人魚と僕は

ファースト風土の店でもらった
ケチャップの容器の赤に
君の瞳はよく似ていた

海に行くための
青いオープンカーの開いた天井は
ちょうど僕の空虚のサイズ

立入禁止の夜を
黄色と黒で囲っても
簡単に飛び込んできた君を
どうしても逃がせないと
思っていたけれど
君は簡単に
飛び出してしまった

誕生日もクリスマスも嫌いだった
花束も喜ばなかった
それは多分
君は人魚で
触れると枯れてしまうから

僕が抱きかかえるのを嫌がって
一緒にいるなら車を買ってよ、と
まっすぐな目で見つめてきた

海を見つけて両手を上げる君の
後ろ姿だけを信じようとして

一緒にいた友人は
君がくれた幻覚だった

君の
耳を飾る花が
鱗で作られていたことに
初めて気付いたのは
海へ還ってゆく君の
長い髪が
月の道の中で
金色に染まった時だった
太陽の下で見た時よりも
水を吸って明るく輝き
それは明らかに目印で
今更気付いたの、と僕を責めた

僕の言葉を聞いて
泣き出しそうな顔で
沈んでゆく君を
僕は
抱きしめることができなくて

君が人魚だということは
分かっていたけれど
なぜ海へ還ってゆくのか
分からなかった

だって僕は人魚じゃなかった

だって君は笑っていた

それはただの言い訳で
互い違いに傷を重ねた日々を
今更
変えることはできないけれど

でも

君は歩けないんじゃなくて
泳げるんだ
それを言いたかった
ごめんね

君の尾びれは
僕の知らない景色を
見ているのだと
最初から思っていたから
たとえ太陽の下でも
その鱗がキラキラと光るのを
とても美しいと思っていた
そうだよ、最初から、ずっと


雨の一粒に君の面影が
映らないかと見つめる
紫陽花の色は変わらない
君はここまで染みてこない

だから僕は
一人で季節をいくつか乗り越えて
また海に戻ってきた

雪に埋もれてそのまま海に
落ちれば君のところへ行けるかなと

僕の内臓や手足は
しんしんと腐ってゆく
それは降る雪と同じで
違うのは
雪は溶けても
僕の気持ちは溶けないこと

僕は海に溶けない
涙だけが溶けてゆく
そして君は
僕の涙の揺らめき方を
見るのかもしれない

涙だけが海へゆける
だから僕の骨を抱いていつか
君まで流れてゆくように

潮騒
君が
言葉が使えなくても
叫んでいたのを
うっすらと聞いていた
だから

この海だけが
最果てで 行き止まりで 抜け道

ホットコーヒーは毒入り
僕の後ろ姿も最後

思い出ばかりが消えてゆく
今を消してほしいのに



わたしひとつうそをついたの
ほんとうはしゃべれるの
だってわたしのこえは
あなたとまったくおなじなの

でもだけど

わたしはあおで
あなたはあかでしょ

どんなにちかづいたって
あいいれない

それでも
ちかくにいたかったの

あいのままじゃ いられなくても



風は砂を海へ押しやり
波を起こして浜辺を濡らす

今は凪
そしていつか風が吹いたら
二人は透明な手をとりあって
何も言わないで笑うって
約束













2020.12.16(水)夜
高円寺ウーハにて
中川テツタ・山崎怠雅・山田庵巳 スリーマンライブ
イメージテキスト
配信URL https://youtu.be/5khAUIMZDi0

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