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電車、電車、電車……

 黄色い電車の上りに乗らなくてはならなかった。
「ホームは反対側か。ちょっと、遠いなぁ」わたしはつぶやく。「しかたがない、電車で行くか」
 踏切脇の券売機で「反対ホーム行き」の切符を買い、電車を待った。
 しばらくすると、茶色い3両編成の電車がやって来る。
「ホームのこっち側~、ホームのこっち側~。お降りの際は、お足元にお気をつけ下さい~」
 わたしは茶色の電車に乗った。

 プッシュー、と音を立ててドアが閉まる。茶色い電車は、ガタン、ゴトンと揺れながら、線路を横切っていく。その間、本線に入ってきた黄色い電車は、停止して待っていた。
 反対側の踏切に到着すると、茶色い電車はレールを軋ませながら、ゆっくりと停まる。
 わたしは車掌に切符を渡して、茶色い電車を降りた。

 上り電車の切符を買い直すと、ホームで待機している黄色い電車に急いで飛び乗る。
 黄色い電車は、線路を遮る茶色い電車が移動するのを見はからって、動きだした。
「上り行き~、上り行き~」車内にアナウンスが流れる。「お急ぎの方は、このまま『急行』にご乗車ください~」
 電車の中には線路が敷かれていて、そこへ青い急行がやって来る。
「あ、おれ急ぐから、乗って行こうかな」乗客の1人がそう言い、急行料金を追加で支払って乗り込んだ。
 それに続くようにして、他の客もどんどん乗車していく。

 あらかたの客が青い急行に移ってしまったのを見て、わたしは何だか心細くなった。急いでいたわけでもないけれど、みんなの後に続く。
 青い急行はすぐに出発し、たちまち外側の黄色い電車が景色となって流れていく。座席も、吊革も、天井から下がった広告も。
 さらに外側の風景も、まるで飛ぶような勢いで過ぎ去る。急行というだけあって、確かに早かった。

 再び、アナウンスが始まる。
「もっとお急ぎのお客様は、間もなく到着の『特急』にお乗り換え願います……」
 青い急行も、通路の中ほどに線路が設けられていた。案内の通り、ずっと後ろの車両から別の電車の走ってくる音が聞こえてくる。「特急」だ。今度は白い電車である。

「そうそう、今日はもっと急いでたんだっけ。乗らなくちゃ」また、客達がぞろぞろと乗り換えていく。
 わたしも不安になって、一緒に「特急」へ乗り込んだ。

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