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赤い傘を、さしてゆく。 私のでない、むろん彼のでもない女物の、ほんの微かにダマスクク…
金魚鉢の街で。 すこし肌寒い水。今日は。 結婚式だろうか葬儀だろうか、忘れてしまっ…
風薫る季節。 その町ではお見合いの制度が古来よりあり、今もなお淡々と続く。 誰の御…
風薫る季節。 「日曜会ってみて頂戴、いいお嬢さんなのよ」 大伯母は家にくると僕に土産…
十二月の夢を視ます。彼方にはハル・ナツ・アキ・フユというシキがあったのに、視る夢は何故…
逃げる夢路さん。 夢路さんは、撮影の合間に衣裳のドレスを纏った儘、どこかへ消えてしま…
「ただ歩く女だった」 と。 知人がホテルにて男と半裸で絡んでいたところ。 「ベッド隅を、緑とオレンジの市松ワンピースを着た女が歩いていた」 と。 侵入とかでなく、ただ路地でも往く風情で、8階の壁より現れ、ダブルベッド足側を横切り、ドアへと。 「寧ろ、あたし達を怪訝そうな横眼で視ていた」 と。 女の後を追ってももうおらず、そのかわり緑のドアに、『慎始敬終』と書かれたオレンジのシール? それとも御札? が貼られていたと。 ◆◇◆◇◆ 叔母の家にいたら。
『珈琲とブラとあなた』ってパンクロックの曲が、ちょっと売れている。アーケードの拡声器から…
文芸部、とでも云うのか、それは。 その町では回覧板がないかわりに、家ごとに夫人が、暮…
『平和』とはんぺんに焼印されている。 遥か昔からあるもので、ほんとうの読み方は逆、『和…
消えた鍵本くん。 あたしが本をいつ迄も決めかね、ほそい廊下を書棚をウロウロしているう…
私の『日蝕』がすすむ。 「あなたは産まれたときから、誰より白く燿いていたのよ」 「そう…
<6月某日> ガラスの手をあずかる。 男か女か判然とせぬ、右の手。そう若くはないよう…
初夏を聴く。 それは、もともとは旧い歌だが。いま壁の向こうから薫りのように漏れ聴こえるのは、歌を排した楽器だけのバージョン。こんな場所にはありがちな、耳心地のよい、云いかえれば右から左へすり抜けるようなアレンジ。 でも実友里は、この曲の歌詞をぼんやり憶えており。合っていたりニュアンスを誤ったりしながら、最後迄口ずさんだ。 <そそがれる 初夏の陽 袖からのぞく そのひとの腕は 空を透かしそうに 儚く綺麗で 私は……> そんなぐあいの言葉を、ベッドで、少女の