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テーブル越しの再会と、相槌のイカす三連星。

5年以上前のことと、更に10年以上前のことを書く。
5年以上前、それは風が強く吹く寒い冬で、確か12月初旬だったと思う。
平日の夜だけれど、当時から数少ない友人2人と新宿で待ち合わせて飯を食べた。

飯を食べるという表現だけれど、いつもどおり歌舞伎町にある安い居酒屋で酒を飲みつつ近況を語らったのだ。
メンバーは皆同い年の30代後半で、僕と男性と女性の3人。
女性のほうは来年春に結婚式を挙げたら、旦那の職場である関西へ引っ越してしまう。
あと何回集まれるか分からない中、惜しみつつその場を楽しんでいた。

僕はほろ酔いの中、ぼぅっと店内を眺めていた。
平日だし安さだけが売りの微妙な店だったからか、それほど多くの客はいなかった。
だが一人、テーブルの向こうに何となく知った顔があった。
そして記憶を探りながら、いつどこで会った誰だろうと思いを巡らせた。
人の顔を覚えるのは昔から得意なので、絶対にどこかで話した人物だと確信していた。
向こうに居たのは男性二人組で、年齢は30代前半くらい 。
どこにでも居るような雰囲気の男性と笑顔が素敵なイケメン。
そして、僕はそのイケメンの彼に見覚えがあった。

彼が繰り出す軽妙な相槌と、人の話をさえぎらない 「ほぅほぅ」「うんうん」「おぅおぅ」という合いの手に聞き覚えがあった。
それはまさしく、今もなお僕が使わせてもらっている話術の元ネタになった人だった。

それはさらに10年前、当時20代後半のことだ。
会社で友人らしい友人が作れず、学生時代の友人とも疎遠になっていた僕は、インターネットを使ってオフ会に参加していた。
実のこと、大学時代に唯一友人を作ることができた、オフ会という手段を再び利用したのだ。
そして、そのときに出会った中の一人が彼だった。

彼は男性参加者にも気さくで話しやすく、この時に僕は「イケメン」=「女性だけに優しい」という図式が間違っていることを認識した。
よく居る女性だけに優しい一過性のイケメンと違い、彼には人としての憧れに近い気持ちを抱いた。
記憶が確かだとしたら、彼はガンダム大好きなデザイナー(エロイラスト家?)だったと思う。
彼は他人の事やその人の好きな事に対する興味が強く、そして質問が上手かった。
だから誰もが彼と話をすると、気分良く話ができて彼の周りは楽しい空気に包まれていた。
飲み会で中心となって盛り上げる人気の彼は金髪である見た目からも、まさに「シャア・アズナブル」のような人だった。
(シャアとは、初代ガンダムに出てくる、主人公アムロ・レイのライバルであり、最大の敵です)

その時の幹事さんは連絡が非常にマメな人で、オフ会で繋がった後は毎月2回程度で連絡をいただき、その都度時間のある人たちで集合して飲んでいた。
彼は返信がめっちゃ早くて、さすが営業職だなと感心していた。
オフ会は大抵、金曜か土曜の夜に開催され、新宿か池袋の周辺だった。
ある日のオフ会では、こんな場所で出会うはずが無い程に異常に可愛い子が居て、なんだかチョット気になったりもした。
何度か顔を合わせたその女の子は、ネットで出会ったオタクな彼氏(めっちゃ良い人だった)と速攻(1、2ヶ月)で結婚を決めて、その事実に驚いたりした。
性癖が特殊で、ヘッドフォンを付けた女性にだけ興奮するという、見た目が普通の好青年もいた。
彼が暴露したその流れから、皆それぞれ自分のフェチは何か?という話で盛り上がった。
仕事ではまず出会えない、一風変わったところが魅力の人が多かった。

だけど、暫くするとそんな集まりもいつしか無くなっていった。
特に理由も無いし、誰かと喧嘩したわけでもない。
あんなに集まっていたのが嘘のように、急に熱が冷めたかのように、祭りが終わったかのように。
かく言う僕自身も、何故だかこの集まりに参加するのはもう良いかな、と段々思うようになった。
それは出張で不参加が増えたし、初期のメンバーが減っていった事や毎回飲み会をして朝帰りするって流れに興味が薄れたというのがあった。

だけど、そこで僕は彼らから人との接し方を学び、得ることができた。
相手に自分から興味を持つと、相手も喜んでくれる事。
更にそこから人脈が広がり、人と人が繋がる楽しさを知った。
その後、僕は少しずつ会社以外に友人が出来ていき、そして新たな出会いの中で彼女を作った。
色々あって別れた人たちも多いけれど、それでも今に至るまで友人関係が続いている人がいるのは、オフ会で出会った彼らのおかげだ。

そして今回一緒に飲んでいた女友達こそ、僕が30代になり出会った中で、最も仲良くなった女性だった。
彼女は常々、僕の事を連絡がにマメで全体に気を配れる点や、話の聞き方が上手くて話しやすい点を評価してくれていた。
それは僕があの時、オフ会にいた人たちとの出会いで学んだ(真似した)ことだった。
僕はまだまだコミュニケーション力が低い方ではあるが、20代までは酒の勢いか、本当に仲が良くないと一向に話しが出来なかった。
そんな僕は、彼らの技術をパクって盗んで真似して試して、そしたら今では無意識にできるようになっていたことだった。

彼らから教えてもらい、今僕の骨組みになっていることは沢山ある。
オフ会幹事さんからは、ダメ元でもいいからマメな連絡をすることが結果として相手の心に残ることを。
オフ会に来た美人さんからは、思いがけない場所にとんでもない美人が居る可能性を。
そのオタ彼氏さんからは、積極性が思いがけない逆転ゴールに繋がることを。
ヘッドフォン男子からは、自分のマニアックさや弱みを先に伝えちゃう強さを。
そしてイケメンエロ漫画家さんからは、色んな人に興味を持つ事は確実に自分に得るものがある事を。

特にイケメン漫画家さんの多用していた、「ほぅほぅ」「うんうん」「おぅおぅ」という相槌は凄いと思った。
相槌と合いの手を3種類をランダムに繰り返す「合いの手ジェットストリームアタック」は、相手に対してもの凄く話を聞いてる感が出ることを教えてくれた。
(ジェットストリームアタックとは、初代ガンダムに出てくる「黒い三連星」と呼ばれる3人の敵が代わる代わる攻撃を仕掛けてくる、有名な技の事です)

この「合いの手ジェットストリームアタック」によって、その後の友人関係が広がったといっても過言ではない。
人見知りでも多用できるこの技には、うまく会話に入れない時など何度も救われた。
それはある意味自分を偽った、キャラを作った行為なのかもしれないが、それで本来の目的である「友人を増やしたい」って部分に繋がるのならば、それも一つの手段だと考えている。

ほろ酔いの中、ああいう出会いがあったからこそ、今の自分があるなぁとしみじみ思った。
そしてこっそりと感謝した。
兄さんの教えてくれた「合いの手ジェットストリームアタック」今も使わせてもらってます、と。

でもたまに「アムロ・レイ」みたいな、人の所作の機敏に鋭くて気難しい人が来ると、その技も見抜かれて通用しないのだけれどもね。
そして女の子は大抵、ジェットストリームアタックを使う「黒い三連星」みたいな僕が居たとしても、結局は「シャア」みたいなイケメン男子を好きになるのだけれどもね。
(悲しいけどこれ事実なのよね)

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