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米国株 貸借対照表(BS)

貸借対照表(Balance Sheet : BS)から企業の安全性が分かります。BSについて説明していきます。

BSとは

BSは会計期末(End of accounting period)時点の企業の財政状況を表す財務諸表です。BSには、現金、土地、建物、借金等が項目として記載されます。これらの項目を見ることで、企業が借金をたくさん抱えた財政状態なのか、蓄えがたくさんある健全な財務状態なのかを把握することができます。

BSの仕組み

Balance SheetのBalanceとは残高の意味です。BSは大きく分けて資産(Assets)・負債(Liabilities)・純資産(自己資本,Equity)の3つの要素で構成されます。
 BSは2つの部分に分けられ、左側には資産の部(Assets)、右側には負債・純資産の部(Liabilities and Stockholders' Equity)があります。Assetsには、現金、当座預金、土地、有価証券、機械設備、販売目的の商品等の企業が調達した資金の用途(Investing)が記載されます。Liabilities and Stockholders' Equityには企業の資金調達源(Financing)が記載されます。資金調達方法には、銀行等からお金を借りる(借入金)方法と株主から出資を受ける(出資金)方法があります。一般的に借入金等を総称して負債(Liabilities)、出資金等を総称して純資産(自己資本,Equity)といいます。Liabilitiesには返済義務がある一方でEquityには返済義務がありません。Liabilitiesをたくさん抱えれば、毎年たくさんの利息(Interest)を支払わなくてはいけません。多額のInterestの支払いはビジネスを圧迫してしまうため、経営が不安定になることがあります。また満期が到来したら、返済義務があるため、支払いができないと債務不履行(Default)となってしまいます。逆に返済義務のないEquityが多ければ、財務的に安定していると考えられます。BSは「Assets=Liabilities+Equity」という式で成り立ち、この式に当てはめるとBSの不備が分かります。AssetsとLiabilities and Stockholders' Equityは一致している(バランスが成り立っている)ので、BSはBalance Sheetと呼ばれていると主張する人もいます。

資産の部(Assets)

資産の部(Assets)は大きく分けて流動資産(Current Assets)と固定資産(Non-current Assets または Fixed Assets)の2つに分けられます。Current Assetsは現金(Cash)と1年以内に現金化できるもので構成されています。Non-current Assetsは現金化まで1年超かかるAssetsのことです。

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Current Assets

原則的にBS上のCurrent Assetsの各項目は、現金化にかかる時間が短い順に並べられます。しかし、ここで重要なのは、Current Assetsの高い換金性と使い勝手の良さが、かえってビジネスの経済性を弱体化させてしまうことがあるということです。その結果企業は日々の運転資金の枯渇という危機に直面するかもしれません。

Current Assetsは、棚卸資産(Inventories)の売買をめぐるCashのサイクルを形作っています。Inventoriesが小売業者に売却されると、この売上金額は多くの場合、売掛金(Accounts receivable)に計上され、小売業者から回収されたAccounts receivableはCashの項目に計上されます。
Cash→Inventories→Accounts receivable→Cash
というサイクルが何度も繰り返されて、ビジネスは利益(Profit)を生み出していくのです。以下では、Current Assetsに含まれる項目について確認していきます。

現金および現金同等物(Cash and cash equivalents)

現金および現金同等物(Cash and cash equivalents)とは、現金そのものと、現金と同等のもの、すなわち銀行の短期CD(譲渡性預金証書)、3ヶ月ものの財務省証券、現金化しやすいその他の資産等を合わせたAssetsを指します。企業によっては、有価証券(Marketable securities)もこの項目に含めて記載する場合があります。Marketable securitiesには、株式(Equity securities)や社債(Corporate bonds)のような、活発な流通市場があるため現金化しやすい有価証券が記載されます。なお、この項目は企業によっては、短期投資(Short term investment)に含めて記載する場合もあります。

Cash and cash equivalentsが多いとき、企業が大量のCashを稼いでいるという良い解釈と、事業の一部や大量のCorporate Bondsを売ったばかりであるという悪い解釈の2通りが考えられます。逆にCashが少ない企業は、ほとんどの場合、根源的経済性が平凡もしくは貧弱であることが多いです。

