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フルートを吹く女とシャドーボクシングの女

ボクシングのパーソナルトレーニングは多くて週一回、最近は仕事やプライベートの用事が重なり月2回ぐらい。あとは自主練の日々だ。平日夜やれる時(やる気がある時)は20時半ぐらいから。休日は朝、暑くなりすぎる前に。自主練の場所は和歌山城の麓にあるグラウンド、駐車場、ちょっとした休憩スペースなど日によって違う。

不要不急の外出を控えるよう言われるほどの猛暑が続いているが、休日の朝のトレーニングを休むつもりはない。いい感じの木陰を探すところからトレーニングが始まる。その日は、この時間にちょうど日陰となるベンチを目指した。
先客がいた。フルートを吹く高齢の女性だ。ツバ広帽子を深く被り首にタオルを巻いてタンクトップ、という出立ち。
ドォ〜レェ〜ミィ〜ファァ〜ソォ〜ラァ〜シィ〜ドォ〜
ひたすら音階の練習をしているようだ。しかしながら聞こえるアタシの脳裏に音符マークが浮かんでこない。

(えらい張り切って大きな音出してんな)
(家で練習したら何か言われるんかな)
(初歩の初歩って感じやな)

そこまで頭の中で意見したところでふと気づく。
(アタシのシャドーも一緒やん)

いや、一緒じゃない。アタシのは人目を気にしまくりシャドー。人が来る気配がしたら動きを止め、通り過ぎるのを待って再始動。我ながらちっちゃいやつやで、全く。おばあちゃんの爪の垢でも煎じて飲めっちゅうねん。

今日のところは、自主練場所をフルートの女に譲ろうではないか。
(おばあちゃんが先に来てたんやけどな)

休日の朝、和歌山城の麓でフルート女やシャドー女を見かけたら……
どうかそっと見守ってやってほしい。

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