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七つ星のひと。

今日は、主人が美容師の専門学校に通っていた頃からの大親友であった「あっちゃん」さんのお墓参りに訪うて参りました。
命日は昨日だったので一日遅れのお墓参り。あっちゃんのお墓参りに訪う日は大抵すっきりと晴れて梅雨入り前なのに暑いくらいの陽気なのです。
六浦の山の上から大空と横浜横須賀道路とその下の街並みを臨む、静寂と静謐を合わせもったこの墓地は、年々墓じまいをする方が増えているのか化粧砂利だけがさらりと整えられている更地がちらほらと所存し、今日は少しうら寂しく目に写りました。

主人は愛犬を連れ、迷うことなくあっちゃんのお墓へとずんずんと進みます。わたしは生粋の方向音痴なので未だに何処が何処やら判じ得ず、ただ黙々と後ろを着いて歩きます。

お墓に着くと途端に主人の嘆く声。

「誰も来ていないじゃないか!」

こちらの墓地は管理が行き届いているので雑草におい茂られている訳では無いのですが、確かにパッと見て近々に人が訪うた気配はなさそう。
少し寂しそうに、

「もうあれかな、二十数年も経ってしまうと、親も少しづつ忘れて行ってしまうのかな」

と、主人が云うので、

「そんなことはないよ、きっと。それにうちだって亡父の命日ぴったりにお墓参りに行くなんて早々ないもの」
「両親もお歳でしょうし、きっと涼しくお身体の具合の良い日にいらっしゃるよ」

なんて慰めつつ、でもやはり少しわたくしの胸も痛むものでありました。

「あ、でも誰か来たのかな」

と、墓石に水を掛けていた主人が指を指す方向に目をやれば線香皿に煙草が一本。
あっちゃんの吸っていた七つ星。セブンスター。

あっちゃんの為に火をつけて置いたのであろう燃えさし殻と、墓石を磨く主人の後ろ姿を見ながら、このセブンスターの置き主は、きっと七つ星を吸いながらあっちゃんとの日々を思い出し時に語りかけ、どのくらいの時間をここで過ごしたのだろう。
かつての親友を想いながら吸う煙草はどんな味がするのだろう。

仏花も線香もなくただ一本の煙草。
一本の煙草を互いに吸い合う時間。

主人も覚えのない、あっちゃんのその七つ星の人にわたしは少しだけ憧れを抱き、そして一所懸命あっちゃんの墓石を綺麗に掃除している主人の姿に目頭が熱くなるのを止められませんでした。

それにしても、セブンスターは実に、実に美味しい煙草ですよね…。

死ぬ前に一本吸いたい。