【音楽NFT】 Catalogについて詳しく説明してみる
こんにちは、音楽DAOプロジェクトを追っている、無常 / MUJO です。
今回は、2022年トレンド必至と言われる音楽×NFTを理解する上で、欠かせないプロジェクトCatalogについて紹介していきます。
# 読者の対象は、mint, gasが何かわかるくらいであればOKな感じで書いています。
# CatalogはBeta版ですので、一旦2022年2月現在の最新情報で書いていきます。
概要
Catalogとは、1 of 1 の音楽NFTのマーケットプレイスです。
このCatalog最大の特徴としては、アーティスト・セントリック(中心)な設計であることが挙げられます。
例えば、
音楽をmintするときに発生するgas代以外には、曲の公開にコストがかからない。
購入者の支払った代金の100%がアーティストに入るようになっている。
再販時には、事前に設定した割合のフィー(Creator share)を受け取ることができる。
登録後は、アーティストの好きなペースで曲をアップロード可能なので、タイムラインなどに追われることはない。
などなどです。
データで見てみると、2021年3月のサービス開始から約1年で、Catalog上での総売上は210万ドルを超え、600曲近くが購入されています。
また既に200組近いアーティストがCatalog上で曲を打っており、230名ほどがコレクターとして実際に曲を購入しているようです。
開発者の課題意識
# サービス内容だけ理解したい、という読者の方はスキップしてください。
# 個人的には、NFTをただのバズや投機目的で見ないために、きちんと開発者の思いに言及する必要があると思っているので、CatalogのBlogやDeck、FAQなどから読み解いた課題意識から説明していきます。
CatalogのDeckは、こんな衝撃的な一文から始まります。
"The music industry is broken (音楽業界は壊れてしまった)"
現状の音楽業界は、巨大なストリーミングサービスを提供している事業者(SpotifyやApple musicなど)によりルールが決められていて、アーティストに入る取り分がかなり削られてしまっている、というのがCatalog開発者の課題意識の起点です。
彼らは、既存のストリーミングサービスを中心とした音楽業界には、下記のような問題があると考えています。
非現実的なリリーススケジュールを要求する。
リスナーにとって均質な体験になるように、全てをパッケージ化している。
持続不可能な収益モデルを採用しており、一部の有名アーティストには収益が還元されるが、大多数のアーティストにはほとんど何も残らない。
また、これにより下記のような弊害が出ていると主張しています。
アーティストとファンが、互いに離れてしまっている。
持続不可能な収益モデル(=再生数を計算の元にした評価モデル)によって、アーティストが「プレイリストへの掲載」と「素早く興味を持つこと」に最適化した音楽をリリースする動機付けになってしまっている。
何か違うことをしたいアーティストが危険に晒されている。
まとめると(ここからは私の言葉になってしまいますが)、
彼らは、今の音楽業界の構造が、音楽の多様性を消す要因になっており、またアーティストとファンの距離を離れる要因でもある、と考えているようです。
※ちなみにCatalogの発信の中では、ほとんどリスナー(購入者やファン)側の課題については言及がありませんので、このnoteでは割愛しますが、私が分析した内容を下記のnoteにまとめてありますので、気になる方は読んでみてください。
次に、彼らの解決策や機能を見ていきましょう。
Catalogがどう解決しているか
Zoraプロトコルに基づき構築されたCatalogでは、既述の課題を解決しています。
まず、今までよりもパブリックに音楽を公開しつつも、対価をしっかり得ることができます。
(1 of 1と聞いて誤解しがちな点でもあるのですが)そもそも、ブロックチェーン上に公開されているので、当然すべての人がその音楽にアクセスしたり、聴いたりすることができます。
ただNFTを使うことで「所有(価値を持っている証明)」は誰か1人に確定することができる、というのが大きな特徴です。
これによりアーティストは、リスナーに価値を感じてもらえる作品を作れていれば、Catalogにmintするだけで、曲を広く公開しつつも、きちんと報酬を得ることができます(念のため補足ですが、他のNFTと同様、著作権はアーティストが持ったままです)。
その報酬も、購入者が支払った全額をアーティストの利益とすることができます。
そして同時に、その後の拡散・価値移転も全てを自らの利益として得ることができるようになります。
曲をmintした後、その曲がRemixやカバーされたり、さまざまなマーケティングとして使われたとしても、その価値の蓄積は、そのNFTの権利の上に成り立ちます。
またCatalogはIPFS(分散的なファイルシステムだと思ってもらえれば大丈夫です)に保存されるため、仮にCatalogが消滅してしまっても、レコードの所有者によって検証可能な形で復元できます。
その結果、アーティストは自分の音楽の価値を永遠に持つことができます。
# 具体的には、オーディオ、カバーアート、メタデータの各ファイルがIPFSに格納されていて、Catalogによってpinnedされています。
利用の流れ
1. 登録
アーティストは、最初に登録を行う必要がありますが、現在は招待制となっています。
なぜなら、まだCatalogがキュレーション制で、人力でレコード・アーティストを並べているためです。
ちなみに購入者側は、Walletを紐づければサクッと参加できます。
2. 曲のmint
登録後、アーティストは自由なタイミングで曲をmintしていくことができます。
# 彼らの現状の音楽業界への課題感の中に、「非現実的なリリーススケジュールを要求する」というものがあったので、ここで解決を図ろうとしているのだと思われます。
このmint時に、いくつか特徴があります。
● Creator shareを設定する
アーティストは、曲を公開する前に、必ずCreator shareを設定します。