基本的に巨額のCashを備蓄する方法は3つあります。1つ目は、Equity SecuritiesやCorporate Bondsを新規発行して一般大衆に売る方法です。2つ目は、所有する事業やAssetsを売却する方法です。3つ目は、運転資金よりも多くのCashを本業で稼ぎ出す方法です。長期投資を考えたとき、3つ目の方法で巨額のCashを持つ企業に投資をしたいです。なぜなら、本業で剰余金を蓄えられる企業は、多くの場合、何らかの永続的競争優位性から好業績を引き出しているからです。企業の現在保有されているCashが、3つの方法の中のどの方法で蓄えられたかは、過去5~10年間程のBSをみればすぐに分かります。ある企業が一時的な企業のトラブルに苦しみ、株価の暴落に見舞われているとき、その企業が蓄えているCashやMarketable securitiesの額をチェックし、直面する危機を乗り切れるだけの財政力があるかを見極めましょう。大量のCashとMarketable securitiesを保有し、Liabilitiesが少量で、Equity Securities発行やAssetsの売却を行っておらず、長期的に収益の一貫性を持つ企業は、優良ビジネスである可能性が高いので、危機を無事に乗り切れる可能性が高いでしょう。逆に、Cashが不足していて、大量のLiabilitiesを抱えている企業は、どんなに素晴らしい経営者が乗り込んでも沈没してしまう可能性が高いでしょう。

棚卸資産(Inventories)

棚卸資産(Inventories)とは、将来売却するために蓄えている販売目的の資産(財貨、材料、原材料、完成後に販売される仕掛品、完成品等)のことです。BS上のInventoriesはBS作成時の日付における在庫品の価値を示しています。多くの企業はInventoriesが無用のものになったり、時代遅れになったりするリスクを抱えています。しかし、他にはないユニークな製品を売っている、あるいは、一般大衆からの安定した需要がある製品を低コストで仕入れ低コストで売っている企業は、自社製品が無用なものになったり、時代遅れになったりするリスクがないです。このような永続的競争優位性を持つ企業では、製品販売を伸ばして収益を向上させているので、注文を期日通りにさばくために、在庫を増加させるから、Inventoriesと純利益(Net Income)がともに増加する傾向があります。

Cash→Inventories→Accounts receivable→Cash
というサイクルが何度も繰り返されて、ビジネスは利益(Profit)を生み出していくのでした。つまり、Inventoriesの積み重ねが売上高(Revenue)になっていくのが通常のビジネスサイクルでしょう。よって、Revenueが減少する一方で、Inventoriesが増加している企業は要注意です。売上原価(Cost of revenue)はInventorieの何倍にあたるのかを表すのが、棚卸資産回転率(Inventory turnover)です。計算では、Revenueではなく、Cost of revenueを用いるのは、RevenueはCost of revenueに売上総利益(Gross profit)を足したものなので、回転率が高くなってしまうからです。Cost of revenueを使えば、企業の儲けの部分を除いた、本当の企業の効率性をみることができます。
棚卸資産回転率(Inventory turnover)
   =売上原価(Cost of revenue) / 期首・期末平均棚卸資産(Average inventory)
Inventoryは、在庫が多くても売れ残りリスクがあり、少なければ売上機会を逃すリスクがあるので、コントロールが難しいといわれています。Inventory turunoverが激しく上下動している企業は、激しい競争市場で頻繁にInventoryを変動させる必要があるので、長期的な競争優位性を持たない疑いがあります。

売掛金(Accounts receivable : A/R)

企業が製品を小売業者に売るときや、サービスを提供するときには、基本的に2つの方法があります。Cashで前払いする方法、もしくは、製品の受け渡し、サービスから30日以内に後払いする方法です。(ビジネスの種類によっては、支払金が30日を超える場合があります。)このようにCashの支払いが繰り延べされ、宙ぶらりんになった本業での売上(Revenue または Sales)のことを売掛金(Accounts receivable : A/R)と呼びます。つまり、Accounts receivableは企業が貸している金のことです。しかし、小売業者の中には、製品を受け取っておいて代金を踏み倒すことがあります。そのような将来起こりうる状況を過去の経験から予測して見積もって備えるのが、貸倒引当金(Allowance for doubtful Accounts)です。BSの表示には、Accounts receivableと、Allowance for doubtful Accountsを2行に分けて計上する場合と、Accounts receivableからAllowance for doubtful Accountsを引いた売掛金純額(Accounts receivable, net)という数字を計上する場合があります。
売掛金(Accounts receivable)-貸倒引当金(Allowance for doubtful Accounts)
                 =売掛金純額(Accounts receivable, net)
後者の純額で表示する場合には、Allowance for doubtful Accountsの詳細は注記(Notes Disclosure)で開示します。

