見出し画像

個人開発者は定食屋理論で生き残れ!

私はゲームアプリを個人で作り始めて5年になるフリーのゲームクリエイターです。ようやく最近になって売り上げも安定してきましたが、年収ウン千万円もあるアプリ長者のように大ヒットを飛ばした経験はありません。もしヒットする法則というものが存在するなら、頭を下げて教えを乞いたいくらいです。

もちろん売れていること=素晴らしい作品であるとも限りませんし、評価されなくても自分がやりたいように作ったのだからそれでいい!というクリエイターも多いでしょう。
でも心の片隅では、どうせなら多くの人の目にとまり評価してもらいたい、と思ってしまうのがクリエイターの性。やはり、苦労して作ったものが誰にも刺さらず、評価すらされないってとっても悲しいものです。(経験談)

いつかアプリ長者になって、その成功談を書き綴りたかったのですが、そんな日が果たしてくるかどうかもわからないので、これまでの失敗談と絡めて私が気づいた個人ゲーム開発者が生き抜くために独自に編み出した「定食屋理論」について思ったことを書いていきます。(ゲームで食べていこうなんて思っていない。趣味で楽しくゲームを作りたいんだ!という人はそっと閉じてもらってかまいません)

「定食屋理論」とは何ぞや

よく自己紹介で「ゲームアプリを作っている」と言うと、ほとんどの人は私が高度な専門知識を持っているIT人間みたいな目で見ます。
しかし私はプログラムの知識はほとんどありませんし、ゲーム業界に籍を置いたことすらありません。私自身も少し前まで、ゲーム開発で食べていくには高度な知識が必要で、未経験の自分には到底無理なことだろうと思っていました。

しかしゲームを作るにつれ、その認識は間違っていることに徐々に気がついたのです。

私は何でも例えて考えるのが好きなのですが、ゲーム業界をあえて何かに例えるなら飲食店経営にあたるのではないかと思っています。

私はそれを「定食屋理論」と勝手に名付けています。

では、ハイテクなイメージのアプリ開発と、サービス業の代表とも言える定食屋経営という、一見対極にあるように見える両者がどうして置き換えられることができるのか。その理由を挙げていきたいと思います。

大手は三つ星レストラン、個人開発者は定食屋

誰もが聞いた事があるような名前のゲーム会社は、飲食店に例えると三つ星レストランです。三つ星レストランが提供する料理は、有名シェフが各地から取り寄せたこだわりの高級食材を使って調理したフルコース。顧客もミシュランに載っているレストランならまず間違いはないだろうという認識ですので、みんな何ヶ月間も前から予約して、高いお金を支払ってお店を訪れるのです。いつもメディアに取り上げられるので当然注目度も高い、いわゆる「行列の絶えない店」です。

対して私のような個人開発者は、飲食店で例えるなら下町の小さな定食屋。こちらが提供するのは、素朴な食材を使って調理した普通の日替わり定食です。顧客も下町の定食屋なんかにそこまで注目してないので、新メニュー始めましたと張り紙をしていても、見向きもされないでしょう。

では、定食屋の提供する料理はコース料理に劣るのか?

そう聞かれると、皆さんも答えに困ると思います。ご自身に当てはめてもらえばわかると思いますが、豪華なコース料理はたまに食べるからいいのであって、朝昼晩ずっとコース料理だと時間がかかりすぎて億劫だし、胸焼けを起こすなぁーと思われるのはないでしょうか?(そもそもお財布事情的に厳しいはず)

その反面、定食屋はいつでも気軽に入れますし、とりあえず日替わり定食を注文しておけば失敗しないだろうという安心感もあります。それに定食屋に対してほとんどの人が、そこまで大きな期待をして入店しているわけではありません。

実は、そこに定食屋の勝機があります。

定食屋に求められているもの


しかし、三ツ星レストランは顧客も相当な期待をしているので、思ったより美味しいくらいでは良い評価を得られません。むしろ「苦労して予約したのに思ったほどではなかった」とマイナス評価をつけられてしまいます。三つ星レストランは常に顧客に「なんだこれは!」と驚きと感動を与えるような料理、いい意味で顧客の予想を裏切るものを提供しつつ、絶対に外せない。