レコードが最初に購入される際は売上の100%を受け取るのに対し、Creator shareは、レコードがCatalogやZoraで再販されるたびにアーティストが即座に受け取るパーセンテージとなります(すなわち、Creator shareは再販時のフィーに該当するものです)。
仮にCatalogが消滅してしまっても、アーティストは設定したCreator shareを、曲が取引されたときに徴収し続けることができることも特徴です。
● カバーアートは画像のみ
CatalogはGIF、ビデオ、ムービングアートワークに対応していません。
少し時代に逆行しているようにも思えますが、ここでもまたアーティスト・セントリックな理由があります。
彼らが理由として挙げているのは、下記の通りです。
Catalogは、音楽を中心に据えることを目的としている。
動くカバーアートを導入すると、音楽よりも目を引くアートが関心と販売を促進する危険がある。特に、動くアートワークを制作するノウハウやリソースを持たないアーティストには、音楽だけに集中できる空間が必要だと考えている。
● 同じ曲を他の場所でリリースしても良い
……もはや、しても良い、というより、推奨しています。
現状、アーティストがリリースしているであろう、BandcampやSoundcloud(作った曲をアップロードできる既存サービス)だけでなく、Blogなどでは否定し倒している大手ストリーミングサービスなどにも是非アップロードを!とFAQで書いています。
Catalogのコンテンツは、ブロックチェーン上で一般公開されていて、誰でも無料でストリーミングでき、理論的には誰でもダウンロードできますが、NFTを所有できるのは1人しかいないから、多く聴いてくれるならその方が良いよね!という考えのようです。
またCatalogで公開すると、他のプラットフォームで公開したことがマーケティング材料となり、価値をNFTに乗せることができるのも、お勧めしている理由でした。
# 2つ目・3つ目を見ると、どこまでもアーティスト愛に溢れているのを感じますね。
3. 売買
売買においては、2種類の方法が選択できます。
a) アスク・プライス
アーティストは購入価格を設定するオプションがあり、設定した価格と通貨で誰でもその場でレコードを購入することができます。
また金額などは、いつでも更新することができます。
b) リザーブ・オークション
アーティストは、価格と通貨を設定したリザーブ・オークションを作成することもできます。誰かがその価格で入札するとオークションは開始され、24時間のカウントダウンが開始されます。
オークション開催中、購入希望者は現在の入札額より5%以上高い入札をすることができます。最後の15分間に入札されると、タイマーは15分に戻されます。このリセットはタイマーが切れるまで続き、その時点で最高入札者が落札したことになります。
その後、トランザクションを送信することで誰でもオークションを決済することができ、取引を成立させることができます。
4. その後
● ファンとアーティストのつながり
一度売れた後も、アーティストとファンはNFTを通じてつながり続けることができます。
● 2次流通
購入した人=所有者が、その後再販することができるようになります。
再販の方法は、上記3. (a) アスク・プライス, (b) リザーブ・オークション以外にも、購入希望者側から所有者に購入依頼をオファーすることができます。
このオファー時に、スライスという機能を使うことができます。
今の曲の所有者に対して、「このレコードを売る時にあなたに〇%の分け前を渡すので、私に曲の所有を売ってくれませんか?」と言ってオファーを出せるような機能です。
すなわちレコードが再販された場合、スライスで設定した分が前の所有者に送られることになります(アーティストにとってのCreator shareに近いものを、現在の所有者にオファーできる機能と思っていただくとわかりやすいと思います)。
運営状況
最後に、Catalogの運営状況について説明します。
2021年6月に、1confirmationを筆頭に、Inflection、Delphi Digital、WndrCoなどが参加する220万ドルの資金調達ラウンドを終了しています。
また、Cooper Turley、Trevor McFedries、illestrater、RACなど、約20名のエンジェル投資家の方々からも支援を受けており、ますます発展の兆しをみせています。
2021年6月時点の投資家の最新情報はこちら
また常時Discordでは700~800人ほどがオンラインで、まだこれからといわれる音楽NFTの中では、やはり注目度の高いプロジェクトと言えます。
取引件数も10月に爆発的に増加して以降、堅調に推移しており、月100件前後の購入が続いています。(2/13のデータのため、2月はまだ少ないですが…)
1件あたりの取引金額は、2,000ドル〜3,500ドルの間を推移しており、仮想通貨自体のボラティリティも相まって、まだ安定しているとは言えません。
アートNFTのように、どこかで跳ねるタイミングが来ると、大きく変動する可能性も秘めていると思います。
まとめ・考察
今回は、Catalogについて詳しく説明をしていきました。
元々音楽に触れていた身としても、やはり音楽業界の問題というのは日増しに大きくなってきていると感じます。
例えばレーベルの形骸化が進み、今までにとはまた異なる苦労がアーティスト・クリエイター側にのしかかってきています。
Catalogはそんなアーティストに、ポジティブなパワーになるポテンシャルがあると感じました。
ただあえて追加で述べるなら、今の音楽業界の大きな課題として、アーティストのみならず、作詞・作曲者、音源を作っている人、編曲者など実はお金がさらに流通していない裏方がいる、という点も見逃せないと考えています。
少なくとも現状のCatalogではこの点は解決することは難しい問題として残ってしまうので、その他のNFTプロジェクトと組み合わせる形で、適正な利益分配が実現されるようになっていくと信じています。
引き続き、音楽関連のNFTを中心にレポートしていきますので、良いと思った方はフォロー・いいねをいただけると、大変励みになります!
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