「平造夫妻」6 お役目編 「仮面の忍者赤影」青影・陽炎の両親のお話 R18 2479文字
満月でない半月の明りは暗いものの、一茶が門番の槍で届く範囲の枝を下から突いたり、刃で叩き落とし始めた
門番は、枝が見やすいようにと松明を高く掲げ、それを少しぼーっと見ていた
「あれが、殿が気にいっておる木じゃ。枝がよくてのと言っておられた」と、指をさして教えてくれた仲間の門番の話を思い出していた
ほぉっと俺には何がどこがどういいのかわからないがと思い、殿様達ともなると、見る所が違うのだと思った位っで、こんな事ならもっとしっかり見ておけばよかったと、思うと同時に、
「待ってください、待ってください。今思い出します」と泣き声をのんだ声で言い、殿が気に言っていた枝の事を伝え、一茶は頷き、門番はどの木だと思い探し出した
本当なら殿が亡くなった事で、今後自分が自分達が、どのようになるかと不安に駆り立てられてもよいのに、門番は焦っていた
松明だけの明るさで、だいたいでしか検討がつかずで、途方にくれるように佇み、どうだったどうだったと確認するように五歩、六歩、十歩と後退し、右斜めに足を何歩か進め、どの木と暗くてどの枝であった木であるか迷う所が多くもあったが、すっと伸びた枝に気づき(あぁ、あそうだ。この辺りの四、五本の木を纏めて止めればいいだけだ)と気づき、一茶にそのように指示を出す
飛影と地翔二人の耳に、一茶が槍で枝を激しく叩き折る音を聞いていた
暗闇の中、虫達はひっそりと動かないでいた
普段にない忍者達の声、大量の血の匂いに身を潜め沈んでいるようで、ただ、灯し火の明るさにつられ蛾は二羽三羽と、火に吸いつくように集まってきていた
戸も障子も開け放たれてはいても、広間に転がっている殿ご一族は、半月に照らし出されることはなかった
時が過ぎれば過ぎる程、闇に埋もれていくように思えていたが、殿達の近くの灯し火で、殿達が薄っすら見える
また蛾が一羽二羽、灯し火に来ていた
最初に炎に吸い寄せられるように来ていた蛾は、命を落とす事なく、灯し火の周りを舞っている
簡単に、命が落ちると思っていた飛影と地翔は、二人顔を見合わした
「どのような毒だ。持続性の無い毒なのか?」と飛影
「火膨れのようになっているのにですか?そういう毒がある?...」いつも見慣れた種類の蛾のように思う地翔は、特殊な蛾とは考えられず…
「・・・」
考え込む二人
先程の風で広間の空気が外に広がったのが、よくわかった。大量の乾ききらない血の匂いが広がっていた
闇に慣れた忍びにも見ずらい暗さの中、冷たい水が流れているような夜気に、血の匂いは強かった
見上げれば美しい半月に一息つくも
血の匂いが
殿のお命が散っていると思うと…
広間から離れた場所であると言うのに
数々の倒れた侍従達に散った椀に膳、薄っすら見える上座奥の惨状
最初に見たあの衝撃が何度も反芻する脳裏
腹ただしさと悔恨、忍びとしての存在意義
腹の底から支配する何かが叫び上がり
何が原因だ!誰だ!と自分を励ますように
今すぐに奴らを討ち取りたいと起こる気持ち
その衝動に、この身を任したいと思うも飛影は、地翔に気取られぬよう抑えていた
忍びの長として冷静さを欠いてはならぬと
そして、また蛾が二羽三羽とふわり、ふわりと広間の上座奥の灯し火に集まってくる光景は、飛影に現実に着地させるものであった
ここまで血が匂うのなら、我らも毒を吸ったのではと考えが甘いと悔やんだが、今の所なにも異変はないと飛影は油断した考えと思うも、灯し火の蛾に自分の考えに酔いしれた物を思う
上座の方には家臣達は倒れておらず、その時
二人の忍び四七、久侖が
「只今、参りました」と現れる
暗い中、開け放たれ広間を見「これは」と二人は唸る
また、大量の血の匂いに顔を顰める久侖、一歩後ろに足が引く四七
そこに、枝を抱えた門番と一茶が戻り焚き火ができるように置く二人
「まだありますので、取ってきます」と、また走っていく門番
一茶は、カチカチと火打ち石で、集めた木に火をつける
赤く燃える火に、心が奪われるように目がいく四七、久侖
二人の様子に構わず、書庫にある巻物をあるだけ持って来いと命ずる飛影
二人は聞き返しもせず、返事をし、従い戻ってきた。四七は、熊手を持って
「熊手か」
それを見て、飛影は言う
「誠に、申し訳ありません。必要になるかとも思いまして。本来なら、庭掃除の小屋にある物。建物に立て掛けてあり、片付け忘れと思いましたが、手に余裕もありましたので」と一気に言う四七
「・・・いや、ご苦労。必要であろうな」と苦い顔をして答える
一刻迄、あと少しの時間となるも
上座の灯し火に集まった蛾は、今も一羽も落ちる事なく飛んでいる
口笛が、独特な拍子が続けて二度と聞こえる
百道と三平からの無事の知らせと、少し遅れる知らせの合図
一刻が過ぎた今、地翔は飛影に目配せをし
「私が」と地翔は、
風呂敷一杯に包まれた巻物を一つ受け取り、縁側に上がり、広間の端から倒れた家臣達がいない場所を狙い、巻物を転がす
玄流斎の所で止まるも、地翔は転がした巻物の上を渡り、また巻物を転がし渡り、殿の所にたどり着く
その場で、風呂敷を一枚ふわりと置き、足場を確保する
広間の奥にゆく程、血の匂いが濃くなっていく
毒も気になるが、濃い血の元はどれだと目が探す
まだまだ暗くとも、縁側で立っている久侖の松明と焚き火の明るさで、大分よく見える
誰もが、討伐のように斬られている
転がった大きな盃に目がいき、息が止まる
ついで、頭のてっぺんから顔を斬られ倒れている奥方に目がいく。直ぐに、殿ご兄弟の奥方と分かるも、血の酔いのような狂気が腹から込み上げてくるものをぐっと止める
一瞬毒がとも思いひやりとするも、今迄どんな酷いものを見慣れてはいたが、殿ご一族と思う事が、地翔は自分の呼吸が荒くなってているのがわかる
殿達に近い灯し火に集まった蛾は、火の回りで変わらず飛んでいる
血の匂い以外に、何か独特な匂いがしないかとも思うも、なにもなく...。火脹れのような従者達の顔を考えれば、匂い等気にしない方がよいとは思うものの、変わらずに飛んでる蛾に合わせている自分に気づく地翔
続く→
「平造夫妻」7 お役目編
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