好きな日本語:僕

 最近「僕」という言葉が好きだ。「俺」や「私」に比べても、含有する情報量が多いというか、ちょっと違う。

 まず、身近に「僕」なんて言う男性はほとんどいない。

 職場に一人だけいる。仕事ができて誰にでも親切な物腰の柔らかいイケメンなので、似合ってはいるのだけど、とりあえず初めて聞いたときは驚いた。

 なんでも、以前は「俺」と言っていたのをなぜか「僕」に変えたそうで、年配の人に「ふつう逆でしょ。なんで変えんのよ、気持ち悪い」とか言われていた。

 若い新入社員が敬語として使う分には違和感がない。芸能人がその時々で「俺」と「僕」を使い分けているのを見ても、当然のことに感じる。

 なんで「僕」が気になり出したかと言うと、日本語を勉強しているらしい二十歳くらいのユーチューバーの動画を観て。

 その人は片言の日本語で「ワタシハ」と話し始めた。

 いやー、「ボク」でしょ、と思った。

 英語で話している部分には、日本人が翻訳したらしい字幕が出る。それはやっぱり「僕」になっていた。

 考えると不思議だ。実際の日本人はあまり使わない「僕」を、外国人には合っていると思うのだから。

 もう一個、歌の歌詞では当然に使われるというのも、考えれば不思議な気がする。

 どう見ても「俺」なバンドマンが「僕」と歌っていても、違和感を覚えない。

 歌詞中の「僕」は「男性です」という記号として捉えられるからだ。

 女性ボーカルが歌う「夜に駆ける」も、一人称が「僕」。だからこれは自身の体験ではなくフィクションなのだと察することができる。

 英語はというと、一人称が「I」しかない。属性がまったく含まれないので、歌詞だと性別がわからないし、小説だと誰の台詞なのかがわかりづらい。

 日本のアニメでは少年の役を女性が演じることがある。英語圏では少年でも男性が演じる。

 昔、エヴァンゲリオンの英語吹き替え版を観たとき、シンジくんを男性が演じているので、驚いたり感動したりした(けっこう似てた)。

 でもやっぱり声変わり後の男性の声だと、思春期の繊細さ、不安定さみたいなのに欠ける。

 女性のほうがいいのに。なんでだろう、と思った。

 なんでじゃねえよ。声の性別がキャラクターの性別だと思われるからだよ。

 「僕」だけで性別(や若さ、繊細さ)を表現できる日本語って、本当に便利だ。

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