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僕のそばには

「今回もお前の絵、入賞したじゃん!! やったね。お前はほんとにすごいよ。俺はお前の絵は最初から凄いと思ってたけどね。」

そう言ってくれるこいつはトピー。トピーとは高校入ってからの最初の友達。まぁ、それまで友達がいなかったから人生で最初の友達。今は少ないが友達はいる。

高校に入ってから学校内の絵のコンテストで僕の絵が入賞し、上位の賞は貰えなかったけど誰よりも一番良かったとズカズカと僕の懐に入り込んできて、そこから仲良くなった。

「ありがとう。でも、また入賞止まりだよ。」
「いやいや、審査委員もまったくわかってないよな。お前のあの荒削りなところが凄い味が出てて、そこがいいのによぅ。」
「そういうトピーだって入賞して良かったじゃないか。」
「俺とお前はいつも一緒さ。ハッハッハー。」

そんな調子でトピーはいつも僕を褒めてくれる。だからたまにうさんくさい時もあるのは正直なところだ。


そこにシャクがやって来た。
「おい、また入賞どまりだったよ!! ったく、俺のが一番良かっただろうよ!?」
「やぁ、シャク。シャクの絵、良かったよ。」
「審査委員はあのダイナミックな絵がわからんか? そもそも花の絵なんてインパクト無いテーマにしやがって!! ほんとイライラするぜ!!」

こいつはシャク。性格に少し問題有り。いつも何かと文句を言っている。だが信念の強さは人一倍だ。シャクはたまに僕のところに来て、あーだ、こーだと暴れて帰って行く。

「今回の絵だって自信あったんだ。くそっ!! 花の絵だから、しなやかにしなきゃダメだなんて思ってんだろ!? わかってないのさ、俺が描いた絵を。」
「評価する人も難しいんだろうなぁ。 豪快さがあって凄い良かったと思うんだけどね。」

シャクの素直さ、そしてその強気なところ、周りをスカッとさせる力が僕に足らないところだ。

そこにもう一人来た。ムラシンスくんだ。
「はぁ・・・やぁ。」
「やぁ。ムラシンスくん。またどうしたんだい?」
「いや、今回の絵も思うように描けなかったよ。」
「そうなの? 僕はとても良いと思ったよ。」

この子はムラシンスくん。いつもうつむいている。何をしてもマイナス思考だ。すべてに何かを抱え込み、落ち込んでいるみたいだ。僕もいつも、ほぼ同じな気持ちを持っている。僕に一番近い感覚の持ち主だ。だから気持ちが解るし気があう事が多い。

「駄目だなぁ・・・僕の絵には特別なモノが無いんだ。そうだよね・・・僕自身に何も無いんだから・・・皆に評価される絵を描く事なんて出来ないのわかっているんだけど・・・・」
「良いじゃないか。君自信の絵なんだから。そして、入賞されたって事は評価されたって事だよ。」

しかし実際、僕にも何もない。痛いほど解る。
頑張らなきゃとは常に思っている。

そこにリコットが来た。
「ねぇ、俺の絵、良かったでしょっ!」
「リコットの絵、とても良かったよ! さすがだよ。」
「やっぱり俺、絵を描くの好きだわぁ。夢中になれるっていうか。全教科、美術でいいのになぁ。」

こいつはリコット。好きな事だけをやって生きてきたようなやつ。無関心な事には目もくれない。だからこそか、一番幸せそうなやつでもある。こういう生き方に少し憧れを抱いている僕だ。

「俺、卒業したら画家になるわ!」
「画家かぁ、いいね。でもまだ先二年とちょっとあるよ。決めるの早すぎない?」
「君は何かしたい事は無いのかね? このワクワクは止められんよ。」
「僕はまだ全然わからないよ。もう少しゆっくり考えるよ。」

僕はこの先、リコットのようにはっきり生きれるようになれるのだろうか?
こいつを見ていると未来は明るい気がする。

それから僕は自分の絵を見つめた。

「おっ!津島! なに自分の絵見て真剣な顔してんだよ!?」
「あっ!やぁ、斉木君。」
「お前、いつも一人でつまらなくないの?」
「いやぁ、あっ、うん・・・」
「ふーん・・・ あっ!そうだ! 今から遊びに行くけどお前も一緒に行こうぜ!」
「えっ!?」
「部活入ってないんだろ? 暇してんだろ?」
「えっ・・あっ・・・うん。」
僕は少し焦っていた。クラスは一緒だが斉木君とはほぼ初絡みみたいなものだからだ。正直、驚いている。だがそれとともに胸が少し踊った。

僕は目をちょこちょこ動かした。それからそぉおっと周りを見た。そこに四人は立っている。そして何も言わずにそれぞれの微笑み方で優しく僕を見ていた。

僕はこの四人とこれからの人生いろいろな事を体験していくだろう。そして共に大人になっていく。決していなくなる事はない。共にお互いを見て生きていく。だから少しずつ飛び込んでみようかなって思うよ。何事にも。いつだって君達が側にいてくれるから。

そう、僕は照れくさくなって苦笑いを返した。

「津島! はやく行こうぜ!!」

「うん。」 完


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