掌篇小説『Z夫人の日記より』<144>
12月某日 窶
あの人の軀が生える。木の幹から。
ふせた眸。幽かに笑む唇。滑らかな髪。反る背中。
彫像ではない。いつしか木に身をやつした。ところどころ剥けた肌。
胸にそえる左手に、指環。それだけは、天然石の儘。
季節の所為か、あの人の想いか、私が訪れるたび変る、色と光の調べ。
雨に濡れても、石はあの人は艶をもつだけ。泣かない。
12月某日 麗
ホール。
チケットもぎりに並ぶ行列、賑わう物販コーナーや階段を、20センチほどの金のヒールで典麗に過ぎ、消え入りそうな