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【プログラムノート】宗教曲アラカルトステージに寄せて

mugs 1stコンサートの幕開け、第一ステージは、
メンバー厳選の宗教曲4曲をアラカルトでお送りいたします。
それぞれの作品の紹介と、訳詞を交えてお読みいただけますと幸いです。

▶1st stage 宗教曲アラカルト
2nd stage 女声合唱のための組曲「ふくろうめがね」
3rd stage 三善晃が描く少女のまなざし

Salve regina / Miklós Kocsár

一曲目は、結成当初から歌い続けてきてmugsの定番曲になりつつある「Salve regina」。
作曲者であるMiklós Kocsár(ミクローシュ・コチャール)は、ハンガリーの代表的な作曲家の一人として知られています。

タイトルの「Salve regina」は『めでたし、女王(元后)』などと日本語訳されることが多いですが、ラテン語の意味としては乙女マリアへの呼びかけの挨拶の意味合いで記されています。
三位一体主日から待降節前までの間、寝る前の祈り(終課)の結びとして人々に今も歌い継がれています。

曲は、泉から湧き出るかのように静かに幕を開けます。内なる祈りが重なり合う音程とともに増幅し、憐みを請う人々の想いが募る様を表現しています。

かつてアダムとイブが禁忌を犯し、エデンの園から追放されました。罪人・イブの子孫であるわたしたちへの赦しを、聖母マリアを通してイエスに聞き入れてもらえないかと懇願する様がドラマチックに描かれています。女声合唱特有の魅力が詰め込まれた1曲をお楽しみください。

Salve Regina mater misericordie
Vita dulcedo et spes nostra salve
Ad te clamamus exsules filii Hevae
Ad te suspiramus gementes et flentes in hac lacrymarum valle
Eja ergo advocata nostra
illos tuos misericordes oculos ad nos converte
Et Jesum benedictum fructum ventris tui
nobis post hoc exsilium ostende
O clemens o pia o dulcis Virgo Maria.
(めでたし女王) 慈しみ深き母よ
我等の生命、甘美、希望よ栄えあれ
御身に呼びかけたてまつる
(楽園を)追放されイヴの子である我らは
嘆き、泣きながらも、この涙の谷で
御身を慕い求めている
ああ我等のためにとりなしてくださる方よ
そのあなたの慈しみ深き眼差しを
我等に注ぎたまえ
そしてこの追放が終わるとき
祝福されし御身の子イエスを我らに示したまえ
おお慈しみ恵みあふれる
甘美なる乙女、マリアよ

Northern Lights / Ola Gjeilo

二曲目は、ひと聴きしただけで北欧の寒空を想わせる、「Northern Lights」です。

作曲家であるOla Gjeilo(オラ・イェイロ)は、ノルウェーに生まれ、民謡・クラシック・ジャズ・ポピュラー音楽など様々なジャンルを手がけ、現在はハリウッド映画音楽にも進出するほど多彩な活動をしています。

イェイロが2007年にノルウェーの首都オスロに滞在していた時に見たオーロラを描いた小品。大気に揺らめくオーロラを描くかのように、パートごとに2度ずつ重なるハーモニーが特徴的です。

テキストは旧約聖書の「ソロモンの雅歌」から抜き出されており、「美しすぎて目を向けることすらできない」と恋の相手を歌う詩が用いられています。
オーロラ(恋人)の美しさへの賛美と、北欧の厳しい自然への畏怖の念が表現された作品です。

Pulchra es amica mea,
suavis et decora sicut Jersalem,
terribilis ut castrorum actes ordinate.
Averte oculista tuos a me,
quia ipsi me avolare fecerunt.
私の恋人は美しく、
エルサレムのように甘く優雅で、
勝ち進み行く一糸乱れぬ軍勢のような威勢を持っている。
眼差しは私に向けないで、
その目が私をいたたまれなくさせるから。

