【プログラムノート】女声合唱のための組曲「ふくろうめがね」に寄せて
1st stage 宗教曲アラカルト
▶︎2nd stage 女声合唱のための組曲「ふくろうめがね」
3rd stage 三善晃が描く少女のまなざし
はじめに
女声合唱、と聞くと、皆さんはどんなイメージを思い浮かべますか。良いイメージでいうと上品、清純な感じ、綺麗。少しマイナスなイメージでいうと、あまり表現の幅がない? もしかしたら、なにを聞いても一緒に聞こえると感じる方もいるかもしれません。かく言うコンミスの私も、混声合唱からスタートした人間で、自分が女声合唱をはじめるまでは、大変失礼ながら上記のようなイメージをもっていました。
今回、第二ステージで演奏する組曲『ふくろうめがね』。この組曲の主人公は、人間ではなく、自然の中に生きる動物たち。これまでの女声合唱に求められてきた、綺麗さや上品さ、とは異なる表現が、それぞれの動物たちの眼差しを表出させるために、ふんだんに盛り込まれた組曲です。
この組曲は全5曲、くどうなおこさんの詩によって構成されています。くどうなおこさんと言えば、『のはらうた』を思い浮かべられる方が多いのではないでしょうか。くどうさんが、のはらを散歩しているときに聞こえてきた、様々な生き物や自然の現象の うた を、のはらのみんなを代表して、くどうさんが書き記した、という作品。かまきりやこいぬ、そして風や雨が、彼らにしか歌えないうたを歌うのです。やさしく、お茶目で、愛らしく、時々私たちをハッとさせてくれる、そんな詩が数多くあります。
この組曲に登場する生き物たちも、たしかに彼らならそんなことを思っているかもしれないな、とくすっと笑えたり、これは、私たち人間にもある感覚かもしれない、と気づかされるような、そんなまなざしを持っているのです。
第一曲 ふくろうめがね
組曲の表題ともなっている一曲めは、愛らしいふくろうが主人公です。夜に生きるふくろうは、お月さまがともだち。嬉しい時も寂しい時も、お月さまに語りかけています。ある日、お月さまから、『めがね』をもらうと……。
ふくろうの ほーっ という鳴き声や、めがねをもらった喜びが、7/8拍子、4/4拍子、など他にも色々な拍子を組み合わせてリズミックに表現されています(指揮なしで歌うのは本当に至難の技、めちゃくちゃ苦労しています)。ひとくちに ほーっ と言っても、ふくろうだって私たちと一緒、いろんな感情がそこにはあります。うれしい「ほ」、かなしい「ほ」、びっくりしたときの「ほ」、おちゃめな「ほ」などなど……。繰り返される転調の中に、そんなふくろうの心を表す音が隠れているので、是非想像しながら聞いてみてほしいです。
第二曲 ほたるたんじょう
今度の主人公はほたる。皆さんは、ほたるが、「じかん」をどんな風に感じていると思いますか?
私たちが「じかん」を感じるとき。それは時計を見るとき、集中していたらあっという間に時間がたったとき、退屈で全然時間が進まないとき。ではほたるたちはどうなのでしょう。歩いている草の葉っぱの長さ、自分の命を賭して光っているとき。ほたるにはほたるの、静かだけれどたしかな、「じかん」があるのかもしれません。
弱声と無調的な響きの中で、ほたるは光っては消えることを繰り返しながら、じぶんの「じかん」と「光」に気づいていきます。一曲めとは対照的な、永遠とも感じられそうなゆったりとしたリズムの中に、ほたるの「じかん」を感じていたらだければと思います。
第三曲 花色カメレオン
次に登場するのは、変幻自在のカメレオンです。木の枝や、岩かげで休んでいると、いつの間にかそれらと同じ色になっているカメレオン。そんなカメレオンは、素敵な花を見つけ、その花になりたいと自ら望み、花へ飛び込んでいきます。
前奏は、ある意味声楽的とは言えない、挑戦的で、器楽的な要素を持つパッセージが展開されます。カメレオンが生きる世界へと私たちを誘う、そんな前奏です。また、木のいろ、岩の色、そして花の色、それらを視覚的にも呼び起こすことができるような鮮やかな転調も、この曲を特徴づける点と言うことができます。
花色になることができたカメレオンは、最後には「地球」にもなれるぞ、と意気込みます。しかし、もし彼が「地球」になったら、果たしてそれはどんな色になってしまうのだろうか。と、私たち人間への重たい問いも隠されているのです。
第四曲 トラのようふく
トラ、と言えば黄色と黒のシマシマが素敵な動物。この曲は、そんなトラの黄色と黒の模様の由来についてのお話です。
トラの鳴き声を生かしたノリの良い前奏は、途中から第三曲花色カメレオンの前奏と同じような、器楽的なパッセージを加え、テンションを高めていきます。トラの走っている姿が思い浮かびそうな疾走感のあるメロディ、トラの思いが歌われる部分、そしてトラが眠っている部分、それぞれにその特徴が感じられるテンポや調が与えられており、いつもはすこし恐ろしいトラに、なんだか親近感を覚えてしまうような、そんな曲になっています。
第五曲 ふくろうのおねがい
第一曲に出てきたふくろう、再びの登場です。ふくろうは、大好きなお月さまに、問い、想い、祈ります。お月さまがまるくなったり、細くなったりするのを繰り返すように、むかしのふくろうたちも、月を見上げていたのですか、これから先に生まれるふくろうたちも、見上げることができるのですか、と。絶対に変わらないお月さまのもとで、変わらない幸せが続きますように、と。なんだか私たち人間にもある祈りのようなものを感じます。
おつきさま、おつきさま、と繰り返し、同じ和音で歌われます。単純で美しい長三和音は、純で、ひたすらなふくろうの祈りが込められているのかもしれません。終盤にはいずれかのパートで保続音が鳴り、これまでと今とこれからをつなぐ地平線のような役割を果たしています。ゆったりとしたテンポの中で、ある種女声合唱にしかできないような美しいきらめき、和音のあたたかさが、心に安らぎとときめきを与える、そんな一曲になっています。
さいごに
全曲アカペラで演奏されるこの組曲は、女声合唱の新しい表現に気づかされるところが多くあるのではないかと思っています。聴きに来ていただいた皆さんに、それを感じていただけるような演奏になるようmugs一同、精進しておりますので、ぜひお楽しみください。
mugs コンサートミストレス 山崎菜緒
演奏会情報
*日時
2020年2月8日(土)
14:30開場 15:00開演
*会場
早稲田奉仕園 スコットホール
*チケット
一般:2,000円
学生:1,500円
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