Revenueを計上するとAccounts receivableが計上されます。Accounts receivableがCashに変わっていかなければ企業は生きていくことができません。そこで、貸しで売ってその代金を回収するまでに年間何回回転するのかを考えるのが、売上債券回転率(Accounts receivable turnover)です。
売上債券回転率(Accounts receivable turnover)
               =売上高(Revenue) / 平均売上債券(Average Accounts receivables)
Accounts receivableは、支払期日までの期間が長いほど取引業者側には有利です。競争が激化し、その中で取引先を増やそうと思うと、支払いまでの期間が長くなりがちです。このようにAccounts receivableが増加している企業には次の2つの可能性があります。1つ目は、同業他社との競争が激化しており、取引相手と交渉することのできない、優位性を持たない企業である可能性です。2つ目は、ある種の競争優位性を持つので取引条件で妥協する必要もないので、他社より有利にビジネスを行える企業である可能性です。後者の企業だったら、RevenueとともにAccounts receivableも増加していくので、Accounts receivable turnoverが一貫して同業他社よりも低くなるでしょう。一般的には、Accounts receivable turnoverは小売業等で高くなります。なぜならば、家計を対象としていれば、現金での取引がメインになるためです。一方、製造業や卸売業などの企業を相手にしたB2Bビジネスでは低くなる傾向です。

Non-current assets

BSではNon-current aseetsはCurrent aseetsの次の段に記載され、長期投資、土地および生産設備、のれん代、無形資産、なし崩し償却費累積額、繰延長期資産等が含まれます。

有形固定資産(Property, plant and equipment : PPE)

有形固形資産(Property, plant and equipment : PPE)は、自社での使用目的で、1年超使用する予定の土地(Land)や機械(Machinery)等の有形の資産です。PEEに記載される数字は、取得原価から減価償却費累計額(Accumulated depreciation)および減損損失累計額(Accumulated impairment losses)を引いたものです。永続的競争優位性を持たない企業は、競争から脱落しないように、絶え間なく生産設備(Plant)を更新し続けなければいけないので、Plantの数字が膨らみます。逆に、変更の必要のない製品を一貫して生産し続けることできる永続的競争優位性を持つ企業は、Plantの更新に莫大な費用をつぎ込む必要がないので、一貫して収益を上げ続けることができます。

のれん代(Goodwill)

のれん代(Goodwill)は企業買収の時に発生します。買収価格が買収される企業の時価(Fair value)よりも高い場合にGoodwillの項目に記載されます。長期に渡ってGoodwillが増加している場合、その企業が他社の買収に躍起になっているという状況が考えられます。永続的競争優位性を持つ企業を買っているのならば、この状況は好ましいことだといってもいいでしょう。

無形資産(Intangible assets)

無形資産(Intangible assets)とは、特許権、著作権、商標、ブランド名など、物理的にふれる事のできない資産を指します。第三者から入手したIntangible assetsは、公正価格でBSに記載されますが、自社内で構築された資産(例えば、コカコーラやマクドナルドといったブランド名の価値)はBSから読み解くことができません。

長期投資(Long term investments)

長期投資(Long term investments)にはEquity securitiesやBonds、不動産等1年を超える長期投資の価値が記載されます。Long term investmentsをみれば、永続的競争優位性を持つ他企業に投資しているのか、競争の激しい業界で戦う他企業に投資をしているのか等、経営陣の投資に対する考えかたが分かります。

総資産(Total Assets)

Current assetsとNon-current assetsを足せば、企業の総資産額(Total Assets)がでてきます。
流動資産(Current assets)+固定資産(Non-current assets)=総資産(Total Assets)

総資産回転率(Total Assets Turnover)

総資産回転率(Total Assets Turnover)は、経営者がいかに効率良く資産投資を通じてRevenueをえたのかを評価する方法の1つです。借入金の要素を除外する形で自社の経営状態・財務状態を分析できます。
総資産回転率(Total Assets Turnover)
       =売上高(Revenue) / 期首・期末平均総資産(Average Total Assets)

総資産利益率(ROA : Return on Assets)

総資産利益率(ROA : Return on Assets)とは、企業がどれだけ保有総資産を効率的に利用しているかを示すものです。
総資産利益率(ROA)
      = 純利益(Net income) / 期首・期末平均総資産(Average Total Assets)
企業での営業活動に対する成果の善し悪しを評価したい場合には、分子を営業利益(Operating income)で計算することがあります。ROAは高い方がいいと判断されがちですが、ROAが高いのに競争優位性がない企業もあれば、ROAが低いのに競争優位性がある企業もあります。例えば、ROAの分母にはTotal Assetsが入りますが、資産の大小によって営業活動は全く異なってくるはずです。例えば、資産の低い企業は高いROAを達成しやすいですが、他社が市場へ参入するために発生するコスト(Entry cost)が低いため、長期的な競争優位性を持てる可能性が低くなります。

ROAの式を分解すると、
総資産利益率(ROA)
      = [純利益(Net income) / 売上高(Revenue)] *
             [売上高 / 期首・期末平均総資産(Average Total Assets)]
      =純利益率(Net Margin) * 総資産回転率(Total Asset Turnover)
となるので、Total Asset Turnoverが高まれば、自然とROAが改善されることになります。

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