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「平造夫妻」3 お役目編 「仮面の忍者赤影」青影・陽炎の両親のお話 R18 1952文字

「乱心かーーー!殿に、どれだけ目にかけてもらっていたと思っておいでだ」
家老は、殿の首を切り落とした家臣に声を上げ、家臣に己の刀を向けた

向けたはいいが、(いや殿は、殿自身取り返しのつかない事をした。自分で腹を刺し一文字に引いた。ただ苦しいだけの死。首を落として正解?。思考が混乱し、どっちつかずの気持ちで、もう助からぬのだと首を振るように、心が決着する

しかし、でも、なぜの疑問は消えないでいた
殿のご兄弟が、長子を女房を、子供を切りさばいていくのが目に入っても、何が起きているのかと、年老いた身が震えもしていた


何度も先代と戦に出陣した身であるのにと、愕然とし、己の年老いた身を悔やんでいた


侍女や家臣達も、駒のように動く侍女に始末されていく


逃げ惑い騒ぐ声の中、家老の耳に響く声
これだけ騒ぎの大きな声だ、家臣達が気づいて来てもよいのに、まだか



「あの者に罪はない。運が悪かったのだ。許すのだ」


自分から離れた所に、家臣が立っているのに気づくが、顔に見覚えがない
見覚えのない家臣に向き、刀を向ける
殿の首を落とした家臣が、殿の弟君達とやり合っているのがわかる

側室を含め、男児が3人続いて生まれたぞと喜んでいた殿の顔が思い出され、泣きそうな気持ちになるも


「なにやつ。お前、あの女の仲間か!妖術師か!」毅然とした声が飛ぶも、家老の額からは、汗が流れ落ちている


家老は、自分の身体から嫌な匂いがすると思った。自分で、老臭かと思った


身丈夫な男の持つ手には刀があり、きっ先から血が垂れていた


「お役目でな、城主を切腹させてこいと仰せつかった」


家老は目が泳いでいた。刀の血が、気になって誰のかと、男の後ろに玄流斎殿が倒れている


「気になるか、血が。陰陽師も一緒にお家断絶と申し渡された」
家老の思いあたる顔に、吐き出す言葉
昔はならず者だった、家老の顔が出る
先代に拾われ、忠義を尽くし武勲も立てた
しかし、心は燃えても老いた身体が恨めしい


「はっ、はぁ豊臣か!あの猿か!そうか、忍びか!きさま。甲賀に、あんなあやつり人形のように出来るのがいるのか」合点が言ったものの、あれは忍術で可能なのかとも疑う
可能であるなら、お家断絶は戦をせづとも簡単なはずと思う
本当に、忍びなのかと


「主君に忠義な御家老には、申しておこう。冥土の土産になりますか。我ら二人、影舞使い」抑揚のない男の声に、家老は急速に身体が冷えていくのを感じた


男の隣に、先程の侍女が悠然と立っている
二人揃うと、とても家臣侍女に見えない


自分の後で、倒れる大きな音がし、恐る恐る振り向く


殿の首を落とした家臣が、喉を突いて倒れている


家老の衝撃の強い顔が、全てを物語っていた

(ははは、影舞二人だと)、くたびれた様に思う
忍びでも影舞が出来る者はごく少数と聞く!
それが、2人!
ここ迄、出来る者が二人か!
陰陽師か、陰陽師か、一番の狙いは陰陽師か!だから奥方や側室も、御兄弟にお子達もか


もう広間は、誰も立っていない


立っているのは、家老と忍び二人


「お家断絶、そうか、そう言う事か。陰陽師か、やはりお止めすべきだった...」と
息使いが荒くなっていく家老は、胸を押さえ苦しみ倒れる

家老の首に、手を当てる平造
「こと切れたようだ」の言葉に
しのびないと思ったのか平造が家老を仰向けにすると、静が家老の胸に脇差しを突き立てる


「念には、念を入れておきませんと」


平造の口元が、微かに笑う


不思議にも、誰も来ない広間


「流石土蜘蛛の薬、よく効いているようだ」
この広間にくる前に、土蜘蛛特性の眠り薬の粉を釜戸に、正室が香炉好が好みで所々に置いてある香炉に入れ、匂いと共に広がって眠っているのだろう


頷く静の耳には、広間からと庭から走って来る足音が届いている


「やはり、見張りが来るか」と言う平造には、普段静の前にいる顔はない
「流石に、異変を感じますわよね」
   静と共に、冷ややかな二人



「失礼つかまつりまする」と声と共に、廊下側の襖が音を大きく立て開く


畳の匂いと共に、血の匂いに驚き広間の惨状に驚く家臣達、殿や側室お子達も驚きであるが、殿の切腹としか思えぬ姿に転がった首、無惨無惨


二人、袖で顔隠す平造と静の姿が霞んでいた


庭から数名の縁側に上がる足音に、障子が一気に大きく開き、風が強く吹き込む共に、小さな花びらが舞い、大広間は一旦桜吹雪く色に染まった


庭からの見張りや家臣達は、惨状をしっかり見る事もなく、呻き声を発し血を流し倒れ、そこにいる者は鱗粉を感じ、咳き込み慌てて袖で口や鼻を覆う者、顔を下にする者、異変に示し合わせ退路を立つつもりが、まったく意味を成さずとなった


静と平造、侍女と家臣の男女が立っていたと思った者達もいたが、目が喉がと焼けると皆口々にいい、顔が火ぶくれのように腫れ上がり、倒れ伏す


静と平造の姿は、跡形もなく消えていた


続く→
「平造夫妻」4


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