スナック芽衣 【後編】
スナック芽衣 【前編】はこち⇩
すぐに英語が堪能な友人に電話を繋ぎ、事の経緯を伝え、どうして二人がここにたどり着いたのかを聞いてもらったところ、ようするにこういうことだった。
2年ほど前に偶然インスタグラムで我々のことを見つけた彼女は、それからずっとSNSを通じて活動を見守ってくれていた。入籍して1年記念の旅行で日本を訪れることになり、もしかしたら演奏が聴けるのでは…と思って2人はここにたどり着いたのだそうだ。
いやいやいやいや(笑)
そんなことあるかよ。
もう頭の中は大混乱であるがとにかくあらゆる言語で感謝を伝え、なにがなんでも演奏しなくては、と思った。
さいわい、ミュージシャンがたくさん来店してくれるので、いつも来てくれるダニー(日本人)にベースをお願いし、彼女が一番好きだという「high wave」を演奏した。彼女は泣いて喜んでくれた。
ダニーが到着するまでにいろんなことを話した。
ちゃんとママの勤めも果たさねばならぬし、なんせ基本的に言葉は通じないのでほとんどフィーリングのみで交わす短い会話であった。それでも彼女が本当に私たちの音楽をずっと聴いてくれていたのだということは苦しくなるほど伝わってきた。来週の大阪でのライブも行けるかもしれない、と言うから、その日はバンドではなく弾き語りだよ、と伝えると、彼女は、あなたの歌が好きだから問題ない、と言った(もしかしたらものすごくいいように訳してるかも(笑))。
本当に嬉しいとき、それが相手に伝わるように表現するのはこんなに難しいのかと思った。
私はいろんな人のことを思い出していた。歴代のメンバーやマネージャー、レコーディングやライブに携わってくれた方々、好きな人、好きだった人、友達、家族。
たくさんの顔を思い出しながら、ああ、今日のことをみんなに聞いてほしいな、と思った。みんなはどんな顔をするかな。読んでくれていたらいいな。
ひとしきり話してから彼女が「あなたに質問があるの」というのでいったいどんなことを聞かれるのかドギマギしていたら、「いつもインスタグラムにご飯をのせているけどおすすめのレストランはある?」とのことだった。みんなで大爆笑して、私はお気に入りのお店を数軒紹介して、最後に彼女が好きだと言ったPUFFYの「愛のしるし」をファイターと2人でカラオケして見送った。
日々はめまぐるしい。ちょっと油断したら振り落とされてしまいそうな速度で進んでいる。
そんな中で何かを「続けていく」ということはすごく難しい、ようで、もしかしたらとてもシンプルなのかもしれない。
どこを向いて誰と話しているのか、ゆずれないものは、許したいことは、伝えたいことは、委ねたいことは、何か。分からない時は自分と相談し続けたい。ダメな日もくだらない日も情けない日も、ちゃんと認めたい。だらだらする日もわくわくしたい。愛をもって表現と向き合いたい。
華やかでまぶしい光に惑わされそうな日は、ゆっくり目を閉じる勇気を持とう。本当に大切だと思うものを思い切り大切にし続けよう。そうすればきっとまた想像をはるかに超えるような夜が、出会いが、そこに待っている。私は私を信じている。