休みもなく忙しく。 或る日。 消灯後のロビーで、入院患者達、植物人間や死者や幽霊迄もが、点滴も松葉杖も呼吸装置も、白装束も三角巾もとっぱらい、おなじ速さで東へ向かい、歩んでいた。月の光がさす訳でもないのに、皆影を纏わず白く、悟りすました表情で、碧い眼もしくは翡翠の眼。ときどき腕をぺろぺろ舐めてはそれで顔を拭き