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短歌連作『八重桜』

夜桜の恋しき心落ち着かず夜半に湯冷めの体震わす
車道越し絡む視線をふっと切るソメイヨシノよ桜並木よ
恋しくも昼に見れぬは夜桜とクラスの違う人気者の子
ため息ではらり散りゆく八重桜我が春までは見届けてくれ

荒梅雨を背負う濡烏女子トイレの窓辺で濡れてただ無表情
耐えかねて天の川へと鯉落ちる七月の君想う八月
渋滞を越えど田舎の路傍には黄色い車輪車輪車輪が
皮膚に浮くラクトアイスをこの舌でねぶる空想日焼けと塩味

綺麗だと車窓隔てた宵月を指差す君に心が揺らぐ
何もかも全てをぐっちゃぐちゃにする大好きな君の大好きな笑顔
渋柿を食わねど胸は早鐘を打ち口乾く告る寸前
月光がゆらりと照らす鷲鼻のおとす陰影にそっと被さる

同輩が知りし白息紫煙なり赤をともせば肺腑黒黒
二、二、一と変則的に繋ぐ手をほどいて放る四十五円
黒板を写さぬ彼の目がじっと映す髪留め地味な赤色
その花は摘みし思いの凝華かな離れれどなお其処此処でみゆ

茂りゆき蘂も落ちける晩春に八重桜散る一人静かに

#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門

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