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雑談#5 メアリー・スー的なものが、今は受けるのかな

 二次創作を手掛ける際、気をつけなければならないとされていることの一つに「メアリー・スー」というのがある。
 メアリー・スーとは、元は1973年に書かれた「スター・トレック」の二次創作小説に登場するオリジナルキャラクターの名前なのだが、そこから転じて、作者自身の分身、過度に自己投影されたキャラクターを揶揄する言葉となっている。
 キャラクターとしてのメアリー・スーは、「スター・トレック」二次創作小説の中で、わずか15歳で大尉となり、カーク艦長やスポック博士も驚くような能力を発揮、最後には危機的状況から仲間たちを救うため奮闘し自らは命を落とす、といった姿が描かれた、といわれている。

 こうした、原作キャラクターを凌駕するような能力、特殊な出自や生い立ち、誰からも愛される人格などを持ち、原作キャラの立場を奪ってしまうようなオリジナルキャラクターは、二次創作の「タブー」とされてきた。なぜなら、二次創作小説の読み手は、あくまで原作の世界観の中で、そのキャラクターが活躍するストーリーを読みたいのであって、何の思い入れもないオリジナルキャラクターは、目障りなだけだからである。それが、原作キャラを食ってしまうような活躍をするとなれば、しらけるどころの話ではないだろう。

 こうした「メアリー・スー」のようなオリジナル・キャラクターが嫌われる理由として、もう一つ挙げられるのは、それが、書き手の願望を投影しただけのキャラクターになってしまいがち、ということがあるだろう。ある意味、書き手の手が加わることで、原作の世界観や解釈を無視して、オリジナル・キャラクターにはどんなすごい能力も付与することができ、人目を惹く容姿や同情を誘う生い立ちなどを設定することができ、それによって、無敵の活躍ができてしまうからだ。自己投影ではなく、「書き手の願望を投影」としたのには、そうしたキャラクター設定が、ありのままの自分を投影したものではなく、「そうありたい」という願望を投影したもの、という意味がある。意地の悪い見方をすれば、現実世界では地味で目立たず、これといって際立った能力もなく、容姿が特別恵まれているということもない書き手が、自分の好きな作品の世界の中で、特別な存在となって活躍したい、という願望を描いただけの作品、それが「メアリー・スー」小説、ということもできる。

 二次創作も、歴史は長い。30年、40年前にはそうした作品は敬遠されたのかもしれないが、今、その一部を読みかじってみると、むしろ原作キャラに自己の願望を投影させた作品、それが主流になっているように思う。結局のところ、「好き」からはじまる妄想あのだから、そうなって当然ともいえるだろう。

 それが主流、というところで最近気づいたのだが、この「メアリー・スー」的キャラクター設定は二次創作の枠を超え、今や一次創作でも幅を利かせているのではないか、ということがある。現在、ライトノベルで主流といってもいいくらいになっている「なろう系」と呼ばれるジャンルがそれだ。

「なろう系」といっても、確固とした定義が確立されているわけではないようだが、元は「小説家になろう」という投稿サイトに投稿されている作品のことをそう言っていたようだ。現在は、そこから内容的な絞り込みがなされ、「何の変哲もない主人公が異世界に行く、或いはそこに転生することで、突如ヒーロー扱いされるといった類の物語の総称」「事故で異世界に転生し、魔術などの特殊能力を得たり現代文明の知識を活用したりして活躍するストーリーが典型」「主人公が異世界に転生して、いわゆる“チート展開”を繰り広げる作品」といった説明が見られるようになっている。私自身、「なろう系」小説を読んだことはないが、だいたい上記のような作品といった印象を持っている。

 特徴としては、何の変哲もない主人公が、異世界で、特殊能力を発揮するようになり、活躍してヒーローになるというストーリー展開、ということになろうか。この主人公のキャラクター設定が、まさに、二次創作を超え一次創作の進出してきた「メアリー・スー」そのものに思えるのだ。

 そして、それが書き手と読み手、共通に持っている願望の投影だとすれば、一次創作、二次創作を含め、小説というジャンルで創作をしている人の多くが、小説とは書き手と読み手に共通の願望を投影したキャラクターが活躍し、それによって自分の願望を満足させるという手段を提供する媒体、と認識されているともいえるだろう。

 ちなみに、手持ちの旺文社国語辞典によれば、小説とは「作者の構想や想像にもとづき人生や社会の一段面を表現する散文体の物語」と定義されている。「メアリー・スー」的キャラクターが活躍する物語もまた、社会の一段面を表現しているだろう。それは、妄想の中でしかヒーローになれない、という諦観なのかもしれない。しかし逆にいえば、活躍、とかヒーローになる、ということの中身、内容に対する固定化した概念が、多くの人を縛っているということなのかもしれない。

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