Sanctus / André Caplet

三曲目にお送りするのは、フランスの作曲家(指揮者)で、ドビュッシーの友人としても知られるAndré Caplet(アンドレ・カプレ)の代表作、『三声のミサ』より「Sanctus」です。

ミサはキリスト教典礼の最も重要な典礼儀式。Sanctusはミサ典礼の中で感謝の賛歌として、最後の晩餐の再現である奉献文の前に歌われます。

各パートの音のぶつかりによって「Sanctus(聖なるかな)」という言葉が、繊細に何度も新しく紡ぎ出され、完全5度・完全8度での平行した旋律の動きは、どことなく東洋の響きも感じられます。
benedictusのユニゾンの旋律は、天に向かって上ってゆくかのような祈りが込められており、和音進行には、主の祝福を求めるまでに至る、苦しみや葛藤が描かれています。

また、この曲の「Hosanna in excelsis」には、本来西洋音楽の24の調性には存在しない、Gis dur(嬰ト長調)の和音が用いられています。天の高さやキリストへの敬慕がこの世に存在するはずのない調性によって表現されているようです。
フランス音楽特有の響き、カプレによる多彩で繊細な技巧をお楽しみください。

Sanctus,Sanctus,Sanctus
Dominus Deus Sabaoth.           
Pleni sunt caeli et terra Gloria tua.  
Hosanna in excelsis.              
聖なるかな 聖なるかな 聖なるかな
万軍の神よ、主よ。
天と地はあなたの栄光に満ちています。
いと高きところにオザンナ。


Anima Christi / John August Pamintuan

本ステージ最後の曲は、フィリピンの作曲家・指揮者であるJohn August Pamintuan(ジョン・オーガスト・パミントゥアン)の作品、「Anima Christi」。

この作品は、中国にて2006年に上映された映画『王妃の紋章』(原題:満城尽帯黄金甲)のエンディング曲、『菊花台(jú huā tái)』という曲をモチーフに作曲されています。
作曲者である周杰倫(Jay Chou’s)は第二王子として出演しており、悲劇の終幕を美しく歌い上げます。

本作品では、Anima Christiという聖イグナチオによるテキストが用いられており、神の魂との一致・隣人愛・神の御体と御血が我々の血肉となることを請う内容となっています。
フィリピンの美しく穏やかな海辺を思わせるような音づかいと、情を誘う曲の展開が心地よい作品です。

ANIMA Christi, sanctifica me.
Corpus Christi, salva me.
Sanguis Christi, inebria me.
Aqua lateris Christi, lava me.
Passio Christi, conforta me.
O bone Iesu, exaudi me.
Intra tua vulnera absconde me.
Ne permittas me separari a te.
Ab hoste maligno defende me.
In hora mortis meae voca me.
Et iube me venire ad te,
Ut cum Sanctis tuis laudem te
in saecula saeculorum.
Amen.
願わくは、キリストの御魂、われを聖ならしめ
キリストの御身体、われを救い
キリストの御血、われを酔わしめ
御脇腹から流れし水、われを洗い潔め
キリストの御受難、われを強め給んことを。
おお、慈愛深きイエズス、わが願いを聞きいれ
御身の傷の中にわれを隠し給え。
御身より離るることを許し給わず
悪魔の罠よりわれを護り給え。
臨終のときに、われを招き
御身の許にいたらしめ
諸聖人らと共に御身を賛美するを得さしめ給え
世々に至るまで、永遠に。
アーメン


神への祈りは、時を越え、国を越え、多くの人々の生活に根付き、歌い継がれています。
このアラカルトステージを通して、様々な表現での祈りの形をmugsなりに解釈し、音にして皆様にお届けいたします。

mugs 副代表 村上彩乃

演奏会情報

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*日時
2020年2月8日(土)
14:30開場 15:00開演

*会場
早稲田奉仕園 スコットホール

*チケット
一般:2,000円
学生:1,500円
▶購入はこちらから。

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