見出し画像

ゲイズ・アット・ザ・スターズ。

前職にいた頃、もう5年以上前のこと。
その日は金曜日で、朝から電話が鳴り響いていた。
それは僕が担当した装置に不具合があって、昨日から困っているという連絡だった。
前日は定時で帰っていたので知らなかったが、前日の夕方・夜の時点で僕宛に5、6回くらい電話があったらしい。
その電話を引き継いでいた事務所の人間は、なにやら客先がヤバそうだという感じでざわついていたようだった。
そしてそのざわつきが、当日朝には部署のトップに伝わっていた。

部署のトップはいつも通りの怒りと圧力の混じった態度で、当時の上司は朝からかなり詰められたらしい。
そして僕はしょんぼりした課長と共に、昼前から急遽山梨へ向かった。
その日他の仕事をしていた僕は、今日中に必ず終わらせなきゃならない仕事に追われていた。
来週月曜には、お客さんが来社する。
それまでに仕様を満たした事を証明するデータを取らないとならない。
それを元に提出する書類を作成しないとならい。
現在一緒に作業をしている後輩にも、色々と教えないとならない。
でもそんなことは別として、課長は上からの圧力に何も言えず、僕たちは諦めて山梨へ向かった。
お互い昼食もとらずに。

ちなみにその金曜は、月末だった。
お客さんは本当に小さい零細企業(でも社長は羽振りがいい)で、ウチの会社の装置が問題で製品が作れなくなっていた。
そして製品の納期は今月末らしい。
と言うことでぶっちゃけ、僕たちのせいで、かなり大変なことになっていたようだった。

車で2時間くらいして、山梨の奥地にある客先へ到着した。
開口一番怒られるのかと思いきや、すぐ車を飛ばしてきた事を迅速な対応と感謝してくれた。
僕は前回出張で行ったときにお世話になった、地元のパートのおばさんたちに、すぐにまた戻ってきたことをいじられた。
その愛のあるいじりで場が和み、そうしたさり気なくも熟練の気遣いがありがたかった。

問題を課長とも相談したが、正直、よく分からない不具合だった。
現象としても、起きたり起きなかったりする。
その中でも怪しい箇所をいくつか見つけ、機械や動作設定を細かく調整した。
何となくコレで動作は問題なくなったところまで、一応やった。
一応というのは、実は根本的な原因が分からず、ちょっとモヤモヤするけれど、今のところ不具合が出ていないのでそれで使ってくださいという、かなり強引な妥協案で終わらせた感じだったからだ。

僕は中途半端な感じで終わらせて帰るという、罪悪感というか、無責任さというか、煮えきらない気持ちのまま終わらせた。
残るべきかとも思ったが、しかし土曜日まで延長することは絶対許されなかった。
部署のトップの圧力で、課長は今日中に必ず終わらせて帰ってこい、と太い釘を刺されていたからだ。
まだお客さんが困ってるのに、結局はお客さん基準じゃなくて、上司が怒るかどうかで判断してんじゃねぇか、と諦めと冷めた目で課長を見ていた。
そうして山梨を出たのは、20時近かった。
田舎の夜は、辺り一面真っ暗だった。
空を見上げると星が沢山あった。

車で会社に戻り、雑務をして会社を出たのは22時をとおに過ぎていた。
一緒に仕事をしている後輩に引き継ぎをお願いしていたが、やってくれたのは2割程度だった。
僕は来週からの事を考えたらなんとも憂鬱になった。
とはいえ、この時間から残業をさせてもらえる訳もなく。
なんとも言えないモヤモヤを抱えて、原付を走らて家に向かった。
途中、今日何も食べていない事を思い出したが、何か食べるような気持ちにもなれなかった。

翌日土曜の昼に、会社へ向かった。
仕事用のPCを持ちかえるためだ。
本当は禁止されているが、どうしようもない。
土曜日の工場は、それなりの人が出勤していた。
そして隣接する大企業の大きな駐車場には、1つも車が無かった。

昼過ぎから、家で仕事をしていた。
会社や業務に対する不満もあって、全然進まなかった。
何をやっているのだろう。
何がしたいのだろう。

例えば仮に、土日は休みだから仕事しませんでしたといって、翌週になったらどうなるのだろう。
来社したお客さんに何も提出することもできず、それでもいいのだろうか。
とはいえ、そこまで図太く生きることもできず。
とはいえ、割り切って持ち帰った仕事を軽々こなすこともできず。
思ったよりも全然進まなかった。

そして気づけば夜になっていた。
個人的な土日の約束もキャンセルした割りに、何も達成感がなかった。
明日もデータまとめて、でも足りないデータはどうする、、、月曜の朝は6時ごろ会社に行かないと間に合わないだろうな、、、。
飯がてら一人飲みに行こうかと考えた。
でも何だか全てを紛らわすだけになりそうで、悩ましかった。
夜の外は大分冷えていた。
こんな生活のまま、また1つ年を取るのだろうかとぼんやり思っていた。
星は何一つ見えなかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?