一方、下町の定食屋の場合、最初から顧客の期待が高くないので思ったよりも美味しければ、また来ようとか知り合いにもすすめよう、といったプラスの感情が芽生えやすいです。つまり顧客に驚きを与える必要はそんなに無いのです。ハンバーグ定食を食べたい人には、デミグラスソースがかかった定番のハンバーグを提供すればいいのです。つまり「そうそう、これでいいんだよ」と定番の安心感を与えることが大切になります。
それが奇をてらって、パイナップルが乗ったハワイアンハンバーグが出てきたらどうでしょう。「思っていたのと違う。この店はちょっと合わないかもなぁ」となるでしょう。
ゲームに例えるならば「顧客の期待を裏切らないスタンダードを提供する」ことが私たちのような個人ゲーム開発者に求められていることだと言えます。

つまりRPGを求めている人には、王道のRPGを提供すればいいのです。ああ、これがやりたかったんだ、というものを提供すればいいのです。

じゃあ、個人ゲーム開発者は意欲的なゲームに挑戦したらダメなのか?と思われるかもしれません。もちろんメニューを開発することも大切です。今や中華の定番となっているエビチリや天津飯も、実は日本人の味覚に合わせて開発されたオリジナルメニューだと言われています。個人ゲーム開発者が有名なレビューサイトに取り上げてもらうには、他とは差別化された何か光るモノが無いと見向きもされないのも事実です。

でも新メニューにチャレンジするのは日替わり定食が売れていることが前提です。そうじゃないと経営が安定しません。あそこの定食屋は何を食べても美味しいという認識があって初めて、じゃあ他の珍しいメニューにもチャレンジしよう、という気持ちになるからです。
重ねて言いますが、これはゲーム開発で食べていくためにどうするかという話です。

話題性=全員が支持ではない

ついこの間までタピオカがすごいブームで、テレビに取り上げられない日は無いってくらい話題になりましたよね。でもこれだけブームになりながら、実際に飲んだことはないという人は大勢います。あれは発信力のある女子に圧倒的にウケただけで、国民の全てが支持したわけではなかったのです。(自分は結構ハマりましたが)

ゲームにかかわらず話題になっているものというのは、頻繁にその名前を聞くのでいろんな層が支持しているのだろうと思いがちです。でも実際にはそのジャンルに興味がない人にとってはどんなものかくらいは知っている、くらいにすぎません。

あつまれどうぶつの森もすごい売れていますが、SEKIROやデス・ストランディングを好んでプレイする層にはあまり刺さりません。
売れている話題のゲームとは「誰にも刺さるもの」ではなく「そのジャンルが好きな人に刺さりまくっているもの」なのです。

100人中100人に刺さるゲームなんて作れる人はおそらくいません。でも100人のうちの1人か2人に確実に突き刺されば、それだけできっと食べていけます。(スマートフォンユーザーだけをみても日本には7000万人、世界では30億人以上のユーザーがいます)

これからの定食屋は、昼時のサラリーマンを呼び込むだけではダメで、いかに海外の観光客を招き入れるかが重要になってくるのですが、その方法についてはまた別の機会に。

勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。

2年ほど前に「ラストサーガ」という、自身初のシミュレーションゲームをリリースしたことがあります。シミュレーションゲームは信長の野望やシムシティなど、シリーズごとに熱狂的なファンが支えているゲームジャンルです。
私は信長の野望のようなシミュレーションゲームが好きなのですが、最近のシミュレーションゲームはあまりに複雑でやることが多すぎて、時間のない現代人にはあまり向かないなぁと常々思っていました。

そこで、ラストサーガはプレイヤーのやることを大幅に削りました。戦闘もタイミングを計って命令を出すだけ、内政も決まった選択肢から選ぶだけ、プレイ時間もクリアまでに2時間程度という仕様。でもこれくらいシンプルな方がむしろ忙しい現代人にはうけるのではないか、と思ったんですね。

ラストサーガ

某予約サイトでは一時トップ10入りもしましたし、事前の期待度は結構高かったのですが、いざリリースしてみると全然ダウンロードされないし、評価もかなり低い。(評価の低さはゲームバランスの悪さも影響していますが)結局ダウンロード数は1年間で3000程度でした。無料アプリにも関わらず、2年経っても4桁台のダウンロード数というのははっきり言って惨敗、爆死です。

プロ野球界で名将と呼ばれた故・野村克也監督はよく「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」ということわざを多用していましたが、アプリの世界も、なぜこれがヒットしたのかと不思議に思うものを見かけることはあっても、なぜこれがヒットしないのか、と不思議に思うものはあまりみかけません。
つまり、ヒットしないものというのは何らかの理由で負けるべくして負けているということです。そして「ラストサーガ」もちゃんと理由があって負けていたのです。

