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自分と向き合う、とは ~『さみしい夜にはペンを持て』を読んで~

私はいま30代前半だが、思春期の頃から30歳で娘を妊娠・出産するまで、ずっと「自分が価値ある人間になるには何をしたら良いか」を模索して、がむしゃらに動いてきた。本棚には、足りない自分を補うためのハウツー本がたくさん並んでいた。
振り返れば、がむしゃらに動いた結果、血のつながらない家族のような存在もできたし、自分とは全く違う人生を生きた人の話は私の宝物になっている。その若さゆえの私のがむしゃらさは、今となってはとても愛おしい。
ただ、そんな私を突き動かしていたのは、「何者でもない私は、どうしたら価値ある人間になれるのか」という、とても冷酷な問いかけだった。「どうしたら良いのか、誰か教えて…」と一人で頭を抱えた日もあったように思う。

娘を妊娠・出産し、自分と無意識に比較してしまう他者や自分を責める(ように感じる)他者がいる環境を離れたことで、ここ数年、私の気持ちは幾分穏やかだ。
目の前の愛おしい娘のため、という純粋な気持ちに動かされて、いや、待ったなしの娘に引っ張られるように、夢中で頑張ることができている。

そんな平穏な日々にもゴールが見えてきた。来年春には復職が待っている。
このまま復職したら、また「自分は周りからダメだと思われているんじゃないか」と怯えながら日々を過ごさなくてはいけなくなるのでは、と今からとても怖い。
私は、もう二度と、あちらの世界には戻りたくない。だから残りの7カ月間で、自分としっかり向き合いたい。

私は本当に価値がないのか?そう思い込んでいるだけじゃないのか?
私には本当に何も取り柄がないのか?
何にそんなに急き立てられているのか?
自分を一番責めているのは自分なのではないか?
自分と向き合うことで、これらの問いに納得のいく答えを出したい。

「自分と向き合う」という手垢のついた言葉。具体的にはどういう行動を示しているのだろうといつも思っていた。正直もう聞き飽きて、口にするのも恥ずかしい。
そんな折、『さみしい夜にはペンを持て』という本を読んだ。『嫌われる勇気』を書いた古賀史健さんの著書と知って、きっと優しい言葉で語りかけている本なんだろうなと思い、kindleで即購入した。
Kindleは読みたい!と思った一番モチベーションが高いときに本を買って読めるところが、一番気に入っている。中古で本を買うより高いが、積読になるよりマシだ。

やはり、古賀さんの語り口は優しかった。同級生から虐められるタコジローに感情移入して、本の主題ではないところで泣いてしまった。
学校に行けなくなった主人公のタコジローが、やどかりのおじさんと出会い、対話を重ねていく。タコジローは、やどかりのおじさんから“書くこと”を通じて“自分で考えること”の大切さを学び、徐々に自分や周囲を冷静に捉えられるようになる。物語の終わりには、自分を取り巻く状況は何も変わらないなか、タコジローは自分の足でスッと立てるようになっていた。

心に残ったのは以下。
・書くこととは、時間をかけて、何度も消しゴムで消しながら、自分の考えに合う言葉を探し、決めること。誰にも合わせず、自分ひとりで“返事じゃない言葉”を書くことで、一つの考えが深まっていく。すなわち、書くことは考えること。そして、考えることとは、答えを出そうとすること。
・自分の感情を書いて言葉にすることは、今の自分が「あのときの自分」の感情に答えを出すということ。すなわち、小さな決断すること。「自分と対話する」とは「あのときの自分」と対話すること。自分の感情をなんとなくで片づけていても何にも解決しない。コトバミマンの泡は残り、膨らんでいく一方だ。

本は一日で読み切った。寝かしつけをしながら、kindleアプリを開いた携帯を片手に持って読み続けた。

私は、いつからか、自分の感情を押し殺すのが上手になっていたことに気が付いた。こんなこと言ったら相手が怒るだろうと、相手の反応が先に頭に浮かび、自分の感情や主張は言葉にする前に引っ込めてしまっていた。だからだろうか、私は自分のモヤモヤした気持ちや考えを整理して相手に伝えるのが、とても下手くそだ。夫など本来味方であるはずの相手に伝えるときでさえ、回りくどい言い方になって、うまく伝えられない。相手に話をしながら、自分の感情と相手を怒らせたくないという気持ちが戦って、前置きが長くなったり、結論が尻すぼみになったり、「大した事じゃないんだけどね」と自分の主張をなかったことにしてしまう。

でも、ひとりで書けば誰にも怒られない。怒られることを恐れずに、自分の気持ちに答えを出したり、考えたり、決めることができる。私にはそういう練習が必要なのだろう。そして、それこそが、書くことを通じて自分の感情を見つめ、感情に答えを出していくことが、所謂「自分と向き合う」ということなのだろう。
心にモヤモヤが残る「あの時の自分」に、ひとつひとつ、答えを出していってあげようと思う。


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