イノベーションはユーザーが起こす② ― 情報の粘着性概念

前回の、「社会的発見を通じて、既存のものを組み合わせユーザーがイノベーションを起こす時がある」ことを述べたが、ユーザー・イノベーション研究の重要な概念に「情報の粘着性」がある(Hippel,2006; 小川,2007)。

「情報の粘着性」とは、「局所的に生成される情報をその場所から移転するのにどれだけコストがかかるか」を表現する言葉である。例えば、情報が形式知化されていなかったり、利用するための基礎知識が必要だったり、膨大な情報量だったりすると情報を移転することが難しくなる。このように粘着性の高い情報がある場合、「移転困難な情報の所在地で活動するプレーヤがその情報に関わるイノベーションを行う」と述べている。
具体的には下図に示す通りである(小川,2007)。

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これまで、イノベーションは主に第3象限の技術情報の粘着性が高く、ユーザーニーズ情報の粘着性が低い場合が議論されてきたと思う。一方で第1象限の技術情報の粘着性が低く、ユーザーニーズ情報の粘着性が高い場合、ユーザー自身がイノベーションを起こすという考え方である。
なお、第4象限は両情報とも粘着性が低いので、イノベーションをメーカーが起こす場合もあるし、ユーザーが起こす場合もある。逆に両情報の粘着性が高い第2象限の場合は、メーカーとユーザーの交流が必要になるのだろう。

本「情報の粘着性」概念を用いると、ITの導入やDXが難しくなる要因を説明できるのではないかと考える(向, 2021)。(次回に続く)

参考文献
Eric Von Hippel (2006). “Democratizing Innovation”. The MIT Press.
小川進 (2007). 『新装版 イノベーションの発生論理 – メーカー主導の開発体制を超えて』. 千倉書房.
向正道. (2021). 新たな IT はどのように企業に普及していくのか―IT 普及過程の分析フレームワークの提案―. 組織学会大会論文集, 10(1), 136-141.

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