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掌篇・短篇小説集

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#シロクマ文芸部

掌篇小説『ラストノートサンバ』

 赤い傘を、さしてゆく。  私のでない、むろん彼のでもない女物の、ほんの微かにダマスクク…

武川蔓緒
5か月前
28

短篇小説『ゴールドフィッシュ・ブギー』(6/9加筆)

 金魚鉢の街で。  すこし肌寒い水。今日は。  結婚式だろうか葬儀だろうか、忘れてしまっ…

武川蔓緒
5か月前
28

掌篇小説『火曜の女』

 風薫る季節。  その町ではお見合いの制度が古来よりあり、今もなお淡々と続く。  誰の御…

武川蔓緒
5か月前
16

掌篇小説『日曜の女』

 風薫る季節。 「日曜会ってみて頂戴、いいお嬢さんなのよ」  大伯母は家にくると僕に土産…

武川蔓緒
5か月前
24

短篇小説『十二月のローダンセ』

 十二月の夢を視ます。彼方にはハル・ナツ・アキ・フユというシキがあったのに、視る夢は何故…

武川蔓緒
11か月前
24

短篇小説『逃げる女のタンゴ』

 逃げる夢路さん。  夢路さんは、撮影の合間に衣裳のドレスを纏った儘、どこかへ消えてしま…

武川蔓緒
11か月前
20

掌篇小説『Z夫人の日記より〜ただ歩く』

「ただ歩く女だった」  と。  知人がホテルにて男と半裸で絡んでいたところ。 「ベッド隅を、緑とオレンジの市松ワンピースを着た女が歩いていた」  と。  侵入とかでなく、ただ路地でも往く風情で、8階の壁より現れ、ダブルベッド足側を横切り、ドアへと。 「寧ろ、あたし達を怪訝そうな横眼で視ていた」  と。  女の後を追ってももうおらず、そのかわり緑のドアに、『慎始敬終』と書かれたオレンジのシール? それとも御札? が貼られていたと。 ◆◇◆◇◆  叔母の家にいたら。

掌篇小説『珈琲とブラとあなた』

『珈琲とブラとあなた』ってパンクロックの曲が、ちょっと売れている。アーケードの拡声器から…

武川蔓緒
1年前
29

短篇小説『華やかな9月』

 文芸部、とでも云うのか、それは。  その町では回覧板がないかわりに、家ごとに夫人が、暮…

武川蔓緒
1年前
30

短篇小説『異人たちの八月』

『平和』とはんぺんに焼印されている。  遥か昔からあるもので、ほんとうの読み方は逆、『和…

武川蔓緒
1年前
30

掌篇小説『鍵本くんを視ませんか』

 消えた鍵本くん。  あたしが本をいつ迄も決めかね、ほそい廊下を書棚をウロウロしているう…

武川蔓緒
1年前
20

掌篇小説『ソレイユ』

 私の『日蝕』がすすむ。 「あなたは産まれたときから、誰より白く燿いていたのよ」 「そう…

武川蔓緒
1年前
22

短篇小説『ガラスの手〜Z夫人の日記より』

<6月某日>  ガラスの手をあずかる。  男か女か判然とせぬ、右の手。そう若くはないよう…

武川蔓緒
1年前
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掌篇小説『綺麗な腕』

 初夏を聴く。  それは、もともとは旧い歌だが。いま壁の向こうから薫りのように漏れ聴こえるのは、歌を排した楽器だけのバージョン。こんな場所にはありがちな、耳心地のよい、云いかえれば右から左へすり抜けるようなアレンジ。  でも実友里は、この曲の歌詞をぼんやり憶えており。合っていたりニュアンスを誤ったりしながら、最後迄口ずさんだ。 <そそがれる 初夏の陽  袖からのぞく そのひとの腕は  空を透かしそうに 儚く綺麗で  私は……>  そんなぐあいの言葉を、ベッドで、少女の