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寓話「いのちの日記」最終章

最終書   いのちの日記


さて、今これを読んでいる君が疑問に思っていることを当ててあげる。

「一体君は誰なんだ?」そう思っているね。

それはそうだ。急に僕の体験記を読まされた後に僕の思い出話を聞かされて!

不思議に思ったことだろうね。

僕は最初も言った通りにすでに君と出会ったことがある。それも何回もだ。そして今君の前に現れてきた理由は簡単さ。

僕のことを好きな人なんてだれもいない。でも、僕にしか気付かせてあげられないことがあるからここにきた。





僕の正体は人の心にある「哀しみ」だ。



きっと君の心にも住んでいる。「喜怒哀楽」四人兄弟の三番目。

僕が心の中を埋め尽くすときは、周りの人に理解してもらいにくい。きっと君も一人で苦しんでる。

僕がここに出てきたのは、僕が住んでいる人の心から溢れてしまったからだ。他の感情は理解されやすい。でも僕は理解されない。だから苦しくなった。こんな想いは誰にもして欲しくないって、そう言って僕を追い出して旅をさせた。そうしたら、今これを読んでいる君に巡り会えたってわけ。

でもみんな、できることなら僕に会いたくなんてないんだよね。僕はわがままだから、人の心に出てくるときは少し苦しい思いをさせてしまう。

でもどうか分かってほしいんだ。哀しいときじゃないと気づけないことがたくさんあって、それはどうしても忘れがちになってしまうということ。そしてそれが、何よりも大切なんだということ。


僕の体験記を思い出してほしい。

人は死んでしまった後、煌々とした火柱をあげる。

「生きたかった」思いがエネルギーに変わってね。



君がもし明日死んでしまったら、どれだけの火柱が上がる?

これまでずっと僕のことを避けてしまっていたら、もしかしたらものすごい後悔が残ってしまっているかもしれないね。


でも大丈夫。ここで今僕と向き合ってくれた君ならきっと変われる。

僕はここに記した事に名前を付けた。


「いのちの日記」



絶対に死んでしまってから後悔なんてさせたくないんだ。

でも厄介なそれは、大人になればなるほど付き纏う。

僕も大人になって初めて気づけた事なんだ。

あの体験記は大人になってから書いたもの。

子供の頃はあんなに単純だったのにね!歳をとるとだんだんと一人で苦しむことが多くなって後悔が積み重なってしまう。

それは僕の持ち主も含めてね。生きてるうちに燃え尽きようじゃないか。

そう言い聞かせるために今これを書いているんだ。



大切なものを決して忘れないように、ここに哀しみの居場所を作ります。

もし君がこれから先、何か後悔してしまうことがあったらもう一度ここに戻ってきてほしい!





明日からの毎日をあなたが笑えていますように。




寓話「いのちの日記」








あとがき

ここまで読んでくださったみなさん、ありがとうございました。

僕自身複雑な心境を文章にするのに苦戦してしまい、なかなか書き進められませんでしたが、ふっと何かが吹っ切れたように筆が進み、無事完結させることができました。

この物語のエンディングに納得のいかない方もいらっしゃると思います。僕はこの物語をみなさんに当てはめてほしいと思っています。

あえて個人名のある登場人物を出さず書き上げました。

インドのバラナシでは実際に露天火葬が行われており、命が燃える瞬間を目の当たりにすること出来るそうです。僕はこの話を聞いた時に、本書を執筆しようと決意しました。儚い命と後悔の関係は誰しもが知るべきものだと思ったのです。

そして第2章にでてきたえんとつ町はもちろん「絵本 えんとつ町のプペル」に登場した町。ファンタジーな物語ながら、現実世界とリンクされた素晴らしい作品に影響を受けました。確かなストーリーとともに伝わって来るメッセージに心を動かされたのです。そんな物語を書きたいという思いから今回リスペクトを込めて引用させていただきました。


僕の描く物語にはいつも伝えたいことがあります。しかし、僕の伝えたいことと違う受け取り方が出来るのも文学作品のおもしろい所。

ふと思い出した時に、何度か読み返していただいて、新たな何かに気づいて頂けたら嬉しいです。これからも応援よろしくお願いします。



向 裕斗








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