「ラストサーガ」のコンセプトは「シンプルで片手で遊べるシミュレーションゲーム」というもので、それ自体はアリだと思っています。
でもよく考えてみると戦争シミュレーションゲームのファンというのは、数字とにらめっこしながら最善手は何かを模索しつつ、少しずつゲームを進行させるのが好きな人たちです。「シンプルで片手間で遊びたい」という考えとは対極にある層です。

定食屋理論で例えるとこの「ラストサーガ」はまさに「ハワイアンハンバーグ定食」だったのです。デミグラスソースのかかったこってりしたハンバーグを求めて注文してくれた顧客の期待を裏切ってしまったのです。これもアリじゃん、と高評価してくれた人もいますが、多くの顧客には受け入れられませんでした。

もっとも、僕にもっと技量とセンスがあったなら、もっと美味しく料理できて顧客も「これもアリだな」と思えていたのかもしれませんが、シミュレーションというジャンル自体が、私にはまだ早すぎたのかもしれません。

それは誰に向けて放つ矢なのか?

ええい、誰かに刺され!と適当に放つ矢と、あいつを仕留めたい!と標的を狙って放たれる矢。誰かのハートに突き刺さるのは確実に後者の矢の方です。

つまりラストサーガの場合、矢をこしらえたはいいが、そこに標的となるユーザーがほとんどいなかったために、結局空に向かってリリースするしか無い状態だったのです。

クリエイターは矢をこしらえながらも、これは誰に向けて放つのか、思った通りに標的へまっすぐ飛んでいくのか、ハートに刺さって抜けないくらい鋭いのか、などを考えておかないと、誰にも刺さらない悲しい結果になります。

最近開発したゲームで「ダークブラッド」というタイトルがあります。
これはダンジョン探索ローグライク系ゲームなのですが、ダークソウルやウィザードリィが好きな人を最初から狙って開発しました。

スクリーンショット

カードを使ったバトルは独自のシステムですが、ゲーム自体はモンスターと戦いながらダンジョンを進んでいくという、スタンダードなRPGです。
でも結果は思惑通り、過去一番のヒット作となりました。それは歯ごたえのあるRPGをやりたい、という顧客の期待を裏切らなかったからだと思います。
予想できなかったのは海外のユーザー(北米や中国、ロシア、ブラジルなど)にダウンロードしてもらえたこと(実に全ユーザーの8割!)これはグラフィックを担当していただいた銀親さんのドット絵が、特に海外のRPG好きなユーザーに刺さったのだと思います。
開発3年目にして、私もやっとお店の看板メニューを手に入れることができました。

もしあなたが今ゲームを作っているのならば一度手を止めて、これは誰に刺さるのかと自分に問いただしてみましょう。もし明確な答えが出なかったのなら第三者に客観的な意見を聞くのも大切だと思います。自分が一番のセールスポイントだと思っているものが、他人にとってウィークポイントに映っているのなら、それは何か致命的な欠点があります。

とはいえ、他人の意見の通りにしても絶対にヒットすると言えないのが実に悩ましいところなんですけどね。

つまり「定食屋理論」で何が言いたいのか

話は長くなってしまいましたが、要するにゲーム開発で食べていくには、顧客の期待を裏切らないことが大切だということです。「これでいいんだよ」というゲームをたくさん作って安定した売り上げを作り、その上で顧客の期待をいい意味で裏切る「これはなんだ?」というゲームを送りだせばいいのです。

メニューが揃い、顧客も増えると口コミでいい評価が広がっていきます。「あそこの定食にはハズレがない」とか「ハンバーグが抜群に美味しい」など、ファンと言えるような常連も増えていきます。実際にゲーム開発で食べていけている人たちは、その開発者を支持するファンが何万人もいたりします。そうなれば、三つ星レストランのようにミシュランには載らなくても、常連さんの口コミだけで堅実に食べていけるようになるのです。

などと偉そうに語っている自分自身、まだそれほど多くのファンを獲得している訳ではないので、ゲーム開発のみでずっと食べていけるか不安ではあります。
自分の中ではお店の看板メニューと言えるローグライクRPGに集中して開発し、売り上げが安定すればまた面白いメニューにも少しずつチャレンジしていくつもりです。
定食屋理論には、まだまだ話したいことがいくつもあるのですが、まずは自分で理論を実践して、成功した暁にはまたお伝えできればと思います。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?