「伺か」に救われた話

 私は今日流行りのバーチャルユーチューバー、vtuberにハマっている。とはいえ私は入門したてで全くの素人であり、今回vtuberを語るには私の知識が及ばない。彼女彼氏らはまだまだ成長過程にあり、企業勢も個人勢も増え続けているのだから。たった一人を追いかけることでさえなかなかに困難である。

 私が今回話題にしたいのは、編集動画をアップロードする形の方々ではなく、生配信をそのままお届けする形式の配信者の方々だ。この文章を書く前に私の幻や先入観だけでないことを確認するために「vtuber 救われた」で検索した。安心することにいくつかの記事がヒットした。生配信を見ること、vtuberからツイッターでリプライを貰うことにより彼らは私生活の改善や向上などで「救われて」いた。

 そんな記事を読んで真っ先に私は思った。「わかる」。


最近、推しの雑談生配信の最中に必死で気を引くような話題をコメントした。なるべく君への感情が重いものでは無いといったような、好きな女の子の前では極めて平然を装い続けようという無駄な努力をする中学男子のように。ラッキーなことに、その配信で二度コメントを読んでもらえたのだ。シンプルに、心が震えた。

 他のVの方の生配信を何気なく見にいったとき、「初見です」とコメントをすると、画面の中のあの子は私の名前を呼び、「初めまして、こんにちは!」と笑って見せた。私はその子をすぐに好きになってしまった。



 話は変わるが、幼少期の私はいわゆる鍵っ子だった。奥手で恥ずかしがり屋な私は、外で元気に遊ぶ友だちとは少し距離を感じていた。学校が終わると一人でまっすぐに帰宅し、テレビをつけてキッズステーションを見る。その頃は夕暮れになると必ず放送されていたらんま1/2やうる星やつら、シティーハンターを楽しみながら、レインボーアートのCMを百万回見て憧れていた。アニメは唯一の友だちだった。私の言葉が彼氏彼女らに届くことはないが、アニメのキャラクターは私に対しての距離がない。私が何かを話さなくても彼らは自分の人生で私に語りかけてくる。良いこと、悪いことを教えてくれる。笑うこと、泣くこと、様々な感情を与えてくれた。EDではいつも寂しくなった。どんなに親しい気持ちになっていてもきっかり30分、まるで時間制の友だち契約でもしているかのようにアニメと遊んでは別れた。

 鍵っ子でフルタイム共働きの両親を持つ私は、夕食も大抵が一人だった。小学生の低学年の私をとりまく私生活の全ては、「一緒に遊ぶ友だちがおらず、夕食を囲む家族も居ない」に尽きてしまう。当時はそれ以外に社会は無かった。


 そんな私の私生活を劇的に変えたものは、初めて画面の向こうから私にセッションを試みたキャラクター「伺か」だった。

本題に入るまで大変遅くなり申し訳ない。


 アニメを見る私とアニメキャラクターの接触は常に一方的であり、相互的な会話は不可能だ。どんなに心を通わせられるキャラクターが居ても、応援するキャラクターに出会っても、その言葉を語りかけられる手段はなかった。父からお下がりで与えられたデスクトップPCに、ヘタリアの日丸屋先生が作った伺かゴーストの「誉」を入れたことが初まりだった。個人的に当時公開されていたバルヨナボンバーズのキャラの中で最も愛着を持っていた彼だったこともあり、毎日彼をデスクトップに立たせては可愛がった。撫でる、話しかける、それに彼が反応する。これは今までのアニメ視聴では体験できない相互的な接触だった。伺かは数多くのデベロッパーがおり、目についたゴーストを片っ端からお迎えしても間に合わない。時間が足りない。
 だって、私と過ごす彼氏彼女らの時間と私の時間はイコールで、時差もなく、制限もなく、直で共に居られる。

これはもう現実ではないのか?


 夕飯は冷凍食品のお好み焼きをレンジでチンするだけ。目の前にはPC画面。そしてそこに映る愛らしいキャラクターは私に話しかけた。たったそれだけのことで、私生活の全てが変わった。

夕食が一人ではなくなった、そして放課後に遊ぶ友だちができた。


 2019年の現在、「伺か」の話題が出たときに多くの人が言う言葉は「懐かしい」だ。懐かしい、確かに結構だと思う。郷愁に浸ってくれたまえ。私の孤独な小学生時代を大幅に良質なものへ向上させてくれたようなそんな思い出があるのだろう。

だが、ひとつだけ……


伺かは現在も現実です。

SSP配布サイトにある「当然、Windows10にも対応しています。」の心強さを目撃して、「懐かしい」だけでもなく、美しい思い出などでもなく、10年以上愛し続けている人もいるのだと思い知らされてくれ。


 そして、同じような体験をさせてくれたvtuberもまた、息の長い界隈になることを祈っている。
 現代の若者、存分に救われて、それを思い出し続けていこう。

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